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7話 後章1 戦争の『赤』

「なんで私が…………」

修多羅は空を見上げながら溢す。

「しょうがないじゃないですか、先輩が寝てる以上ディーバさんの護衛を修多羅さんにしかお願いできないんですよ」

「ごめんね、砕破ちゃん」

半径5メートルに穴が空いているように、私たちを中心に人がいない。

異能の常時展開だなんて、銀鏡さんは本当に強くなったのね。

「近づけば異能者ってことか」

「これぐらい離れてれば対処はしやすいですからね。まぁ、何か起こったら私たちの場合はその人を殺すことになるんでしょうけど」

「そうね。言葉みたいに、手加減をする余地が挟まりそうもないからね」

と言っても、今のあいつは即殺すんだろう。

そういう人間に、そういうモノに、あいつはなってしまった。

「銀鏡さん。最近のあいつをどう思う?」

「先輩っすか」

「えぇ、あなたから見ても、おかしいと思う?」

「おかしい。というよりも、容赦がなくなったというのが正しいんでしょうね。自分にも他人にも、今まで躊躇っていたはずの選択肢を取れるようになったんでしょうね」

「躊躇ってた選択肢………ね」

「わかりますよ。強くなったわけじゃなくて……」

「壊れ始めているってのが正しいんでしょうね」

壊れていることがわかっていても、あいつはきっと戦う事をやめはしないのだろう。

死ぬことが日常である言葉にとって、壊れること自体は日常茶飯事なのだろう。それがたとえ肉体的な意味だけでも、精神は麻痺するものだ。

「無力だ。私は」

「私もですよ」

あいつを救えるほど、私達は強くない。

「それで、なんで街に来たのよ」

「ライブの準備があるんですよ。ね、歌さん」

「う、うん。今度武道館でライブすることになったんだ」

「武道館って、すごいわね」

「うん、引退ライブだからね」

「え、引退するんですか!?」

「まだ公式発表してないけどね」

武道館ライブを最後に引退か。

アーティストの生態を私は知らないが、目指すべき地点として、至るべき極致としては、最高峰の舞台というわけか。

それを最後に据えるというのは、どれだけの贅沢なことなんだろうか。

「私で言えば、歴史上の人物を倒すとか?」

「修多羅さん並みの武術家なんて、歴史上でもそうそういないですよ」

「砕破ちゃんはそんなに強いの?」

「先輩を真正面から叩き潰すぐらいですからね」

それは違う。

言葉と対峙した時、あいつは異能を全く使わなかった。

殺すつもりでもなければ、引き分けるつもりすらなかったのだろう。

そうでなければ、私の武術の模倣なんて愚行はしなかったはずだ。

そして、今戦えば10秒も目の前に立ててないはずだ。

「ねぇ、言葉君って、なんで死なないの?」

歌は、単純な興味本位で二人へと質問した。

「学校で戦ってた時、明らかに致命傷とかのレベルを遥かに超えていたよね。死んでいた………ってよりも、死にながら戦っている………みたいな」

喉の引っ掛かりを解消するように、歌は二人へと質問をぶつける。

「不死体質って、先輩は言ってましたけどね」

「不死……、体質?何よそれ、そんなの聞いたことないわよ」

「私もよくわかりませんが、本人がそういうのでそういうもんかと」

「不死………か」

「どうしたんですか、歌さん」

「いや、不死っていうなら死んでから治るっていうのが通例だよね。死んでから生き返って、そして戦う。これなら理解ができるけど、彼の場合は死んでいるはずなのに意識が途切れずに戦えている瞬間があるように感じる」

「それって、どういうことよ」

不死ではなく、それに似た何かということ?

「いや、私と戦っていた時は少なからずそのプロセスを踏んでいたわよ。死んで、意識が消失して、戦ってたはず………」

あれ、石動ってやつと戦ってた時は、歌さんの言うとおり死にながら………。

「つまり、不死が変わった?」

ドォン!

修多羅が疑問を浮かべると共に、隕石が落ちたような爆音が響き渡る。

「何が起きて………」

「上、上っすよ。修多羅さんっ!」

銀鏡の声に急かされながら上を見ると、そこには黒い塊が19個と、静かに街を見下ろす赤い四つ腕の異形の怪物がいた。

「何よ、あれ………」

異様な光景の中に、異形の姿を持つ人間。

一際異彩を放つそれは、果てしない強者の圧を周囲に垂れ流す。

「あれは、やばい!」

「ちょ、修多羅さん!?」

「あなた達2人はすぐさま避難しなさい!」

修多羅はそいつの着地点を目指して、勢いよく走り出す。

脳から放たれる全霊の警報を無視して。

「私にとっての武道館は、そこになりそうね」

悲鳴に戸惑う人々の流れに逆流しながら、ビルの隙間を抜けて広場へと出る。

怪物達の流星雨は落ちるだけですでに惨状を生み出しており、周囲一帯は焼け野原へとなっている。

「来る」

轟音を鳴らしながら空から降り立つのは、赤き四つ腕の怪物。

「出迎えご苦労。強き者の波動を放つ少女よ」

でかい。2メートルほどはあるだろうか。

肉体というよりも、その様相全てがまるで神社やお寺で飾られている像のような肉体。

「この際馬鹿正直に聞くけど、あなたの異能は何かしら」

「いいぞ、そのまっすぐさ。ならば、それに応えよう」

岳滅鬼は全身に力を入れながらマッスルポーズを取ってアピールをする。

「我が名は岳滅鬼。そして、異能は《阿修羅》。見ての通り、異形系の異能者だ」

「私と同じね」

「ほう?我の前に立つのは只者ではないと思っていたが、まさか同系統の異能者とはな」

「ええ、そうね」

リストバンドを片方だけ外し、遠くへと放り投げる。その時、修多羅の異能は自動的に発動され、2本の角が隆起する。

「…………ふぅむ」

岳滅鬼はジロリと修多羅の肉体を見回し、2本の腕を組み、2本の腕は構えを取る。

「まずは見定めさせてもらおうか。お前の実力を」

「ええ、こちらもお手並み拝見させてもらうわ。その慢心をね」


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