014 ジャッキースタイルソードアーツ
「ハハッ」
迫る無数のリオンヘッズたちを前にしてルッタが笑う。
銀光のシールドを張った密集陣形はルッタたちを誘き寄せるための罠であり、リオンヘッズたちの本領は恐らくここからなのだろう。この距離からの一対多数は、ともすれば一方的な袋叩きになりかねない怖さがある。否、普通であればそうなるのが自然な状況だ。自分たちは艦内での鎮静を目的とした狡猾な戦法にハマったのだとルッタは理解せざるを得なかった。
そして、だからこそルッタは笑う。テンションの上昇と共に心の中にあるギアが二段階引き上がる。
「タラちゃん。手を出さないでね。危ないから」
「キ?」
首を傾げるタラに反応せず、ルッタはブルーバレットに腰の二本の牙剣を抜かせた。
リオンヘッズたちは格闘型。それもここまでのキャプチャーたちとの戦闘を考えれば、独自のリンク機能を持ち、ほぼゼロタイムで連携を行ってくるであろうことは明白であった。
対してアーマーダイバーの基本は中距離からの銃撃戦。近接戦など通常は行うものではなく、だからこそリオンヘッズたちはアーマーダイバーにとって天敵に等しい。相手がルッタ・レゾンでなければ……の話ではあるが。
(いいね。これは。最近ようやく『コツ』を掴めてきたところだったけど……ああ、なんて運が良いんだ)
ルッタの操縦技術は実戦を経て、おおよそ前世の経験を凌駕し始めてきているのだが、近接戦に関しては相手ありきなところが大きく、少し前まではまだどこか届いていないという感じがあった。
けれどもナッシュやイシカワ、ギンナたちとの出会い、それにシェーロ大天領での剣闘士としての経験によって、ここ最近ようやくイメージと実際の操縦が合致し始めていたのだ。そして今、ルッタの目の前にこれまで蓄積してきたモノを思う存分に試せる玩具がある。であれば、それを見て昂揚しないはずがなかった。
「じゃあ、殺ろうか」
「キキィ!」
ルッタの意思のままに、ブルーバレットが駆け出していく。
(そんじゃあチョチョイチョイと)
ルッタがテンキーもどきを拡張したキーボードもどきを勢いよく叩き始める。
今の彼にとって重要なのは目を増やすことだ。故に即座におこなったのはヘッドパーツの一本角を二本角の広域レーダーへと変形させ、戦闘モードから索敵モードに移行させることだった。このモードでは魔力を索敵に回すために召喚弾のチャージはできなくなるが、バイザーに映し出される空間情報の範囲と計測値の確度が向上する。
加えてルッタは魔力レーダーの感度も上げていった。波形が大きく波打ち、ノイズ混じりとなるが、魔力を視る眼や索敵モードの情報と比較する事で空間内の解像度が劇的に高められる。
その情報量の多さは並みの乗り手では欠片も理解できぬだろうが、極度に精神を集中させたルッタであれば十全に理解することが可能であった。
「フッ」
「キィーー!」
直後に動きが変わった。
それは索敵モードへの変更と共にフライフェザーの設定も変更されたためだ。
この状態のフライフェザーは、チックフェザーを参考にリフレクトフィールドの発生パターンを変え、フィールドを維持するのではなく、溜めてリバウンドジャンプを行うように変更されている。無論ソフトウェアだけの変更ではハードウェアとしても特化させたチックフェザーほどの跳躍力は望むべくもないが、それでもこの床のある空間内での機動力は大幅に向上することとなる。
そうして急激に加速したブルーバレットに向かっていったリオンヘッズが獅子手甲を振り上げて迎撃しようとするが、
「遅いッ」
「キッ」
先に懐に入り込んだブルーバレットがリオンヘッズの右腕を切り飛ばし、続けて二刀目で胴体を分断した。
「で、味方が斬られても動揺もないと。さすが機械。血も涙もない」
「キキィ、キィ」
直後に斬られた一体目の背後にいた二体目のリオンヘッズが殴りかかってきたが、ルッタはブルーバレットの右足を上げ、フライフェザーのリフレクトフィールドを使ってその一撃を防ぎ、さらには反動を利用して機体を大きく跳躍させた。その動きはさながら軽業師の如く。
「続けてぇ、独楽斬り」
「キィッ」
そのままブルーバレットが敵陣の只中に着地すると、勢いを維持したまま機体を回転させて牙剣を振り回し、対応の遅れたリオンレッズ二体を斬り裂いた。
「からの羽々斬り」
「キキィ」
さらに踊り掛かるリオンヘッズたちの攻撃をルッタはバク宙で避けつつ、その態勢で近づいたリオンヘッズの足を斬り飛ばす。足のなくなったリオンヘッズが勢いよく崩れ落ちるのを尻目にルッタはテイルブースターで機体を加速させた。
「車輪釣り」
「キッ」
両腕からワイヤーアンカーを射出しながら回転し、それに絡め取られたリオンヘッズたちがもつれて、ぶつかり合った。
「トドメのジャッキー流剣術『死屍累々』」
「キキキキーーーー!」
そうして放ったのは最小の可動域で四撃を繰り出す最速の連撃だった。それは今や百戦百勝、最年少のソロドラゴンスレイヤーの師にして、元剣闘士序列一位ナッシュ・バックを倒して配下にまでしたジャッキー流剣術開祖ジャッキー・バーモンドの代名詞となっている必殺技だ。偉大なる師としても知られるジャッキーの技をルッタは完全に自分のものとしていたのである。
それは本来であれば四撃をひとつの目標に叩き込む技であったが、ルッタは機体の回転を利用しながら一撃一撃を四体それぞれに見舞って仕留めていた。
「で、お残しはなしよと」
「キキッ」
最後にルッタが羽々足を斬られて地面に落ちたリオンヘッズを貫いてトドメを刺すと、もう周囲に動く機体はなかった。
その間、わずかに十五秒。この短時間で迫ってきた八体のリオンヘッズがすべて撃破されたのである。
『ふふ、やるねルッタ』
「むぅ。そう言ってるリリ姉の方が倒してる数は多いんだけどね」
リリの賞賛にルッタが口を尖らせて返す。
何しろリオンヘッズが銀光のシールドで身を守ろうともフレーヌのキャリバーはそのシールドをも斬り裂いて、本体へと届き得るのだ。
ルッタの戦いがテクニカルであるならば、フレーヌを駆るリリの戦いは真正面からの王道そのもの。守ろうが攻めようが、ただ斬り、ただ討ち倒すのみ。さらに隙あらば魔導長銃やシルフたちの攻撃も見舞われるのだから、当然のように現時点で撃墜数はリリがルッタよりも上であった。
(機体性能差はどうしようもないけど……まあ、ここから挽回はできるかな)
第二陣が迫ってきているのを見て、ルッタが心の中でそうぼやく。相手も性能差から組み易しと判断したのか、迫ってくる機体数はフレーヌに対してよりもブルーバレットに対しての方が多いようである。
(それにしてもこれ、俺とリリ姉だから対処できてるけど……マリアさんはともかくヴァラルさんにはやっぱり厳しいんじゃないかなぁ)
キャプチャー相手でも不安があるヴァラルの安否を気にしながら、ルッタは迫ってくるリオンヘッズたちとも戦い続け、撃墜数をさらに重ねていくのであった。
ついに師の奥義までをも開眼したルッタ・レゾン。もはや最強ジャッキー流剣術に敵うものなしだ! アイエエエ!




