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第二十一話 必衰 / 滅亡

 警報が鳴り響いた直後、レレアが無線に応答する。


「魔獣の大量発生? 南西の『導脈』噴出口付近で? まさか……」


「陽動だったのか! ここの襲撃は」


 これはまずい。今すぐ現場に向かえる騎士団員はそう多くないはずだ。


「騎士団はどう動くつもりなの?」


 クラリスがレレアに尋ねる。


「すでに五番隊が到着済み。アタシたちはここの事後処理しとくからー。ホラ、早く逃げなよ。追いかけないといけなくなっちゃうから」


 そういえば俺はお尋ね者だった。






 一方、ゼリア南西部、『導脈』噴出口付近。

 ソヌス・ラクーナをリーダーとして『ACE』の一部隊が噴出口を暴走させ、大量の魔獣が溢れだした。


 十年前、『ACE』は魔獣を手懐ける手段を開発しており、魔獣を戦力として利用することに成功。


 溢れだした魔獣を引き連れ、ソヌスを先頭に『ACE』の部隊が街へ進軍していた。


 彼女らの前に現れたのは、杖をついた白髪の老人。アヴァリティアス騎士団五番隊隊長 ジーデン・スパーダム。

 ソヌスが魔獣の上から話しかける。


「こんなところでなにしてんだ? ジジイ」


「それは儂の台詞じゃよ。こんなところで何をしておる? 小娘」


「何って、この国を滅ぼすための第一歩さ。最初の一人になりたいのか?」


「ふはは。この国を滅ぼす? 儂を初めの犠牲者にする? 冗談だろう、小娘?」


 口を開けて笑うジーデン。ソヌスたち『ACE』の構成員の目には可笑しな老人にしか映っていない。理由は単純だ。『ACE』の部隊は百人以上。さらに大量の魔獣が加わっている。一方、老人はたった一人。覆しようのない兵力差が、そこにはあった。


「冗談、かい。そう信じたまま消えな! ジジイ!」


 三匹の魔獣がジーデンへ襲いかかる。

 しかし、その爪と牙は届かない。魔獣の攻撃を避けながらジーデンが話す。


「にしてもお主ら、なかなかやりおるな。アヴァリティアスが何百年とかけて解析しておった『導脈』を掌握し、魔獣を操るとは。研究者たちはいつまで足踏みしておるんだか」


「調子に乗るなぁっ!! お前ら、殺るぞ!」


 魔獣と『ACE』の構成員たちが構えをとる。


「敵はジジイ一人だ! 叩き潰せ!!」


 ソヌスが波導を乗せた大声を出す。揺れる空気。全体の士気が上がる。


 一方、ジーデンは、


「一人、か。お主らに一つ教えておこう。五番隊は儂一人。他の隊員はおらん。副隊長さえおらぬわ。人が足りぬのではない。五番隊は儂一人で十分ということよ――



 "生命なき兵団(ニヒツ・レーベン)"」




 彼らは、音もなく現れた。

 ジーデンの背後に立つ、三百人ほどの兵士。

 突然覆る兵力差。

『ACE』全員の足が止まる。


「な、なんなんだ!? こいつらは……」


「魔獣のようなものじゃよ。波導でできた兵士でな。儂一人で五番隊、なれど儂は一人に非ず、というわけじゃ。行け、兵(つわもの)よ」


 魔獣と『ACE』に襲いかかる兵士たち。ジーデンは兵団の後方へ下がっていく。


「逃がせねぇなあ!! ジジイ!!」


 兵士を飛び越え、ソヌスがジーデンの頭上に現れる。空気の振動を操り、何発もの衝撃波を飛ばす。衝撃波が着弾し、周りから土煙が上がる。周囲の兵士が吹き飛ばされた後、ジーデンが土煙の中から歩み出る。


「単身乗り込んでくるとはの。気概は認めるぞ、小娘」


「さっさと道を開けな、ジジイ。年寄りの時代は終わってんだ」


 構えるソヌス。ジーデンは相変わらず杖をついたままである。


 一瞬の静寂。


 飛び出すソヌス。

 空気の衝撃波を先行させ、ジーデンを吹き飛ばす。

 ソヌスが体勢を崩すジーデンに右腕を振り抜いた。腹に直撃した拳が振動を伝え、内臓を破壊する。


 はずだった。


 拳が空を切る。

 ジーデンはいつの間にか避けていた。老人の体躯であれば確実に当たると考えていたソヌスは、困惑を隠せない。


「なっ、なぜだ? 何で当たってない!?」


「身体の使い方じゃ。ただ兵士を出すだけでは『六天』は張れぬよ。さて、終わりにしようぞ」


 ジーデンが杖の持ち手を抜く。

 内部から現れたのは白銀の刃。

 異様な殺気を感じとったソヌスが後退する。

 しかし、ジーデンは一瞬で追い付いていた。


「さらば。衰えし儂の剣、その身に刻んでやろう」



 翁が剣を一閃する。

 その刃は、命に届いた。






 同時刻、ゼリア西部。

 クラリスとともに移動していた途中、あることに気づいた。


「なあ、この前見つけた地図、見せてもらえるか?」


「いいわよ。はい」


 廃工場で見つけた『地図』のコピーを貰う。ゼリアとその周辺の地図だ。マルとバツの印が二つずつ打たれている。


「えーっと、マルの位置は北部とこの辺で、バツの位置は……」


 クラリスが地図を覗き込む。同時に、気づいてしまった。


「どうしたの? ってまさか!」


「バツは、南西部と東の端。

 『ACE』は、暴走させる気だ! 東の『導脈』も!」


 北と西の二ヶ所で陽動、南西と東の『導脈』が本命だったのか。


「でも、もう! 私たちじゃ間に合わないわよ」


 クラリスが言うと同時に無線が鳴った。


『こちらザイルです。北部の鎮圧は完了したのですが、東で魔獣が大量発生したと! 急いで向かいますが、流石に……』


 スヴェラトールとしても、『ACE』による被害はできるだけ抑えたい。しかし、今回はどうしようもない。


「人手不足が祟ったわ。誰を向かわせても時間がかかる」


「騎士団の配置とかは分かるのか?」


 俺がクラリスとザイルに聞いたそのとき、誰かが無線に割り込んだ。


『ある程度はな。東の端はかなり人が少ないようだ。騎士団も間に合わんだろう』


 先ほど聞いた声だ。クラリスが『スヴェラトールの指揮官』と言っていたか。


『君たちは拠点に戻れ。アンとザイルにもそう伝えた』


「戻れ、だなんて。そしたら東部はどうな――」


『騎士団がヤ(・)ツ(・)を送り込んだ。巻き込まれたくないなら向かわない方がいい』


 指揮官とやらはそう言って通信を切った。

 クラリスが納得した顔をしている。俺も理解した。騎士団はあ(・)い(・)つ(・)を送り込んだのだろう。





 数分前、アヴァリティアス王国首都、キャンド南部。そこには、騎士団一番隊の基地がある。基地の最奥、一般の騎士であれば入ることのない部屋には、二人の人物。


 一番隊隊長『六天』 アルス・エルバート


 一番隊副隊長 ジェーン・ジャンパー


 ジェーンが描いた円の中心にアルスが立っている。


「準備はいいですか。隊長」


「ああ、いつでも行ける」


「では」


 ジェーンが波導を流す。円が光り、模様が浮かび出した。直後、閃光が走り、


 アルスが消えた。





 一瞬でゼリア東部に移動してきたアルス。ジェーンの波導術のおかげである。彼女の波導術は『跳躍転送』。円を描き波導を流すことで、円の上の人や物を任意の場所に瞬間移動させることができる。転送にはインターバルが必要、帰りには介入できないというデメリットはある。それでも彼女が副隊長として認められているのは波導術の効果範囲が理由である。

 転送可能範囲は、アヴァリティアス全土に及ぶ。



「アッチか」


 空中を蹴って移動するアルス。『導脈』噴出口の上空にたどり着く。すでに『ACE』の人物はいない。代わりに、数えきれないほどの魔獣が蠢いていた。


「まったく。気持ち悪いほど集まっているな」


 アルスは呟きながら波導を流す。右手を広げて天にかざした。

 遠く離れた場所からでも分かるほどの波導が空中に迸る。


「"終末因・落星(テロス・アスティル)"」


 彼が操るのは『災害』。あらゆる過程・因果を無視し、強制的に災害を発生させる。

 今回は隕石という『終わり方』を選択したのだ。



 星が落ちた。

 魔獣が消滅する。

 森が焼け、大地が裂ける。

 爆風が野を駆ける。

 遠く離れた土地で、今を生きる人々は思い知る。

『自分たちは、こうして滅びるのかもしれない』と。



 波導術の名は、『滅亡の呼び声(アポカリプス・リンク)』

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