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第二十話 plants

 同時刻、駅前。先ほど衝撃波で吹き飛んだ男が立ち上がる。緑と黒が混ざった髪。蔦に覆われた腕。ジャングルを作り上げた張本人である。


「特徴的なその髪と腕、セルーバ・アマズで合ってるー? 二十年前も会ったねー。このジャングル、邪魔だからさっさと消してくれるー?」


 レレアが男に話しかける。クラリスは"真実の瞳"で確かめていた。すると、男が口を開く。


「本当に、嘆かわしいなお前たちは。これこそが星のあるべき姿だというのに……」


「意味が分からないわね。人の『あるべき姿』を滅茶苦茶にする『ACE』の一員のくせに」


「理解できないならばそれで構わん。ただ、駆除するのみ!」


 セルーバの背後から大量の植物が伸びる。巨大な蔦がうねり、二人を貫かんとしている。

 避けるクラリス。さらにクラリスへ植物が伸びるが、竜化により生じた鱗に弾かれる。

 レレアへ伸びた植物はいつの間にか破壊されており、レレアがセルーバに衝撃波を放つ。セルーバの足下から伸びた植物が彼を持ち上げ、上空へ打ち出す。

 ビルの上に立ったセルーバが祈るように両腕を広げた。


 直後、駅前に蔓延る巨大植物全てが成長し、街を破壊していく。三十メートルなど優に超える植物がその茎、その幹をもってクラリスとレレアを潰しにかかる。


 セルーバが操る植物は彼の波導を纏っているため簡単には折れず、また、あ(・)る(・)理(・)由(・)により枯れることもない。


 クラリスは翼を羽ばたかせて上空へ逃げる。追い掛けて伸びる植物を旋回して避ける。


 一方、地上では


「何もかもボロボロ。ホント、ヒドいコトするねー」


 余裕を顔に浮かべているレレア。彼女に触れた植物は一つ残らず破裂していた。飛び散る残骸。茶色く萎びた草木が山のように積み重なっている。


「目的のためなら非道で構わない。それはお前たちも同じだろう?」


「どうだろうねー? アタシは同じだけどさ。やっぱ『騎士』だから、道を踏み外したくないってコもいるんだよねー」


 ため息を吐くレレア。その脳裏には、真っ直ぐ過ぎる雷使いが浮かんでいた。


「アタシが相手でよかったよ。シエルだとキツかったかなー? ……一応聞いとく。コレ、どうやってくっついてるワケ?」


 レレアが植物を指差す。切れ目の入った茎からは赤い液体が滴りながらも、徐々に再生している。


 クラリスは一目見て気づいていた。植物の異常な成長速度。波導を使っていたとしても、一人の波導術で可能な範疇ではなかった。

「捕まえた人間の生命力を奪っている。弱肉強食が世の常だ。何が悪いんだ?

 それに、お前たちが傷つければ傷つけるほど、肥料(ニンゲン)が弱っていくぞ」


 ニヤリと笑うセルーバ。


「クズが。確実に殺す」


 レレアの顔が歪む。波導の奔流が彼女の周りを巡る。

 植物の残骸を吹き飛ばして蹴り出すレレア。セルーバが盾のように植物を伸ばす。


「クソッ! 性格ワッル!!」


 レレアが盾と接触する直前で上に飛ぶ。その先では先端が尖った植物が何十本も待ち構えていた。そのうちの一本を掴み、体を捻る。鋭利な植物の集団を飛び越え、もう一度接近を試みようとするも、足が止まる。


「いいのか? 派手にやると人が次々死んでいくぞ。お前が殺すんだ」


 草木でできた鎧がセルーバを覆っていた。その末端は他の植物と繋がっており、栄養補給を欠かすことはない。


「動きをサポートする鎧だ。時間をかければ肥料はどうなるか。この鎧を壊せば死ぬ人間は最小だ。無論、できるならば、だが」


 高速で動くセルーバ。レレアの移動速度ではとても追い付けない。さらに、地面から生えた植物が彼女の邪魔をする。動きを制限し、視界を遮る。

 いつの間にか背後に回っていたセルーバがレレアを殴る。波導術を使うわけにもいかず、弾き飛ばされる。


 レレアの波導術は『"表裏の境界(クロスボーダー)"』。

 彼女は、自身の波導をエネルギーとして外界へ放出、もしくは外界のエネルギーを自身の波導として吸収する。

 鎧に触れたまま波導術で吸収しようものなら、捕まっている人たちのエネルギーを吸い過ぎて殺してしまう。

 また、波導の放出で鎧が傷ついても同じことになるだろう。


 そう考えた彼女は、波導術抜きでの防御を強いられた。


 吹き飛んだレレアにセルーバが近づく。迷いを捨て切れなかった彼女を見下しながら、


「ヒトという生物には、情がありすぎる。要らぬ情に流され、力あるものが死ぬ。これは生物の在り方ではない。『ACE』の目指す生命の形ではない! ゆえに、滅びろ。そして生まれ変われば良い」


 セルーバが植物でできた大剣を構える。首を飛ばすには十分な重さだ。

 剣が振り下ろされる。刃が地面に触れた。




 しかし、レレアの首は切れていない。


「なぜだ!?」


 大剣が折れている。青々とした緑の剣はその色を失い、茶色く枯れていた。

 同時に、鎧も枯れていく。蔦がほどけ、バラバラになっていく。


「な、何が……」


 突然の事態に混乱するセルーバ。気づくと、彼の視界には灰色の髪の男がいた。


「植物に繋がってた人たちなら逃がしたぜ。もう、お前が吸える栄養は残ってねえ」





 数分前、駅での戦闘の際に気になるものを見つけた。バルトを叩き落とした地下に植物の根が張っていたのだ。駅の内部にも植物は生えていたが、コンクリートに囲われた内側に藪があるのはおかしい。

 そう考えて根に沿って歩いていくと、根の先には気を失っている人たちがいた。騎士団を呼んで根を切除し、駅の外へ人々を運び出した。





 そして、今に至る。


「いった~~い。いやホントに。結構痛い。骨折れてるかも」


 などと言いつつレレアが起き上がると、上空からクラリスが降りてきた。


「これであなたも終わりね、植物男」


「まだだっ!! 目的を、果たすまではっ!!」


 波導を振り絞る男。蔦が側のビルを揺らし、俺たちに倒れてくる。なんとか回避したが、男から離れてしまった

 地面から生えた木が男を覆いながら伸びる。


「逃げるつもりー? させないよ」


 レレアが右手を構える。波導が集中し、空間が歪む。

 打ち出される凄まじいエネルギー。数多の植物を薙ぎ倒し、男を覆う大木が弾け飛ぶ。

 空中に投げ出された男に灰の槍を投げる。


 しかし、槍は何も貫くことなく地面に落ちた。

 男が避けたのではない。植物が弾いたわけでもない。

 槍の軌道が、曲がった。



 突然現れた壮年の男。こいつが槍を曲げたのだ。


「ほう、これは。随分と懐かしい顔ぶれだ。いや、顔は仮面で隠れて見えないが」


 聞き覚えのある声だ。二十年前、いや、それ以前に聞いた声――


「お前はっ!!」


 思わず声を張り上げる。俺の人生の転換点。全てを失うに至るまでの最初の一歩。そして何より、俺の師を殺した男。


「まさか生きていたとはな……。再会の喜びを分かち合いたいところだが、私にも仕事がある。また会おう。その炎が消えていないことを願っているぞ」


 植物男を抱え、信じられない脚力でビルの上を飛び去っていく。とても追いつける速さではない。

 呆然とするクラリスとレレアの横で、俺は拳を握りしめた。



 そして、息つく暇もなく、警報が響き渡る――

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