011 導かれし者たち
『グォオオオオオオッ』
ヴァラルの咆哮が通路内に木霊する。
彼の機体『ガッツ』がキャプチャーとぶつかり合い、その場で膠着したのだ。ギリギリと両機の稼働部が異音を発しながら、火花を散らしている。
「ヴァラルさん!? ああ、もう。そのまま押さえてて」
『ルッタくん。私がいくねー。周りよろしく』
「了解。タラちゃんは左。俺は右だ」
「キーーーーー!」
『ヴァラル隊長。動かないでよー。動いたら死ぬからねー』
『しょ、承知!』
『ほいやっと』
ヴァラル機が押さえ込んでいる間に、マリアの乗るヴィーニュが手に持った回転砲身式魔導銃を構える。その魔導銃に込められた召喚弾は魔鋼弾三式。それは本来であればシーリスのレッドアラームが装備しているアーマーバスターライフル等の大型魔導銃で扱うシロモノなのだが、マリアの持つ回転砲身式魔導銃はガトリングガンの様に、砲身そのものを回転させて入れ替えることで一発一発の負荷を抑え、通常の魔導銃と同サイズにまで落とし込むことに成功したオリジンダイバー用兵装だった。
そして放たれた銃弾はキャプチャーを正確に狙撃して、問答無用の威力で粉砕していく。
「威力もそうだけど、マリアさんも正確に撃つなー」
『これは機体性能に依存してるんだけどねー。ヴィーニュは情報収集を主眼にしたオリジンダイバーだからー、周辺環境と自機の設定値を把握してー、弾道を計算して誰でも当てられるようにしてくれるってぇわけだねー』
(ふーん。強力なオートエイムがかかってる機体ってことかな? さすがはオリジンダイバーってとこか)
あの精度で自動エイムされるのであれば、あのままでも長距離対応も可能そうだなとルッタは考える。
マリア当人はヴィーニュは斥候用でオリジンダイバーとしてはそれほど戦闘能力は高くないと説明していたが、ルッタはその言葉を間に受けてはいない。
(スカウトドローンの応用性の高さと同時起動数は伏せたままなんだからさ。実際の戦闘能力は随分と高めに考えていた方がよさそうだ)
そんなルッタの思考を尻目に、ヴァラルが荒い息を吐きながら通信を開く。
『た、助かりましたマリア様。それにルッタ少年』
「助けたのはマリアさんで、俺は何もしてないけどねー」
『またまたー。ちゃんと他のガーディアンを近づけないようにしてくれてたじゃんかー』
『リリ姉が張り切ってるから、余裕あるしね』
そう言ってルッタが通路の先を見ると、ガーディアンの残骸の山の中心にいるフレーヌが目に入った。先ほどのルッタの大独楽斬りを見て『自分も』と口にして大立ち回りを演じ、迫る敵の尽くを破壊していたのである。
ルッタたちが戦ったのはカバーしきれずに漏れた相手たちであった。
『弱い……けど、前に戦ったのより強い』
「ああ。やっぱり、そんな感じだよね」
『確かにな』
リリの言葉にルッタが、それからヴァラルも同意の声を上げた。
『言い訳になるが、キャプチャーが高出力型である我が愛機『ガッツ』と力で渡り合えるとは思ってもいなかった。外見は同じだが私の知るキャプチャーとは随分と性能が違うようだ』
「単純に出力が高いのもあるけど、動きが以前に戦った時よりもいいんだよね。連携が洗練されてるし、阿吽の呼吸みたいなのも感じたよ」
対処はできる。けれども、明らかにルッタの知っているキャプチャーとは違う。ここまでの戦いでその認識は確信に変わっていた。
「それに以前に戦った時はスキャナーやビッグアイとか、別のガーディアンもいたんだけど、ここではキャプチャーだけなんだね」
『それは索敵も司令塔の役割もワンダリングギガンティックが負っているからだろうねー』
『ふむ。巨鯨は己の腹の中も熟知しているということですか』
『それに』
ガシャーンガシャーンと後方の隔壁が閉まっていく。それを見てマリアが眉をひそめた。
『明らかに誘導されてるっぽいかなー』
『大丈夫なのでしょうか?』
『普通に危険ではあるけど……最悪、フレーヌなら壁を壊して内部に突入できるからねー?』
『壁を壊す? いいよ?』
「いや、その手段はまだいいんじゃないかなリリ姉。マリアさん、アルヴィンさんたちの足跡はまだ追えてるんでしょ?」
『そだねー。ルート外れて、辿れなくなるよりはまだこのまま進むでいいかなー。このメンツならねー』
(とはいえ、ヴァラルさんだけ怪しいけどなぁ)
ここに来るまでにキャプチャーの群れと三度遭遇で被弾が二。加えて先ほどは接近を許して組み合い。当人としては出力で勝る想定だったから勝てると見込んだのだろうが、その見込みが甘かったのは結果が示している。
キャプチャーが想定してたよりも出力があったのは事実だが、ここまでの戦闘である程度把握できているはずだったにも拘らずだ。
もちろん、一戦一戦は無難に動いていて戦力にもなってはいるのだが、補給も補修もなしにこの先で何連戦も戦うのが厳しい技量なのは疑いようもなかった。
(高出力型の乗り手としてはそこそこの人なのは確かなんだけどね)
ヴァラルは第七兵団の精鋭部隊には入れなかったが、部隊隊長をやれている程度の腕前はある。この狭い空間内の、多数対多数の入り乱れた戦闘でまったく損傷しない方がおかしいのだから、まともに考えればヴァラルの状態の方が普通なのだ。
(まあ、駄目なら駄目で仕方ないんだけど)
ルッタの思考は結局そこに行き着いて、ひとり納得した。そんなルッタにタラが「キーー」と鳴いた。
「キーーー、キキーーー」
「うん。分かってるよタラちゃん。間違いなく誘われてる。でも……まあ、なんとかなるでしょ」
「キーーーーーーーー!」
その通りだとタラが前足を上げて、咆哮した。壁ごと斬り裂く手段を持っているのはリリだけではない。本当の意味で完全な隔離はされないだろうというのがルッタの見立てだった。
『おっ。この先、広い空間に出るねー。しかも部屋の中心にー、アーマーダイバーが一機いる。壊れてるから動けなさそー』
先行しているスカウトドローン『エアロ』からの情報に、マリアが眉をひそめながらそう口にした。
『アーマーダイバー……アルヴィン隊の機体ですか?』
『機体の特徴はそうだねー。周囲に敵影はないけど怪しいねー。ヴァラル隊長は飛び出ないようにー』
『分かっています』
「で、どうするの?」
ルッタの問いにフレーヌが前に出る。
『リリが先に入るよ』
『んーー。じゃあ、お願いするねー』
マリアは僅かに悩んだが、リリならば問題なしとして、了と返した。
「リリ姉。気を付けて」
『オッケー』
『入り口についたよー。今のところはやっぱり敵はいないねー』
『んじゃ、行ってくる』
そう言って、フレーヌが四機のシルフたちと共に広間へと入っていく。
『何もない?』
『いや、壁が』
フレーヌが広間に入った途端にガシャンッガシャンッガシャンッガシャンッガシャンッガシャンッ……と次々と壁が動いて、無数のキャプチャーたちの姿が見え始めた。
「ガトリングガン持ち? チッ」
ルッタが何かを察してブルーバレットを室内に飛び込ませると、直後に入り口の扉が勢いよく閉じられた。
ヴァラル隊長。盾が二枚消えてあなたがピンチです。




