012 ドパガキ未満少年
少し前までドパガキをえっちな言葉だと思ってました。
『ルッタくん、リリ!?』
『マリア様。後方より敵が来てます!』
(あーあ、分断されたか)
「リリ姉」
「うん!」
ギュンッ
リリが機体の出力を一気に上げ、全身から銀の光を発するブーステッド化に移行する。
『開けぇ、ゴマッ』
そして内より吐き出された魔力をフレーヌの固有武装のひとつ『キャリバー』へと集中し、集束された魔力刃の一撃が近場に配置されたキャプチャーたちごと壁を斬り裂いた。
『やった!』
『むむ、いや駄目だ』
「キィイイイイ!?」
「チィッ」
バシュバシュバシュバシュッ
ルッタが舌打ちしながら天井に向けて全自動魔導散弾銃を撃つが、すでに遅い。
ルッタが撃った先にあるのは壁から出てきた射出機だった。ソレはルッタが破壊する前にすでに砲弾を撃っており、斬り裂かれた壁に着弾すると破裂して粘ついた液体が放射状に噴出され、壁が崩れ落ちる前に広がって硬化していく。
『ウッソー。硬化ジェル!?』
「もう一度は……無理かなリリ姉?」
『うん。フレーヌは休ませないと』
フシューと銀の煙を噴き出すフレーヌの中でリリが言う。リリ・テスタメントという稀代の乗り手が最大出力で振るったが故の代償。さらに無理を重ねれば、以前のようにフレーヌが完全回復するまでに相当の時間がかかるはずであった。
(とはいえ、壁の強度は把握できた。チェンソーモード用の魔鋼砲弾は一発再召喚できてる。上手く穴を開ける程度なら……)
『ルッタ。来る』
「まあ、だよねぇ」
ルッタが壁を再度破壊しようとするのを待たずにキャプチャーたちのガトリングガンが火を噴き始めたのだ。ブルーバレットとフレーヌは即座にその場を離れ、回避行動をとりながら反撃に出ていく。
また、その場にはいないマリアやヴァラルの状況も動いていた。
『あー、こっちも敵きてるねー』
『か、かなりの数ですよマリア様』
(なるほどなー。素直に合流させてはくれないか)
反応からして、マリアたちのいる通路にも次々とガーディアンたちが出現し始めているようで、ルッタたちがこの場の状況を収めるまで待っていられる猶予はなさそうである。
『リリ、ルッタくん。こちらはこちらで対処するからー。そっちはそっちで頑張ってー』
「了解マリアさん。リリ姉、タラちゃんやるよ」
『うん』
「キーーーー」
まずは数を減らす……そう考えたルッタは不規則に回避行動をとり、タラが二連装ミサイルランチャーから魔導誘導弾を放ち、ルッタはルッタで散弾からスラッグ弾に当たる重弾に変えた全自動魔導散弾銃を撃ち続けている。魔導筒の変更は今回のグループ内での交戦距離を考慮してのもので、それがこの状況で生きていた。
(やっぱり、弾道予測の軌道修正が早い……けど、機動力が追いついてないからまだ対処はできる)
キャプチャーはあくまで多脚型のマシンだ。フライフェザーのように流れるように移動することはできず、そもそも暴れるガトリングガンの反動を押さえつけるためにその場で踏みとどまっている。そのために動けない近場のキャプチャーを弾丸の雨の盾にすることも容易だった。
ノートリア遺跡に比べれば、確かに狙いは正確で、また連携速度も速いが、それでもルッタにとっては難易度がノーマルからハードに変わった程度。ナイトメアやヘルの間を行き交っていた風見一樹の経験からすれば、まだ余裕はあるという認識だった。
(とはいえ、弾数が足りないか。仕方ない)
「リリ姉、ガトリングガンの権限って奪える?」
『権限? うーん。転がってるのなら問題ないかな。アン、行って。ルッタの右前のヤツを奪う』
『Pi』
そんなやり取りの後、シルフの一機が降りて床に転がったガトリングガンに取り憑くと、途端にルッタのバイザーに『ブルーバレットにガトリングガン使用の承認がおりました』と表示された。それはノートリア遺跡で起きた現象と同じであった。
「ありがとうリリ姉。一応聞くけど、このやり方でガーディアンを止めるのってできないの?」
『んー。直接接触すれば操作できるかもしれないかな? でも面倒だし、普通に倒したほうが早いよ。あと、この船も無理かな。少なくともここじゃあ』
「了解。まあ、だからアルヴィン団長もコントロールルームに向かったんだろうし、楽はできないってわけか。ともあれ、こっからは」
ルッタがブルーバレットの両腕からワイヤーアンカーを飛ばしてガトリングガンとバケツマガジンに絡めると、テールブースターを噴かしてその勢いで引っ張り上げたガトリングガンを掴んで構えた。
「こっちのターンだ。武器も使い手次第だってとこを見せたげるよ」
ズガガガガガガガッ
「ウリャァアアアアアアアア」
「キーー、キキーーー!!」
ルッタは反動で暴れ狂うガトリングガンを制しながら、動けず的になるしかないキャプチャーたちを次々と破壊していく。
たとえ同じ得物であっても使っているのがツバメとカカシでは、その有り様はもはや別の兵器と言っても過言ではなかった。
加えて、リリの操るフレーヌとシルフたちも着実にキャプチャーの数を減らしていくのだから、広間内の掃討にそう時間はかからなかったのである。
「ハッ、全滅! 楽勝!!」
「キィィイイイイイ!」
「あははははははははは。やったぜぇえ!」
(……て、いけない。いけない。脳がトリガーハッピーになってる)
笑いながらルッタは己の頭がハッピーになっていることに気づいて、冷静になった。
何しろ今回は弾薬消費を全く考慮せずの戦闘で、バケツマガジンも三つ乗り換えて使用していたのだから、吐き出した弾丸数は三千近く。今のルッタはドパガキ一歩手前の興奮状態だったのである。
『ルッタ、かわいい』
「むぅ。うう……リリ姉。そんなことよりさ。あのアーマーダイバーはどう?」
顔を赤くしたルッタが中央で崩れ落ちているアーマーダイバーへと視線を向けながら、そう返した。
『んー、シルフたちがすでにスキャンしてるんだけど……乗り手は死んでる。機導核だけ無理やり動かされてる感じかな』
「なるほど。囮だったってわけだ。そういうこともできるんだね、このワンダリングギガンティックって」
アーマーダイバーに乗っている以上、また戦いの場に身を置いている以上は己が死ぬことも乗り手の想定の内だろうとルッタも理解はしている。
とはいえ、死んだ後にも利用されることに不快感がないわけでもなかった。
(マリアさんたちとの通信も……妨害されてるのか、遠いのか……繋がらないな。まあ、仕方ない)
硬化ジェルの隙間からももう戦闘音は聞こえてこない。マリアたちともかなり離れてしまっているようだった。
それからルッタは身分証にもなっているらしい機体に付いている第七兵団の徽章をブルーバレットに取らせてから広間の出口に向かおうとして……
『ルッタ、なんか来たよ』
「なんかって……ああ、すごいの来たね」
ふたりの視線が進もうとした出口へと向けられる。そこには外から銀色の機体が次々と入ってくる光景があった。
(銀色の……三首の立ってるライオン?)
ルッタが一目見た印象はそうだった。
それは第七兵団の精鋭部隊が昨日より交戦している格闘戦用の人型機械であり、彼らはルッタたちの姿を認めると一斉に構えを取り始めたのである。




