009 獅獅獅子子子
なんかこいつの名前、どっかの調査兵団の団長ふたりを合体したみたいだよなーと今更ながら気づいた。見た目はカイゼル髭のおっさん。ゲスミンはしない。
ガラガラと天井が崩れて瓦礫が流れ込み、目の前の通路が塞がっていく。その様子に見ながら「ふぅ」と息を吐いたのはカイゼル髭を蓄えた、厳しい表情をした壮年の男だった。
男の名前はアルヴィン・ゼラン。ヘヴラト聖天領軍第七兵団ニンバスの団長にして、覚醒遺伝的に自然出産で生まれたオリジネーターである。
「これで少しは時間が稼げるはずであるな」
そう口にした彼が乗っている機体はオリジンダイバー『ソール』。分厚い装甲を身に纏い、大型ブースターを背部に搭載したオリジンダイバーとしても大型の機体だ。
魔導砲と呼ばれる魔導砲弾を撃つ通常武器とブースターランスなども装備しているが、ソールの最大の特徴は大型ブースターを二基搭載した巨大なタワーシールドであろう。大型ブースター三基の加速力による、全長ほどもある長方形の盾での特攻がこの機体の真骨頂であった。
アルヴィンはその機体の力を使って、たった今、強引に天井を崩して通路を塞いだのである。
「お前たち、大丈夫であるか?」
流れ出る汗を拭いながらアルヴィンが声をかけたのは、自身の部下たちであった。
ソールと共にいる機体は今や六機のみ。いずれの機体も高出力型だが、そのほとんどはすでにボロボロで、二十機いた第七兵団が誇る精鋭部隊はもう見る影もない。
『ここにいるメンバーは全員、問題ありません』
『ですが、まさかワンダリングギガンティックの中がここまで強固だとは思ってませんでしたよ』
『共有された資料とは全く違うのではないですか!?』
そう愚痴をこぼす団員たちの疑問はもっともなものだった。
与えられていたワンダリングギガンティックの情報からすれば、アルヴィンたちの戦力であれば多少苦戦する可能性はあっても十分に制圧可能なはずだった。けれども現実に精鋭部隊はすでに戦力が三分の一になっていて、残りの彼らの今後も怪しい状況だ。アルヴィンとて、ここまでワンダリングギガンティック内部の戦力があるのであれば、別の選択肢を取っていただろう。
(明らかにおかしいのである。或いは、このワンダリングギガンティックは今まで発見されていたモノとは別物なのではなかろうか?)
例えば、同じイシュタリア文明の兵器でもオリジンダイバーとアーマーダイバーの性能差は大きい。
アルヴィンは今までのワンダリングギガンティックがアーマーダイバーに相当するものであったのに対して、自分たちが乗り込んだこの移動要塞はオリジンダイバーに該当するような別種の存在なのではないかと考え始めていた。
「ふん。とはいえ、どうであるにせよ……我々がやるべきことは変わらないのではあるがな」
そうアルヴィンが呟き、それから生き残りのメンバーを見た。
「ここまで入り込んだ以上、戻るのも進むのも難しいことは変わらない。であれば、このまま進み、コントロールルームで吾輩がこのワンダリングギガンティックの制御を握るしかあるまいよ」
『……ですな』
『団長のオリジネーターとしての素養を信じるしかありませんな』
進むも地獄、退くも地獄であるならば、より良き結果を得られる方を選択するしかない。アルヴィンたちは踵を返して戻るには深くに入り込み過ぎた。救援の目処もない以上は、進む以上の選択はもはや取れない。そして、今の彼らは立ち止まる猶予すらも与えられていなかった。
『チッ、団長、反応多数。こちら側に向かっています。この魔力パターンからしてレオべロスだと思われます』
「ハァ、多少の休みも許されんとはな。まったく。連中とソールとの機体相性が良いのだけは救いではあるのだがな」
ぼやくアルヴィンの目に、通路の奥からズラズラと銀色の機体が近づいてくるのが見えた。
それは胸部に獅子の頭部を模した装飾をし、両腕にも獅子の頭部を模した手甲を携えた5メートルほどの機体たちだった。
レオべロスとはアルヴィンの部下のひとりが仮で名付けたものだが、三頭の獅子顔が並ぶ姿は確かに……と頷けるものがあった。
その機体が十体以上の編隊を組んで近づいてきている。
「アーマーダイバーのアーキタイプ。恐らくはスケアクロウと呼ばれていたものであろうが……お前たり、こちらに近付けるな。撃てッ」
アルヴィンの声と共に、配下の機体から一斉に魔導銃が放たれる。
ガガガガガッ
銃声が響き渡る。しかしレオべロスたちはその場で留まりはしたが、一機とて倒れることはなかった。
『防がれています。やはり駄目ですね』
配下のひとりがそう口にした通り、レオべロスたちは両腕の獅子頭の手甲を前に出し、たてがみを広げて、そこから発生したバリアフィールドによって銃弾を防いでいた。
「アレは艦内で損傷を出さずに制圧するための装備なのだろう。実際効果的ではあるのだろうが……」
そう言いながらアルヴィンがアームグリップを操作して、ソールの盾を前面に出した。すでに機体背部と盾に搭載された大型ブースターからはボボボッと炎が上がっている。
「だが足を止めたな。おかげで時間は稼げた。さあ皆の者、吾輩に続けぇ」
『『『『『『ォォオオオオオオオオ!』』』』』』
そして、アルヴィンの乗るソールが盾を前面にしたまま炎を噴き上げながら突撃し、配下のアーマーダイバーたちも続いてレオべロスたちとの戦闘を開始する。
それはルッタたちがワンダリングギガンティックに突入するわずか前のこと。果たして彼らがルッタたちと合流できるのか、或いは全滅の憂き目にあうのか。それは、この時点ではまだ誰にも分からなかった。
レオべロス(仮):
レオべロス(仮)くんは、アーマーダイバーのアーキタイプのひとつで、フライフェザーはないけど、全体的な機体性能は高い。逆に言うと現行のアーマーダイバーは機動力をフライフェザーに依存することで出力を武装に振っているので、総合的に見てどちらの方が上かは微妙なところ。
あと宇宙での活動も想定してるので機密性が高く、シールド処理もしっかりしてるので潜雲病にもかかりにくい。ちなみに現行アーマーダイバーはコスパ的な問題でそういうセーフティ的なのは製造段階で外されています。当時はそれが数十年後に発症する病気の原因だったなんて誰も気づかなかったし、自動車に宇宙船並みの機密性を持たせる意味なんて普通分からんからね。仕方ないね。




