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転生しても『次も、お前だ』なんて言わないで  作者: タツナミソウ


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5/8

5・揺らぎ

POV:フィシス

 


「あいつは王宮に着いただろうな⋯⋯」


 スタンピードから一日経った夕刻。

 ミュトスの家のリビング。


 私の隣でいつものように花茶を傾けながらミュトスが呟いた。


「⋯⋯そうだね。どう報告するんだろうね」


 二人掛けのソファに身を預け、息をつく。


 ――私とミュトスの存在は、既に広まっただろう。


「まあ、あいつなら上手く言うだろ。⋯⋯フィー」

「⋯⋯ん、どうしたの、ミュー」


 ミュトスの大きい手が、私の頭を優しく滑る。


 彼が私を愛称で呼ぶ時は、喪失の不安を埋める時。

 私が消えてしまわないか、心配しているのだろう。

 確認した訳では無い。けれど、決して短くない時間を隣で過ごして来た。⋯⋯なんとなく、わかってしまう。


 なるべく柔らかく、小さく告げる。


「大丈夫だよ。私、ちゃんとここに居るよ」

「⋯⋯ああ。⋯⋯だが、また削れた」


 じっと見詰める瞳。痛みを堪えているような表情。

 私は、体温を分けるように、ミュトスの頬に手を添えた。


「⋯⋯大丈夫。ね?暖かいでしょう」

「⋯⋯⋯⋯ん」


 ミュトスは睫毛を伏せ、私の手に擦り寄る。そして、一つ息を吐き、身体の力を抜いた。


「お前まで失いたくない⋯⋯お前は、使命を持って転生して来たのに。そんな使命、投げ捨てて欲しいと⋯⋯思ってしまう」

「⋯⋯うん」


 ミュトスは、あの事件を思い出しているのだろう。

 その黄金に、僅かな陰りが落ちている。


 ――ミュトス以外の精霊が、息絶えた日。


 家族も、仲間も、全てを失った幼い精霊。

 長い年月を、一人で生きてきた。


「⋯⋯ずっと、俺だけが生き残った理由を探してた。お前が来るとわかった時⋯⋯その為に生き残ったんだと思った」

「ミュトス⋯⋯」


 いつもは周囲を圧倒させる存在で、鋭い空気を纏っているのに。たまにこうして、弱さを見せる。


「勝手に理由にして、勝手に依存してる」


 言い切ったミュトスに、思わず目を瞠る。

 なんだかくすぐったい胸の内側に、頬が綻んだ。


「⋯⋯ふふ、依存してるの?」


 彼は一拍おいて、物悲しげに微笑む。


「お前が来るまでの三百年、ずっと一人だったんだぞ?⋯⋯お前まで居なくなったら、さすがに壊れる」


 居なくならない――そう言おうとして、寸前で止める。


 この先に待つ運命を、私は知っている。

 その時、自分がどうなっているのか、わからない。


 それでも⋯⋯転生してからずっと支え続けてくれる人。

 ⋯⋯彼には、笑っていて欲しい。

 どうしたら、その不安を軽くしてあげられるだろう。


 言葉が、出ない。


 ただお互いに見詰め合うだけの、どこか優しく、けれど苦しい、沈黙。


 ミュトスの黄金が、揺れる。


「⋯⋯ずっと傍にいてくれ」


 低く、ただ静かに、ぽつりと落とされた言葉。


「いるよ。ずっと」


 まるで懇願するかのような声音に、思考よりも早く口が動いた。


 彼の手に、私の手を重ねる。

 不安ごと全て包み込むように。


 ミュトスは、嬉しそうに――だが、どこか辛そうに笑った。


「⋯⋯はは。約束だからな」

「うん、約束する」


 恋人とも、家族とも違う。

 きっと、それよりももっと近い存在。


 この関係に言葉を当て嵌めてしまえば、崩れてしまいそうで――それが、酷く怖い。


 ふわり、と花茶の香りがした。


「⋯⋯お茶、冷めちゃったね。淹れ直すね」


 魔法でお湯を沸かそうと、ポットに手を翳す。

 その時、ほんの一瞬発動が遅れた。


「どうした?」

「⋯⋯なんだろ?ただの生活魔法なのに」


 目を細め、怪訝な表情をするミュトス。

 その視線を受けながら、もう一度発動してみる。

 今度はいつも通りだ。


「ん、大丈夫みたい」

「そうか。無理はするなよ」

「ありがとう」


 ほっとした顔のミュトスに、微笑み首肯する。


 ――外から妖精達の歌声が微かに聴こえる。

 その声につられて窓を見やると、薄ぼんやりと浮かぶ宵の月。


「そろそろ、明かりを灯そう」


 ミュトスは立ち上がり、魔力を放出する。

 家中の魔石が明るく灯っていく。


 その後ろ姿が――突然ぶれた。


 次の瞬間、映ったのは天井。


 倒れたのだ――そう気付くと同時に、身体の内側を握り潰されたような激痛が走る。

 堪らず嘔吐き、口を手で覆う。

 その隙間から、真っ赤な血が滴り落ちる。


「――!!」


 ミュトスが息を飲む音が聞こえた。

 すぐに駆け寄られ、抱きかかえられる。


「⋯⋯ミュ⋯⋯っ」


 喉笛だけが鳴り、言葉が紡げない。


「っ、⋯⋯⋯か《鑑定》《回復》!」


 ミュトスの声は震えている。


 私に翳す手も、震えているのだろうか――目が霞んで、見えない。


「⋯⋯だい、じ⋯⋯ぶ」


 ゆるゆると手を動かすと、ぎゅっと強く握り返される。


「⋯⋯あいつ。今思い出したな⋯⋯」


 ミュトスの空気が鋭く変わる。重く、冷たく。

 パキ、パキと、家中が軋む音が聞こえる。


「⋯⋯くそ。間の悪い」


 鋭い殺気。それでも、回復魔法はかけ続けてくれる。

 少しでも安心して欲しくて、精一杯笑みを作る。


「だい、じょぶ⋯⋯だから⋯⋯」


 ――そんな顔、しないで。


 言葉にならずに、唇だけで伝える。


 私の意識は、そこで途切れた。


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