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転生しても『次も、お前だ』なんて言わないで  作者: タツナミソウ


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3/8

3・言えない理由

POV:ノア

 

(こんな魔法は知らない。いや、存在していいはずがない)


 ノアは目の前で起きた事象を、飲み込めずにいた。


 失われた腕や足の断面から、光が枝分かれするようにのび、まるで血管のように脈を打ちながら肉を作り、骨を繋ぎ、皮膚を覆っていった。


 世界の理に反している魔法。


(本当にただの精霊なのか?⋯⋯この妙に騒がしいような気分はなんだ?)


 隣に立つ精霊を見やる。

 団員達に口々に礼を言われ、それに丁寧に答えている。

 見るからに心優しき精霊である事はわかる――が。


「⋯⋯お前ら、もうそのくらいにしておけ」


 団員達を下がらせ、精霊に向き合う。

 その黄金と視線が合うと、なぜかドキリと心臓が跳ねた。


「宜しければ少し、お話出来ませんか?」


 僅かに瞠られてから、柔らかく細められる瞳。


「――ええ、いいですよ」


 会いたいと思っていた、精霊。

 ついに会えた喜びは確かにある。だがそれよりも、理解出来ない胸の騒がしさ。その正体が知りたかった。


 精霊を外へ誘い、天幕から暫く歩く。


 風が梢を揺らし、夜気が肌を撫でる。


(⋯⋯ここまで来れば、誰にも聞かれないか)


 歩みを止めると、ひとつ遅れて足音が止まる。


 振り返り彼女を見る。


 まるで、月明かりが彼女に吸い寄せられているようで――


「あの?大丈夫ですか?」

「っ⋯⋯!も、申し訳御座いません」


 どうしても目を奪われてしまう。

 それも、無意識に。


(――しっかりしろ)


 自分を叱責してから、小さく息を吐く。


「いくつか質問させて頂きたいのですが⋯⋯お名前をお伺いしても?」

「フィシスと申します。あなたはアルデバラン様ですね」

「ええ、どうぞノアとお呼びください」

「⋯⋯ノア、様」


 どくんと鼓動が耳に響いた。

 どこか懐かしく、苦い感覚が胸に広がる。


「⋯⋯ありがとうございます。あの、今回の瘴気の発生源ですが、どの辺りだったのでしょうか?」


 一瞬、彼女の瞳が揺れたように見えた。


「⋯⋯イリーニ大森林の中央に湖がありまして、そこで発生したようです」

「なるほど。なぜ、なのでしょうか。聖域であるはずですが⋯⋯」

「そう、ですね」


 言葉は途切れ、悲しそうな顔で目を伏せられる。

 言いたくない何かがある――それは明白だった。

 だがそれでも、立場上引けない。


 真珠色の髪が、光を弾き風に遊ぶ。


 沈黙に耐えきれず、言葉を発そうとしたその時――突然空気が変わった。


 全身を針で刺されるような重圧。

 意識が警戒に動いた、その一瞬。

 光とともに男の精霊が現れた。


 向けられた黄金の瞳に、明確な敵意が宿る。

 ひゅ、と喉から音が鳴った。


「ミュトス⋯⋯」

「お前、フィシスに何をした」


(なんだこの男、冗談だろ⋯⋯!?)


 気を抜けば意識さえもっていかれる――それは理解できた。

 無意識に魔法を展開しかける身体を理性で押さえ込む。


「ミュトスやめて、大丈夫だよ」


 フィシスのその一声が解放の合図だった。

 額に滲む汗をそのままに、最上の礼をとる。


「王宮筆頭魔術師の、ノア・アルデバランと申します。今回の瘴気についてお話をさせて頂いておりました」

「⋯⋯それで、フィシスは何と言った?」

「発生源が湖と言う事以外は、何も」


 呼吸が浅い。意識して肺に空気を送り込む。


「何も言えてない」


 消え入りそうな声音が、ぽつりと落ちた。


「そうか⋯⋯それでいいフィシス」

「っ、でも」

「俺のいない所では駄目だ」


 きっぱりと言い放たれ、フィシスは口を噤む。


「⋯⋯理由は、わかるな?」


 次いだ声音は凪いでいたが、どこか焦燥が滲んでいるようだった。


 そっと伸びた指先が、フィシスの頬に触れる。

 壊れ物を確かめるように。

 熱を測るように。


 その指先がほんの僅かに震えているように見えた。


「⋯⋯うん。軽率だった、ごめん」


 彼女に向けられたその全てに、確かな慈愛を感じた。だが⋯⋯


(この男、何を恐れている?)


「――さて、ノア・アルデバラン」


 ゆっくりとこちらへ視線がうつる。

 先程までの圧は消えていたが、それでも僅かに身体が反応してしまう。


「お前は、瘴気の原因を知る必要がある⋯⋯それは理解している」


 低く、芯のある響きが続く。


「だがそれは、知れば終わりでは済まない」

「⋯⋯どういう、意味でしょうか」

「お前自身が壊れる可能性がある、という意味だ」


 刺さるような沈黙が落ちる。

 押し出した声は微かに震えた。


「⋯⋯私が、壊れる?」

「記憶、感情、魔力。何が起きるかわからん」


 ミュトスの視線がフィシスへ向く。


「⋯⋯だから、フィシスは躊躇っている」


 フィシスは俯いたまま小さく首肯する。


「⋯⋯うん」

「大丈夫だ、フィー」


 何が隠されているのか予想もできないが、精霊が言い渋るほど悪い事なのだろう。

 背筋が寒くなる。


「ノア・アルデバラン。お前に選ばせる。聞くか、退くか。⋯⋯だが、一つだけ言っておく」


 黄金が鋭く細まり、ひたと見据えられる。


「フィシスを傷付けるなら、俺はお前を止める」

 

 一瞬、理解が遅れる。


「⋯⋯はっ⋯⋯?」


 上擦った声だけが残った。


 (私が、傷付ける⋯⋯?)


「⋯⋯そんな事はしません」


 そう答えると、フィシスは目を瞠った後、困ったように微笑んだ。


 退くという選択肢は無かったが、彼女の表情を見て“知らなければならない”と、そう思った。




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