表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/154

第135話 村が隠してきたもの

 朝の光が差し込むにつれ、森は“普通の場所”の顔を取り戻していった。

 昨夜の異様な気配が、すべて錯覚だったかのように。

 だが、三人の胸に残る重さは消えない。

 祐真は、駐在所に戻る途中で車を止めた。

 村の外れ、使われなくなった集会所の前だった。

「……ここ、寄っていきたい」

 春香が怪訝そうに見る。

「こんな所に、何が?」

 祐真はハンドルから手を離さず、低く答えた。

「……“記録”が残ってる」

 集会所は、鍵がかかっていなかった。

 それ自体が、異様だった。

 中は埃っぽく、古い畳の匂いがこもっている。

 壁際には、年代物の戸棚が並び、帳簿や名簿が無造作に詰め込まれていた。

 美奈が、ふと声を落とす。

「……なんで……

 こんな大事なもの、放置してあるの……?」

「……残してるんだ」

 祐真は言った。

「……“消す”より、“置いておく”方が……

 この村は、得意だから……」

 祐真が一冊の帳簿を引き抜く。

 表紙は色褪せ、「行事記録」とだけ書かれていた。

 ページをめくる音が、やけに大きく響く。


 ——昭和○○年 秋祭り

 ——異常なし


 ——昭和○○年 秋祭り

 ——不参加者一名(体調不良)


 ——昭和○○年 秋祭り

 ——途中退席一名


 祐真の指が止まった。


 ——平成○年 秋祭り

 ——行方不明者一名

 ※後日処理済


 春香が、息を詰める。

「……処理……?」

 ページをめくると、次の行には名前があった。


 橘 美桜(3歳)


 春香は、その場に崩れ落ちそうになる。

「……そんな……

 “行方不明”じゃない……

 あの子は……!」

 祐真は、さらにページをめくった。


 ──平成○年以降

 ──秋祭り規模縮小

 ──記録簡略化


 美奈が震える声で言う。

「……簡略化って……

 隠したってこと……?」

 祐真は、別の書類を取り出した。

 それは、村の古い“申し送り”だった。

「……“森に近づきすぎた子は……

 戻らないことがある”……」

 春香が顔を上げる。

「……そんなの……

 ただの噂でしょう……?」

 祐真は、首を振った。

「……違う……

 “注意”だ……」

 美奈の背筋に、冷たいものが走る。

「……じゃあ……

 村の人たちは……

 知ってて……?」

 祐真は、はっきりとは答えなかった。

 ただ、一行を指さす。

 ──“呼ばれた場合、探さぬこと”

 沈黙が落ちた。

 春香の胸に、怒りと絶望が込み上げる。

「……じゃあ……

 20年前も……

 誰も、本気で……

 探そうとしなかった……?」

 祐真は、目を伏せた。

「……探した人は……

 いた……」

「……誰?」

「……“村から、消えた人たち”だ……」

 美奈が、かすかに声を漏らす。

「……消えた……

 人たち……?」



 その瞬間、集会所の外で、

 ぎい……

 と、扉が軋む音がした。

 三人は、同時に振り返る。

 そこに立っていたのは──

 白髪混じりの老人だった。

「……ああ……

 やっぱり……

 見つけてしまったか……」

 老人は、疲れ切った声で続ける。

「……あの森はな……

 “連れていく”んじゃない……」

 一歩、こちらに近づく。

「……“受け取る”んだ……

 村が……

 昔から……」

 春香の視界が、ぐらりと揺れた。

 村が、子どもを差し出してきた。

 その事実が、ようやく、言葉として形を持ち始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ