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第十九話 硬灰

「植物か? 都市部の緑化計画どころじゃないな」


 ビルの表面を何本もの蔦が這い、地面は木と巨大植物でガタガタになっている。都市の駅前とは思えない光景だ。騎士団員や住民はおろか、『ACE』の姿すら見えない。

 ただ一人、駅の出入口に緑と黒が混じった色の髪の男が立っていた。その両腕は蔦に覆われて花が咲いており、動く度に花粉のようなものが舞っている。

 少しの間遠くから観察していると、クラリスが気づいた。


「植物、まだ成長してる。どんどん拡がってるわね」


「早く止めないとまずいか?」



「まずいねー。いずれ街全体を飲み込むよー、あれは」


 混ざってくるレレア。騎士団から離れて一人で来たようだ。


「しかも、駅の中に『ACE』の部隊が潜んでる。迂闊に近づけないわよ」


 クラリスが"真実の瞳"の透視能力で見た景色を伝える。


「じゃあ植物の男はアタシが引き受ける。そしたら二人は向こうで待機させてる騎士団と一緒に駅に突っ込んでくれるー?」


「私も植物の方を手伝うわ。アレ、一筋縄ではいかないから」


「俺が駅に行こう。騎士団員の援護をすればいいんだな?」


「任せたよー。六番隊に『灰貌』を狙わないよう伝えておくから」


 レレアと六番隊が位置につき、俺はクラリスとともに飛び出す。レレアは騎士団の無線を取り出し、


「――作戦開始」


 レレアの掌から謎の衝撃波が発射され、植物を薙ぎ倒していく。そのまま一直線に駅へ向かい、男の前に迫った瞬間。

 男が手をかざすと、地面から大木が何本も生え始めた。伸びる大木に駅が覆われそうになったそのとき、竜に姿を変えたクラリスが木を破壊する。レレアの放った衝撃波は男を巻き込みながら駅に直撃。


 ジャングルは破れ、駅の側面には穴が空いた。騎士団員は雄叫びをあげながら駅へ走り出す。


 クラリスの背に乗っていた俺は駅ビルの天井を壊して中へ。

 駅の中にも植物が張り巡らされている。止まったエスカレーターを下り、藪を越えて一階へ降りる。


 そこには三十人ほどの黒ローブと、彼らに囲まれた一般人がいた。入ってきた騎士団員たちも、市民を人質にとられていることで動けない。


 今動けるのは俺だけか。


 音を立てないように隅の階段を上る。三階まで移動して上から眺めるが、状況は変わっていない。手すりから身を乗り出す。脚に力を込めて飛び降りる。


「な、なんだあっ!!」


 人質たちの中に落ちる俺に気づいた黒ローブの一人が声をあげるが、もう遅い。


「"灰外殻・融翼"」


 黒ローブと一般人の間を通り、スラグ状になった灰が伸びていく。一般人の間にいた黒ローブを弾き飛ばした後、灰を増やして市民の周りを囲う。これで市民と黒ローブを完全に遮断できた。


 好機と見た騎士団員が動転している『ACE』に、制圧していく。

 灰の囲いから出て俺も参戦しようとしたそのとき、負傷した騎士団員が囲いを破って飛んできた。飛んできた方向にいたのは



「バルト・ドゥーロ……」


「んー、誰かと思えば、スタジアムのときの灰野郎! 久しぶりじゃねえかあ!」


 標的を俺に定めたバルトが突っ込んでくる。流石にここで戦うと被害がまずい。横に飛んで人から距離をとる。追いかけてくるバルト。その手には以前と同じ、ものを引き寄せるマギアが握られている。


「おらああっ!!」


 一際強く踏み込んだバルトが飛び上がってマギアを振りかぶる。


「"灰外殻・黒燐"」


 黒い灰の翼で受け止め、灰で覆った拳を振り抜く。バルトの腹に直撃すると、ガチン、と音が響く。俺の手にもバルトの腹にもダメージが通っていない感じだ。

 ニヤリと笑うバルトがマギアを横に振る。左から迫る一撃を翼で受け流し、右手に黒い灰でできた槍を構える。両翼から灰の矢を飛ばしつつ槍を投げる。『硬化』とマギアで受けるバルトだが、槍が左腕をかすると、赤い血が垂れた。


「随分と硬くなったじゃねえか。おれも、前とは違うけどなあっ!!」


 バルトが大声を張り上げ、マギアを振り回す。


「アトラヴォルテ!!」


 周囲の瓦礫と俺が撒いた灰を吸い寄せていき、先端が巨大な球状になっていく。超質量、超硬度の武器をバルトが構える。

 俺も全身に波導を流し、回避に集中する。

 バルトが踏み込む。俺は後ろへ跳ぶ。

 地面が砕け、空気が裂ける。

 バルトがマギアを振り抜いたそのとき、


「"パージ・アトラクション"」


 巨大化した先端が砕け散る。その破片一つ一つが『硬化』されている。触手を振り抜くが、全ては撃ち落とせない。数百もの礫が目にも止まらぬ速さで飛び散る。壁に穴が空き、柱が崩れる。

 灰を貫通したいくつかの破片が、俺の体も貫いていた。右肩、左腕、右脚、両脇腹の計五ヵ所。その他にもいくつかの掠り傷。


「思ったより効いたな。顔色悪いぜ?」


「まだまだやれるぜ。お前はもう一回負ける覚悟でもしておくんだな」


 強がってはみるものの、かなりキツい。特に、右脚をやられたのが今後の戦闘で不利に働くだろう。

 とりあえず、傷を熱した灰で焼いて止血する。その間にもバルトはマギアを振り回し、再び巨大化させている。もう一度先ほどの攻撃を放つつもりだ。なら、


「させるかよッ!」


 巨大化していく様を黙って見ているつもりはない。バルトに接近し灰の槍で突く。マギアで弾くバルト。その右脇腹を灰の触手で狙う。

 しかし、


「アメぇなあ!」


 右肘と右膝で挟まれ、触手が止まる。そのまま左手のみでマギアで俺を狙ってくる。動かない触手を分解して回避し、他の七本で刺しにいくが、右腕とマギアで防御され、致命傷は避けられてしまう。最後の攻防で距離ができてしまった。バルトがマギアを構える。


「さぁて、ゲームセットだっ!!」


 振り下ろされる巨大化したマギア。先端が爆ぜ、硬化された高速の礫に変わる。散った破片が迫るなか、俺は――




「"灰外殻・融翼"」


 スラグ状になった灰の翼。液体に限りなく近い状態の灰が散弾を吸収する。コンクリートが融け、流れに混じっていく。

 灰を流したまま走り出す。突っ込む俺に気づいたバルトもすぐさま構え直すが、


「重さが足りねぇよ」


 大量の灰とコンクリートの混合物に対し、通常サイズのマギア。百年以上鍛えた達人でもない限り、結果は明らかだ。


「終わりだ、バルト!」


 巨大な灰の翼がバルトを押し潰す。床が崩れて地下へ落ち、バルトは動かなくなった。


「三度目はない。牢獄行きだ。せいぜい口でも固くしておくんだな」


 黒ローブを制圧し終えた騎士団に身柄を引き渡す。





 外では、何かが軋むような音が轟いていた。

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