6話 後章2 支配の『白』③
異質。
百道を形容するには、その一言で十分だった。どの異能者にもないような存在感に、例を挙げられないような異質な雰囲気。
それに対峙した言葉はこう思った。
「なんなんだ、お前」
「なんなんだって、僕は僕さ。それ以上でもそれ未満でもないし、あるいは何かに変えられるものでもない。唯一無二で、不変的な存在さ」
わからない。強さが。
格上もしくは格下であろうとも、ある程度の力量は自分の経験則でわかる。だが、こいつは。
「どうしたんだい?さっきから。ほら、僕は敵の親玉だよ?僕を倒せば君の勝ちなんだよ?」
こいつは俺の遥か上の異能者というわけだ。
その時、言葉の脳裏に浮かんだ言葉。それは。
逃げろ。
「んな、ことやるかッ!」
「お、闘うのかい。なら、僕もそうしよう!」
百道が迫り来る言葉に対して指を指す。
すると、身体極化しているはずの言葉が、軽々と近くの校舎へと叩きつけられる。
「は?」
何が、起きた。
なんだ、あいつの異能は。
どうしたら、勝てる。
頭の中でぐるぐると思考を巡らせる。
だが、解答は一向に出てこない。
「異能殺しでも、僕の異能を図りかねるか。実に光栄だね」
ふわふわと百道はその場で滞留しながら、無惨に叩きつけられる言葉を眺める。
「ここじゃ少し狭いか。少し、上に行こうか」
百道が人差し指で空を上になぞると、言葉は凄まじい速度で上空に打ち出される。
「くっ!原理はわからねぇが、人間であることは変えられない。ならこれで終いだ!」
上空に打ち出されながらも、言葉は銃を取り出して異能によって迫る百道に狙いを定める。
「『死ね』」
死の言霊を付与された銃弾は、百道に向かって打ち出される。だが、百道はそれをゴミを見るような目で見ながら拳を握る。
すると、銃弾はへしゃげ、形を崩した銃弾は鉄屑となり、下へ落ちていく。
「な、何!?」
「うん、物として機能しなくなれば、異能の効果もなくなる。自明の理だね」
やがて二人は雲を突き抜けた太陽の元で、ぴたりと止まる。
「みんな殺されていくからどんなものだと思ったけど、手品はさっきので全部かい?」
「チッ!余裕こいてられるのも今のうちだ!」
言霊で足りないのならば、他の異能で補うだけだ。
「『修羅』+『加速』+『肉体操作』+『必中』」
完全異形化、オーバーフロー。
反動なんてお構いなしに、言葉は一気に使う。
「おお、それが異能の多重発動ってやつだね」
「オオオオッ!」
言葉は異能の負荷で全身を痛みで蹂躙しながらも、百道へと突進する。
「ダメだよ、まだ人間に縋っちゃ。怪物は怪物らしくいないと」
「なっ」
百道は瞬時に言葉の懐へと入り、その細腕を言葉の腹部へと当てる。
「ガハッ」
そこから経験したことのないような重さの痛みが言葉を襲う。
「異能の反動ってのは、所詮は人間をやめられない未練なんだよ。怪物を自覚していながら、人を止める覚悟がないなんて、全く矛盾している。言霊使いとして、吐いた言葉が伴っていないのは、恥ずべきことなんじゃないの?」
百道が言葉をそのまま叩きつけるように蹴ると、言葉瞬時に雲を突き抜け、流星のような速度で地面へと迫る。
「なんだっけ、こういう時いうの。そうだ、ダメ押しってね」
百道が落ちゆく言葉に手をかざすと、落下速度はさらに増していき、言葉はなすすべもなく街の中央へ叩きつけられる。その勢いで周囲のビルの窓は割れ、車は弾かれるように飛んでいき、叩きつけた場所にはクレーターが出来上がり、その威力をものがたる。叩きつけられた言葉は瞬間的に木っ端微塵になったが、不死によってズタズタでありながら人の形を取り戻そうとしていた。
「ハァハァ………くそ………」
「弱いよ。弱い弱い。人間にもなれないし、怪物にもなりきれない。死にたいだけのただの獣なら、英雄足り得ない」
「だま……れ………」
「うーん、殺す価値もない。そのまま這いつくばって地面でも舐めてなよ」
「ま……て!」
不完全な肉体のまま、言葉は血を大量にこぼしながらも、無理やり立ち上がる。
「訂正だ。君は僕の敵にもなり得ない。雑魚が、そのまま死んでろよ」
百道がそのまま言葉に指を指すと、言葉は何棟のビルを貫通していき、そのまま地面に転がされる。
「ハッ、無様だね。異能殺し」
連続戦闘、そして異能の反動と連続的な死。
そして、一度の死で受け止められないようなダメージを喰らった言葉が、気絶をするのも無理からぬ状態だった。
「岳滅鬼もなんでこんなやつに執着しているんだか」
言葉を見下ろした後、百道はそのまま上空を飛び去っていく。
「存外つまらない戦争になりそうだ。いや、蹂躙の間違いか」
百道は諦念を含んだような声で、そう溢すのだった。




