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7話 終局 決戦、そして破局

ガギィン!!!!

勢いよくぶつかる刀は甲高い音を響かせながら、周囲の空気を払う。

「さぁて、見定させてもらうぞ。英雄ッ!」

言葉の両手を瞬時に切断し、握っていたはずの刀はその場で手ごと落ちる。

「なっ!?」

鍔迫り合いしていた打刀は自由となり、そのまま言葉を襲う。

強烈な力で振り切られる刀は、言葉の全身の骨を砕きながら吹き飛ばす。

「ぐっ……」

切り落とされた手を生やし、右腕を地面につけて、肉を削り落としながら勢いを殺す。

「『加速・三速ッ!』」

地面を踏み締めて、岳滅鬼に迫る。

気づけば岳滅鬼の手元から剣が消えており、拳を構えるだけだった。

「俺相手にはいらないってかッ!」

全身の力を練り上げ、岳滅鬼を殴ろうと右手を引いた時。視界の端で回転する刀が目に入る。

「え?」

背後に一本、左右の側面に一本ずつ、そして俺の目の前で回転した斬刀を岳滅鬼は掴み取りながら、勢いよく振るう。

四刃一刀流(しじんいっとうりゅう) 陣魔閃」

一刀目で逆袈裟斬りで左腕を切り落とし、

二刀目は背後の打刀を振って背骨を砕き、

三刀目は側面の斬刀を回転しながら一閃し、胴体を切断して、

四刀目は言葉の上半身を打刀で地面へと押し付ける。

「ガハッ」

押し付けられた勢いで言葉の肉体は全身にヒビが入るが、肉体は修復される。

「『吹っ飛べッ!』」

「ぐおッ!」

叩きつけた言霊は岳滅鬼をわずかに逸らし、距離を取らせることに成功する。

「ハァハァ……」

流れるような体捌きに、強烈な剣術。

自己紹介代わりに放たれたであろう技だけで、強いことがわかる。

「『修羅』」

体色は黒く染まっていき、鬼となる。

「完全異形化か。無難な選択だな」

「黙れッ!『身体極化』+『五速ッ!』」

極限まで加速した言葉が拳を繰り出すが、それを見切っていたのか、岳滅鬼は言葉の拳の前に交差した2本の打刀を押し付ける。

「マジかよ」

「足りんッ!」

容易く刀は振るわれ、言葉は体勢を大きく崩す。

「なっ!」

「フンッ!」

バットを振るうように刀の側面が言葉にぶつけられ、コロシアムの壁に激突する。

「……痛ぅ」

四つ腕を維持し続け、それを戦闘技術まで昇華してやがる。そして、動きを見切っていたと考えると。

「常時、異能を使っているのか」

「違う。常時、完全異形化だ」

「なんだと」

「何も驚くことはない。強者との愉悦を楽しむために、"強く在り続けること"は当たり前だろ?」

いくらなんでもめちゃくちゃだろ。

完全異形化を、反動なしでそれを常時展開するなんて。

「休憩は終わったか、英雄よ」

「だから、それで呼ぶなって言ってんだろうがッ!」

加速で瞬時に動き、落ちたままの刀を拾って、岳滅鬼に向かって切り上げる。

が、岳滅鬼は冷静にその刀を刃で滑らせ、横にそらす。

「いい、負けん気を感じる。だが、それだけだ」

岳滅鬼が刀を言葉に向かって振り下ろそうとした瞬間、言葉はすでに刀を握っておらず、両手で刀を迎え撃ち、両手で刀を止める。

「真剣白刃取りだと!?」

「負けっぱなしは性に合わないんでねッ!」

足に力を込め、岳滅鬼の胸部を蹴り抜く。

「ぐっ」

岳滅鬼はわずかに呻きながら、体勢を崩す。

「受けてもらおう、これが俺が知り得る武の極致だッ!」

地面を踏み砕きながら、岳滅鬼の顎目掛けて拳を放つ。

「ガハッ!」

撃ち抜かれた衝撃で岳滅鬼はわずかに浮きながら血を吐くが、お構いなしと言わんばかりに言葉は続ける。

「『非天無獄流・六昆星乘(ろっこんせいじょう)ッ』」

加速と修羅と身体極化の三重強化によって放たれるそれは、並の人間であれば爆散するものだが、岳滅鬼は形を保ちながらコロシアムの壁に激突する。

「なるほど……、それはお前の武術じゃないな。英雄よ」

六昆星乘。

顎破壊、四肢破壊、急所突き。

どれをとっても人を殺すと言っても差し支えない武の極致と言ってもいいもの。

「怪物相手にはそれらは例外となる……ってわけか」

攻撃したはずの俺の手が砕けているのが何よりの証拠ってやつだな。

「チッ、厄介だな。どいつもこいつもッ!」

「来いッ!英雄ッ!」

「だからそれで呼ぶな!」

互いに踏み込む。

それと同時に岳滅鬼は3本の剣を投げ飛ばすが、言葉はそれを横目に見ながらさらに加速する。

「はっ!たった一回で術理を解していたのかッ!それでこそ英雄!」

言葉は再び拳を振りかぶる。

そして、岳滅鬼は打刀でそれを受け止める。

「ウウ、オオ、オオオオッ!」

「足りねぇなぁ!英雄よぉ!」

再び言葉は力負けをして、3本の刀が飛び舞う結界へと吹き飛ばされる。

「マジかッ」

岳滅鬼はすでに言葉の背後に回っており、打刀を振り抜こうとする。だが、それを見ていた言葉は口を開く。

「『止まりやがれッ!』」

「何ぃ!?」

ガチりと止められた岳滅鬼に飛ばされる勢いそのまま激突して、岳滅鬼の顔面を掴みながら、言葉は加速する。

「いい!実にいい!命をかけた戦いとは、こうでなくてはいけないッ!」

2本の腕が言葉の腕を力の限り掴んでズタズタにしてから、飛んできた2本の刀を手にする。

「くそッ!」

「ハァァァァァッ!」

言葉の肉体を細切れにしてから、顔面を殴り飛ばす。

「ガハッ」

間違いなく致命傷であったが、死ぬことを許さない言葉の肉体は瞬時に回復させる。

「ウオオオオオッ!」

血だらけになりながら、全身をズタズタにしながらも、意識を半分無くしながらも、それでも言葉は殴り掛かろうと突撃する。

だがそこに、周囲に浮かぶ四つの刃。

「……ッ!?」

「四刃一刀流 四天刃」

同時にも等しい速度で振り回される四つの刃は、言葉の顔の半分以外の存在を細切れにする。

「……………」

身体のダメージはひどく、喉もまともに機能しないため、言葉を紡ぐことすらできない。

「ここで終いか、英雄よ」

「……………」

「本当に!これで!終わりなのかッ!」

「………………」

「ダメだろ!お前は!貴様は!我を殺すという宿命があろうがッ!あれだけ昂らせておいて!あれだけの力を見せておいて!それが天井とでもいうんじゃないだろうなッ!」

「……………」

「チッ、やはり貴様など英雄などではなかったか」

岳滅鬼は言葉をその場でゴミのように放り投げる。

「…………………」

限界だ。指先一つ動かせない。

これが死ぬってことか。

言葉の肉体は細胞を再生させようと構成を始めていたが、その諦念と共に止まる。

「………………」

その時、言葉は百道の言葉を思い出していた。

『強かったらやめるのかい?弱かったら戦うのかい?君はそんなつまらない選別をしながら、僕たちと戦ってきたのかい?』

そうだ。

敵が弱いから戦っていたわけじゃない。

敵が強いからと言って、諦めていい理由にはならない。

俺が戦っているのは、目の前の誰かを救うためだ。

「…………てよ」

やらなきゃいけない。

俺がここで倒す。

こいつをここで俺が。

「…………ま………よ」

「うん?」

「待てって言ってんだろうがよッ!」

全身を無理矢理再構成して、不完全な肉体でなんとか立ち上がる。

「負け犬が何をしている」

「負け犬だと?まだ、負けてねぇよ」

足りない。力が足りない。

こいつを倒すのは、より明確な力がいる。

「そんなボロボロで、いったい何をするつもりなんだ」

「黙ってろよ。強いやつとの愉悦を楽しみたいんだろ?その境地に今すぐ行くから待ってろよ」

ズタズタの上着を脱ぎ去り、全身から異能を最大出力で発動させる。

言葉から噴き出す力の奔流に、世界は絶叫を上げるように地割れを引き起こし、喝采の如く割れんばかりに大気は鳴動する。

「まさか、お前まだやれるのか」

足りないのなら、命を賭けて、全部を乗せろ。

今まであった異能の全て。

漏らすことなく、余すことなく、俺という人間の一身に込めるッ!

「『悔恨があるのならば、無力を呪おう。理想が遠いのならば、在り方を喰らい尽くせ。それでも叶わぬ夢ならば、世界を引き裂く。呪いを器に、絶望をこの身に流し込め。見晒せよ、俺が怪物だ』」

宣誓のような詠唱ともに、言葉の肉体は内側から解け、黒い光を放つ柱となる。

「まさか、怪物(そっち)が本性だったとはな」

一度自分の存在を細切れにして、細胞一つ一つに異能を組み込むように再構成をする。

歴木言葉という生物を、自分が想像しうる最悪な独自の怪物として構築する。

黒い光はやがて収束していき、その中から人の形をした怪物が生まれ出でる。

髪は白く染まって地面につくほどに伸びる。

全身には黒いヒビが入り、それは鈍く光を放つ。

「異常、異形、異質。三類混合。『破局化(カタストロフ)』」

偽りの外郭は解け、世界が視線を向けるように雲間から光が差し込む。

「見事ッ!俺のために人をやめるかッ!さいっこうじゃないかッ!さすが俺の英雄ッ!」

言葉は手元に目を落とす。

ポロリと目元のヒビからガラスのように肉片が零れ落ち、それは地面につく前に霧散する。

「待たせたな」

岳滅鬼の前へと立ち、言葉は拳を構える。

「おうともさ」

岳滅鬼は4本の刀を構える。

殺意と狂気が捩れ合い、極限で放たれるそれらは対消滅を引き起こし、やがて訪れる静寂。

空気も、風も、音も、

有象無象の侵入を一切許さない超越者のみの領域。

「「…………………」」

一息分の空白。そしてーーーー。

「オオッ!」

「ハアッ!」

二人は再び激突を始める。

爆発のような衝撃波が起き、コロシアムごと周囲は更地となる。

先ほど鍔迫り合いにもならなかったが、それが打って変わって互角の力比べとなる。

「ハハッ!ハハハハハッ!さいっこうだッ!」

「るっせぇ!」

殴って、切って。

殴って、切って。

刹那にも等しい時間。

破局化による強化を受けた言葉の腕は、切られた側からラグもなしに再生され、切り離されるという過程を失くす。

「ハハハハハハハハッ!」

「オオオオオオオッ!」

ノーガードのインファイト。

先ほどまで手数という絶対的な不利を押し付けられていた言葉だが、『破局化』によって身体能力が時間経過によって加速度的に高められ、その行動速度は岳滅鬼を超える。

「これならどうだッ!」

突き出される刀は言葉の肉体を貫くが、ハサミのように閉じられる二刀は瞬時に受け止める。

「『吹き飛べェ!』」

叫ぶように放たれる言霊は岳滅鬼を襲い、今度は軽々と空中へと吹き飛ばす。

「行くぞ、ここからが本領だ」

ビキビキィ。

言葉は力を込めると共に、全身のヒビが少し広がる。踏み締められた地面は隆起をし、地割れを引き起こす。

「フンッ!」

岳滅鬼は、迫り来る言葉に合わせるように手元にあった打刀を身体ごと回転させながら振り下ろす。

言葉はその軌道を正確に見抜き、拳を叩きつけて刀を半ばから折る。

「なっ!」

「借りるぞ」

『破局化』によって言葉は自身の異能を無理やり引き出している。それによって、自身の内側にいる何かの経験を引き摺り出す。

「天威崩拳」

繰り出されると共に言葉の手が青く染まり、岳滅鬼の鳩尾をぶち抜く。

「ガハッ」

言葉から放たれたかつてない破壊力を持った拳は、初めて岳滅鬼にダメージらしいダメージを負わせる。

「落ちろぉ!」

そのまま岳滅鬼の腕を掴み取り、地面へと投げ飛ばし、空中を蹴って、足を繰り出す。

「甘いッ!」

岳滅鬼は言葉の足を掴みながら回転を始め、地面へと叩きつけた後、さらに上から刀を叩きつける。

体を爆散させるほどであった一撃は、今はもう言葉の薄皮一枚だけを裂くに留まる。

「まだまだッ!」

負けじと岳滅鬼は刀を振り下ろし、重ねるように刀を打ち付ける。

「『止まれッ!』」

「……ッ!」

止めた瞬間に今の状況から言葉は脱して、踵で岳滅鬼の頬を打ち抜く。言霊はその瞬間に効力を失い、体を大きく反らせる。

「グフッ」

「まだまだッ!」

岳滅鬼の胸部に向かって強く押し出すように掌底を繰り出す。

「非天無獄流・破岩一掌ッ!」

「ガハッ」

あまりの威力に岳滅鬼は吐血しながらフラフラとよろめいた後、片膝を地面につく。

「フハハハ、ハハハハハッ。素晴らしい……、俺の命が死に触れているのは初めてだ」

パンパンと手を叩きながら、岳滅鬼は口端に血を滲ませ、恍惚の表情を浮かべる。

対照的に言葉の肉体のヒビはどんどんと広がっていき、苦悶の表情を浮かべる。

その隙間からは、黒々とした泥のような何かが漏れ始める。

「死に触れている………か。余裕そうで羨ましいよ」

言葉が発動している『破局化』。

それは毎秒死に続ける言葉にとっての歪な異能の極致。不死を前提とした、人間失格の烙印のようなもの。

「フッ、余裕なもんか。かつてない強敵に気分が昂ってるんだ。許せよ」

互いにコロシアム中央へと歩く。

岳滅鬼は折れた刀を放り投げて3本の刀を構え、言葉は一本の刀を構える。

互いに距離を詰めながら、殺意を練り上げ、異能の出力を最大値まで高める。

「英雄よ、最終ラウンドと行こうッ!」

「だから、俺は英雄じゃねぇって言ってんだろうがッ!」

ギィンッッ!

衝突した刀は火花を散らし、甲高い鉄の音を鳴らす。

「オオオオオオオッ!」

「ガアアアアアアッ!」

再び始まるインファイト。

今度は刀同士。

互いの体に無数の切り傷をつけながら、引くどころか逆に近づきながら刀を交わす。

切る。斬る。切る。斬る。

全身で、全力で。

互いにその存在を刻み合いながら、互いにその存在を削り合う。

呼吸すら許されない、鬼気迫る攻防。

戦闘狂には幸せな時間で、言霊使いにとっては死を強制する時間。

だが、互いに怪物を享受できる全霊の時間。

しかし、楽しい時間とは長くは続かない。

「フゥンッ!」

「甘いッ!」

振り下ろされる腕に対して、言葉は冷静に一閃し、持っている刀ごと切り飛ばす。

「これならどうだッ!」

だが、岳滅鬼はそれに怯まない。

さらに側面に次撃を加えんと腕を振るが、言葉は刀を瞬時に持ち替えて、その腕も切り飛ばす。

「素晴らしい」

「ぐっ」

三回目の攻撃に言葉は対応することができず、無理やり距離を取らされる。

「ハァハァ…………」

やばい。目が霞む。

電源がオンオフを繰り返すようにぶつぶつと意識が途切れる。

「限界のよう………だな」

互いに疲弊して、このまま戦いは消耗戦に突入すると思われたが、それを二人は拒絶する。

「「次で、最後だ」」

2本の腕、一本の刀。

これで、互いに同じ条件。

言い訳の余地も許さぬ状況の最中、両者は消えかけた闘志を再び練り上げる。

「「……………」」

超越者の領域はすでに解け、風は二人の髪をゆらめかせる。

互いに無言のまま、つま先から刀の先まで闘志を巡らせる。

そして、示し合わせたように駆け、すれ違いざまに一閃する。

二人はゆっくりと歩いたあと、互いに振り返って、その結末を目撃する。

「見事……、英雄よ」

岳滅鬼の肉体は斜めに入った大きな切り傷から血が勢いよく噴き出し、力なく膝を折った後、そのまま倒れる。

言葉はそれを見届けた後、その場で鞘を拾い上げて、刀をその中に収める。

「斬り捨て御免。ってね」

ドックン。

戦闘が終わった安堵ともに、言葉の心臓が強く拍動する。

「くっ…………」

破局化を解いた言葉に容赦なく反動はついて周り、言葉の肉体を容易く蹂躙する。全身からとめどなく黒い泥と血が溢れ出し、強烈な虚脱感が襲う。

「…………ヤッベェな…………これ」

言葉の意識はそこで途切れ、その場でばたりと倒れる。

岳滅鬼との戦いはわずかなラグはあったが、相打ちという形で幕は下ろされた。

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