7話 中章4 決壊③
互いに拳を構えて、ピタリと止まる。
周囲から人々はすでに避難しており、静寂だけがその場を包む。
街の隙間を風が貫いていき、二人の間を駆け抜けていく。
風によって、近くの看板が地面にガタンと音を立てて落ちる。
「フッ!」
「オオッ!」
1号の鋼鉄の拳と言葉の拳がぶつかり合う。
「………ぐっ」
腕から肩にかけて、衝撃で言葉の骨にわずかなヒビが入る。言葉が痛みに悶えるわずかな瞬間に、1号は言葉の懐に潜り込む。
「いくわよ」
いつの間にか1号の腕は両方ともに鋼鉄となっており、その間を電撃が走る。
「レールガンって知ってる?」
両手で言葉の衣服を掴みながら、両腕の電磁場の中で、形成した鉄の球を凄まじい速度で回転させる。
「なっ」
「吹き飛べッ!」
打ち出された球は言葉を勢いよく空中へと押し出す。
「ガハッ」
言葉は自らの存在定義を変えたことにより、人間以上の硬度を持ってしまったがために、レールガンの威力をまともに受ける。
「随分な挨拶………だなぁ!。『身体極化ッ!』」
腹の中で回転し続けていた鉄球を握りつぶしてから、瞬時に1号の目の前へと移動する。
「なるほど、そう使っているのね」
「喰らっていけ、俺の挨拶だッ!」
振りかぶる言葉の拳に対して、1号はそれに合わせて手を大きく開いて迎え撃つ。
「《吸収ッ!》」
「…………ッ!?」
1号のその言葉と共に、言葉の力は強化した分の半分の力を奪われ、1号は奪った力で拳を受け止める。
「複数異能だとっ!?」
「もう、あなただけの特権じゃないのよ。異能殺しッ!」
驚く言葉の顎を蹴り上げ、その場で飛び上がって一回転しながら言葉の顔面を蹴り抜く。
言葉近くのビルに突撃し、オフィスの中をそのまま転がり、コピー機にぶつかって止まる。
「………成程」
あの感じであれば、異常系の発露は相手に餌を与えるようなものか。
「考え事してるの?随分と悠長だね」
顔を上げるとすでに1号がおり、攻撃せんと拳を振りかぶっていた。
「『吹っ飛べッ!』」
吐き出された言霊と共に1号はビルの窓をぶち破りながら外へと吹き飛ばされ、言葉もそれに続く。
「やるわね。なら、これはどう?」
肉体変異によって鋼鉄の右腕を変形させる。それは、平和な世界に似つかわしくないほど破壊力を持った代物。
「アンチマテリアルライフルーーヘカートⅡ」
鈍く光を放つ重々しい銃口。
強烈な反動と引き換えに、同等の破壊力を持つそれを、1号は迫り来る言葉に対して空中で構える。
「死ね」
手から生えたそれには引き金はなく、1号の意思によって薬莢を吐き出しながら赤熱した銃弾を撃ち放つ。
「なっ………」
言葉はそれに反応ができず、銃弾は空間を削り取るように半身を消し飛ばす。
「『直れッ!』」
言葉はそのたった一言によって、空中から指が出現して、その肉はやがて言葉の半身となり、癒着するように言葉へと元に戻る。
この間、実に0.1秒。
「はっ、たった一言で無かったことにするか。全く、無茶苦茶ね」
「それはお互い様だろうがッ!」
言葉は1号に向かって蹴りを放つが、1号はそれを先ほどまで銃に変異したはずの腕で受け止める。
「変形スピードもイカれてやがるな」
「失礼ね、変異よッ!」
もう片方の手で言葉の足を掴み、一本背負の要領で勢いよくぶん投げる。
言葉は空中で体勢を変えながら勢いを殺して、静かにビルの側面へと着地をする。
「ついて来れるもんなら、ついてきやがれ。『五速ッ!』」
言葉の宣誓と共に、瞬時に1号も《吸収》を使って、言葉の倍率に追いつく。
「いくぞッ!」
「来なさいよッ!」
示し合わせたように二人は激突する。
「オオオッ!」
「ハァァッ!」
一見互角に見える力比べだが、言葉がわずかに勝り、1号は自分の勢いで地面を抉るように吹き飛んでいく。
「その程度かっ!」
言葉吹き飛んでいく1号へと突っ込んでいくが、1号はそれに対してニヤリと笑う。
「なわけないでしょ」
削られた地面には1号の肉片が撒き散らせており、それらはやがて一つのレールへと変わる。
「だからどうした!」
言葉は拳を繰り出すが、1号は全身を鋼鉄へと変え、腹部でそれを平然と耐える。
「焼き直しってやつよ」
1号を中心に電気が勢いよく走り、その準備を終わらせる。
「喰らえ、これが超伝導よ」
レールガンの要領で音速を超えた拳は言葉の胸部へと命中する。
ビキビキィ!
「グッ」
鈍い音を立てながら言葉の全身にヒビを入れ、そのまま殴り飛ばす。その勢いは強く、言葉は瞬時に豆粒となっていく。
「不死身なのよね、だったらそれで終わるはずはないわよね」
1号は全身の力を練り上げて、異能を全力で発動させる。
「不死の対抗策なんて、昔から決まってるのよ」
1号の右腕は瞬時に膨張していき、それは1号の数倍の体積となっていき、やがてその肉体は一つの形を目指してかたどられていく。
「肉片すらも残さないほどの超火力で滅却すればいいのよ」
砲塔はそのまま伸びていき、それらを支える支柱が姿を現す。
「対空高射砲ーーアハトアハト」
1号の目の前にスコープが出現し、それを覗いて言葉へと狙いを定める。
「これで決着よッ!」
アハトアハトは大量の煙を周囲に吹き出しながら、砲弾を言葉へと弾き出すように飛ばす。
「だとよかったな」
言葉は瞬時に体勢を戻し、迫り来る砲弾へと口を開く。
「『止まれ』」
放たれた言霊は砲弾を容易く止めてみせる。
「動き出したらどこいくかわからないからな、処理させてもらうぞ」
言葉は銃を取り出して、砲弾を撃ち抜く。
砲弾は大規模な爆破を起こし、街の中で一番高いビルの避雷針をわずかに灼く。
「さて、続きだ」
「攻撃防いだぐらいで勝ち誇ってんじゃないわよッ!」
アハトアハトから瞬時に手を引き抜き、1号は奪った速度で言葉へと迫る。
「ハアァァッ!」
振りかぶられる1号の拳に対して、言葉はその内側に腕を入れることで軌道を逸らし、1号の目の前で指を銃の形にする。
「『吹っ飛べッ!』」
弾き出されるように1号は吹き飛ばされ、地面へと勢いよく叩きつけられ、その場は大きく凹む。
「観念したかよ」
本音と言えば、これ以上戦いたくはない。
どいつもこいつも平然と不死を乗り越えようとしやがる。
「私は……、お前を殺さないといけない」
「あぁ!?」
「それが私の存在理由で、存在意義なんだ」
「それは、あの二人を悲しませてでもやらなきゃなんねぇのかよ」
「そうよッ!お前は私たちの敵なんだ!」
「お前はどっちを見て言ってんだ!なら、あの二人の世話になるなんて半端なことしてんじゃねぇ!」
「五月蝿い五月蝿いッ!異能殺しのくせに!化物のくせに!怪物のくせに!人間みたいこと言ってんじゃない!」
魂を曝け出すように、互いが剥き出しの本音をぶつけ合う。
そんな最中、言葉の隣を二つの風が通り抜ける。それは葬と寧々であり、1号を黙って抱きしめる。
「なっ、どいてよ!パパッ!ママッ!」
「嫌だよ。君がそう言ってくれるなら、僕は抱きしめ続ける」
「そうだよ、私はお前がどんな存在でもいいんだ」
「私はコトハを!歴木言葉を!殺さないと!生きている意味が!」
「そんなの、私が抱きしめられるから。で、生きてくれないのかい?」
「そんなの………。だって、私は怪物で、異能者で」
「だからなんだい。お前は、もう私達の娘だよ」
あまりにも真っ直ぐすぎる母親の言葉に、1号は受け止めきれず、涙が溢れるように流れ始める。
「うああ、うああああ!」
「泣いていいんだ。僕らはここにいるから」
「なんで……、なんで………」
言葉は家族となったその3人の姿を見て、その場を黙って後にする。
「そうだ、あんたの名前を決めていたんだ」
「そうだ。君は賢いからね」
「名前………、私には1号って」
「私達の娘になるんだ。だから、新しくつけてあげようってさ」
寧々と葬は顔を見合わせて、1号へと向き直る。
「「識」」
「し………き…………」
名付けをされた1号。もとい、識は空洞だった存在意義が満たされる。
識に二人は手を伸ばして、それぞれの手を握る。
「帰ろう、識ちゃん」
「帰るよ、識」
「うん」
識は自分の姿を小学生までに戻して、そのまま立ち上がる。
3人となったその家族は、笑い合いながらその場を後にした。




