016 譲れない戦い
「ウォォオオオオオオッ」
アルヴィンが叫び、彼の愛機ソールが通路内を高速で移動しながら、その重量級のボディで銀の機体たちを轢き潰していく。
何しろオリジンダイバー『ソール』は計三基の大型ブースターと分厚い装甲を持つ大型機体だ。それが弾丸の如く迫れば、銀の機体が銀光のシールドで防御しようと抑え切ることはできない。
両者の機体出力差も大きいが、こうも一方的なのはソールの機体特性が銀の機体たちと相性が良かったから……ということもあるのだろう。実際、ここまでの戦いでのソールの損傷は少なく、未だ十全に稼働している。けれども『彼の部隊』に関していえば、そうではなかった。
『うわぁあ』
コックピット内の通信機から部下の悲鳴が届き、ソールの頭部が後方に向けられた。
「マキシム!?」
そして水晶眼を通してアルヴィンの目に飛び込んできたのは、マキシムと呼ばれた部下のアーマーダイバーが破壊されている光景だった。
(クッ、ここまで来てまたひとり!?)
どれだけ銀の機体と相性が良かろうと、所詮ソールは一対多数で有利に働く機体ではなく、複数方向からの波状攻撃に対してはどうしたって取りこぼしてしまう。結果として生き残った部下は三人で、たった今ふたりになってしまった。
(険しい道だとは分かっていた。だが、ここまで……ここまでとは)
コントロールルームにたどり着けばどうにかなると信じて、部下たちが脱落する中、歯を食いしばって突き進んできた。
(まったく、たどり着ける気がしない。ずいぶんと進んだはずだが、けれどもたどり着けない。まるで底なし沼に沈み込んでいっているようだ)
ワンダリングギガンティックの内部があまりにも広すぎると、アルヴィンが毒づく。別大陸にあるというダンジョンのようだとすら感じていた。
けれども、そんな弱気を外に吐くことすら今のアルヴィンには許されない。
『だ、団長。連中、またやってきています』
「クッ。通路の両面からか。一体、どれだけの数を用意しているのだ!?」
『まったくです団長。そして、ここで我らは終わりのようです』
「待て!?」
アルヴィンが叫ぶが、二機のアーマーダイバーはその言葉に従わず、迫る銀の機体に対して、己の機体を構えさせた。
『なーに。足手纏いがいなくなれば、団長ならやり遂げられます』
『へへ。アンタひとりならきっとたどり着けますぜ最硬』
覚悟を決めた声が耳に届く。
確かに部下を庇いながらの道のりが彼を余計に損耗させていたのは確かであった。
防御重視のソール単機であれば、たどり着けるかもしれない。足枷である自分たちさえいなくなれば……部下たちがそう感じていたのはアルヴィンにも分かっていた。
それでも……とアルヴィンが歯軋りする。
すでにこのワンダリングギガンティック内に入る前の勢いが彼にはない。ここは、あまりにも事前情報と違い過ぎたのだ。まるで蟻の巣の駆除に挑んだら、殺熊蜂の巣を突いてしまったかのようだった。
一戦一戦は良くても補給がないのではオリジンダイバーであるソール以外には厳しく、ソール単体の方が任務達成率が高いだろうというのはその通りであった。
けれども、それは彼が己の部下を見捨てるような選択を取れようはずもなく。
「待て。待てぇ」
『行くぞフィズ。ここで終わらせる!』
『応よ。アンタの下、楽しかったぜ団長!』
二機のアーマーダイバーが迫り来る銀の機体に立ち向かう。すでに機体はボロボロ。もはや足手纏いはここで消えるべきと覚悟を決めた。そして、両機が一歩を踏み出した時……
『ばーびゅーん!!!』
突如として、高速飛行する小さな無数の何かが通路の奥から飛び出してきた。
「これはっ」
『『なんだ!?』』
驚くアルヴィンたちの目の前で、それらは銀の機体たちに突き刺さり、その場で爆発していく。唐突な状況にアルヴィンは一瞬呆けた顔になり、それからその正体に気づいて、笑みを浮かべた。
『アルヴィン団長〜。生きてるー? 救援に来たよー』
「マリア! マリア・エントランか!?」
その言葉の通り、通路の奥から姿を現したのは、オリジンダイバー『ヴィーニュ』に乗っているヘヴラト聖天領軍第五兵団のエース『マリア・エントラン』であった。
『どもー。救援に来たよー。って、みんなボーロボロだね?』
「うむ。本当にギリギリだった。正直に言って、助かったのである」
それは心の底からの吐露であった。
『アルヴィン団長、ご無事でしたか』
また、彼の部下のひとりであるヴァラルも、何故かヴィーニュのスカウトドローンたちに咥えられて近づいてきていた。
「おお、ヴァラルではないか。しかし貴様、機体はどうした?」
『申し訳ございません。撃墜されました』
「で、あるか。なんとも……まあ、仕方なくはあるか」
ヴァラルよりも腕の立つ彼の精鋭部隊もすでに残り二機となっているのだ。ヴァラルが途中で機体を失ってしまうのも仕方なしではあった。
(とはいえ、これからの第七兵団の立て直しを考えると頭が痛くなるが……)
まずはこの場を乗り切ることだと、頭に浮かんだ考えを振り払うように首を横に振った。
「こちらの戦力はすでに吾輩と部下二名のみとなった。我らの想定があまりにも甘かったわ」
『どう考えても普通のワンダリングギガンティックじゃあないからさー。仕方ないかもしれないけどねー』
「いや、団を預かっているのだ。それを言い訳にはできん」
『確かにねー』
団のエースのマリアと団を率いる団長のアルヴィンでは役割も、立場も、取る責任も、持ち得る義務も違う。
「しかしマリアよ。いつ救援に来たのだ? ずいぶんと早くこんな奥までたどり着けたようだが、どういう状況なのだ?」
『奥? いやーアルヴィン団長、それ間違いだねー。ワンダリングギガンティックに騙されちゃってるねー』
「騙された?」
アルヴィンは奥に突き進む自分たちにマリアが追いついたという認識だが、スカウトドローンでこの移動要塞の構造を計測していたマリアにしてみれば、そうではなかった。
『私たちがここに入ったのも今日の朝だしー。ここ、入り口からそんなには進んでないよー』
「馬鹿な。交戦を繰り返したとはいえ、こちらは一日以上かけて進んでいたのだぞ!?」
『移動速度にもよるけどさー。ワンダリングギガンティックのサイズからして一日進んで到着しないなんてことあるわけないしー?』
「!? それでは……まさか我々は嵌められた?」
アルヴィンは自分たちが目標に向かって進んでいたと思っていた。けれども、そのつもりで、実は相手からは外に出るように、入り口にUターンするように誘導されているのだとすれば? であれば、後続であろうマリアたちとの合流の速さにも納得がいくとアルヴィンは理解する。
『入り口まで誘導されて、出た途端に外にいるキャプチャーのガトリングで蜂の巣とか? そういう感じかも?』
「普通に有り得そうではあるな。なんということだ」
家屋に入り込んだ虫なら、外に出してから駆除する方が中が汚れずに済んで良かろうということなのだろう。その推測に苦々しい顔になりながらも、マリアの機体ヴィーニュへと視線を向ける。
「だが、ヘヴラトで最も解析能力の優れたオリジンダイバー乗りの貴公がいるのであれば」
『ま、ヘヴラト最硬のアルヴィン団長と私のコンビならいけるとは思うよー』
けれども……とマリアは思う。
(ま、『私たちが間に合うのか』の方が問題かもしれないけど)
彼女の脳裏に浮かぶのは分かれたふたりの姿だ。果たして、彼女たちもアルヴィンと同様に惑わされて彷徨い続けるのか。或いは……
「マリア、今なんと?」
『ううん。それよりも新手が来たよ』
マリアの言葉に、アルヴィンが視線を通路の奥に向けると、あの銀色の機体たちの姿が見えた。ここまでは部下を守りながらの戦いであったが、今は違う。集団戦に長けたヴィーニュがいるならば、アルヴィンも部下の心配をせずに吶喊ができる。
「では」
『うん。まずは』
「レオべロスを倒すぞ」『らいおんちゃんを倒すよ』
「ん?」『え?』
そして、ふたりは同時に首を傾げたのであった。
……譲れない戦いが今、始まる!




