005 エキスパートマスプロ
「なんだ。あの機体は!?」
第七兵団ニンバスのヴァラル隊隊長ヴァラル・モルダウは驚きの顔をして、ガーディアンへと突撃していった青と黒の機体を見ていた。魔力レーダーの反応からすれば、その機体が量産機なのは確実なのに機体の形状も速度も武装もおかしいのだ。
(まあ、量産機なのに変に傾くハンターもいるし、速度はブースターによるものか。であれば、そこは驚くほどのものではないが)
問題はその機体が装備している武器だ。それは大木のように太い銃身を束ねたような形状の重火器だった。
「大砲? いや、魔鋼弾を連射しているのか?」
アーマーダイバーの主武装である魔導銃系統の弾丸は、召喚魔術の応用で、魔力を構築して作り出す召喚弾と呼ばれるものだ。
通常の魔導銃で扱う魔鋼弾、魔導長銃で使用する魔槍弾、ロケットランチャーや魔導砲台の魔鋼砲弾、ミサイル系の魔導誘導弾、魔導散弾銃の魔弾筒は若干仕組みは違うが、いずれも召喚術の枠組みとしてある。
そのため、弾切れになっても再召喚をすることで弾丸を補充できるメリットはあるが、通常の召喚術と同じようにキープできる召喚弾の数が限られてしまうというデメリットも存在している。
その数や弾丸の性能は乗り手の能力と機体出力に依存するのだから、量産機の持てる弾数は高出力型に比べれば少なく、当然のことながら量産機が『雨あられ』のように弾丸を継続的に射出することはできないというのがアーマーダイバーの常識だった。
「いや、なんで撃ち続けることができるんだよ?」
その常識が、ヴァラルの目の前で覆されていく。何しろ、量産機どころか高出力型のアーマーダイバーだとしても首を傾げてしまうほどの弾数が撃ち出され続けているのだ。
(だが……あの威力、あの勢いであれば、全滅も可能か?)
そう一瞬思いかけたが、すぐさまヴァラルは頭を横に振って己の考えを否定する。
(いや、あいつらは撃たれても復活する。恐らくは足止め程度にしか……しかし、近づいてくるオリジンダイバーに我が隊も加われば、どうにかはなるはずだ。今が好機か)
第七兵団ヴァラル隊の現在の目的は、第七兵団が陥っている状況を外に伝えることだった。
今一番あってはならないのは、誰にも知られずに彼らが全滅することだったが、ここで勝ちの目が出てきた。であればとヴァラルは部隊に指示をしながらUターンをしようとしたのだが……
『そのまま進んでくださーい』
突然通信機から告げられた言葉にヴァラルはフットペダルを踏もうとした足を留まらせる。
何しろその言葉の主が聖騎士のひとりにして第五兵団エンジェルラダーのエース、マリア・エントランだとヴァラルは知っていたからだ。
この聖騎士とは、ヘヴラト聖天領軍の誇る聖騎士団の一員であることを指している。
聖騎士は全員がオリジンダイバー乗りであり、通常は各兵団に所属しているが領難、つまりはワールドイーターなどが出現した際には集結して対処を行うヘヴラト聖天領の力の象徴なのだ。
『第七兵団ヴァラル隊ですよねー。被弾も多いようですしー。現状でそちらが反撃に出ればー要らぬ被害が出ますのでー。今は撤退を優先してくださいねー』
「ハッ、マリア様のお心遣い、誠に感謝いたします……が、その……二機だけで大丈夫なのですか?」
そう話している間に、見たことのないオリジンダイバーがたった今、ヴァラル機を抜けていった。そちらもガーディアン戦に参加するようだが、ヴィーニュはこの場に留まっていて参戦する気配はなく、この先に反応があるハンターのものと思われる雲海船やアーマーダイバーも近づこうとしている様子がない。つまりは量産機一機とオリジンダイバー一機のみでガーディアンの群れを相手取ろうというつもりのようだ。
(オリジンダイバーならばともかく、量産機で耐えられるものではないのだが……アレは見た目以上に厄介なのだぞ)
最初はワンダリングギガンティックからの攻撃に散り散りになって逃げた彼らだが、追撃してきたあの傘型ガーディアンに対して反撃はしていたのだ。
見た目からしてそこまでの脅威は感じなかったし、十分に対処は可能と考えてのことだった。
しかし、いくら撃って落としても傘型ガーディアンは戦線に復帰し、決して近づかずに囲んで狙い撃ちをしてくる。そんな相手を前にヴァラルたちは徐々に削られていって、今のような状態へと陥っていた。
けれどもマリアは『問題ないかなー』と返す。
『リリちゃんはスペシャルだし、ルッタくんはまあ怪物だよ。私の出る幕なんてないない』
そんなわけないだろうとヴァラルは思ったが、背後で行われている戦いを改めて視認することでマリアの言葉の意味を理解せざるを得なかった。
「倒せている……だと!?」
ヴァラルも白いオリジンダイバーが傘型ガーディアンを倒せているのは理解ができる。
傘型ガーディアンが攻撃を受け流そうとしても、それを上回る攻撃をすれば破壊は可能であり、オリジンダイバーとはそれが可能な機体であった。けれども、最初に現れた量産型アーマーダイバーは、あの凶悪そうな重火器を何故か手放して、オリジンダイバーと同じように近接戦を挑み始めていたのだ。
「待て。自殺行為だ」
『どうだろねー』
「な!?」
(なぜ避けられる? 何故当てられる!?)
ヴァラルたちが相対した時には蜘蛛の子を散らすように逃げていったガーディアンが何故か
量産機には追いつかれている。もっとも、よく見ればその理由はすぐに分かった。
(距離の詰め方が絶妙に上手い。ブースターを使って一気に迫り、そして一瞬の接触のタイミングで仕留めているのか)
傘型ガーディアンの基本戦術は距離をとって囲んで仕留めるというものだ。移動速度はアーマーダイバーと大差はないし、攻撃を受けてもすぐに復活する。そんな相手が全方位からの囲い込み攻撃を行うのだから厄介この上ないのだが、目の前の量産機はオリジンダイバーに合わせた動きで巧みに近づき、距離を取られてもブースターで急加速し、捉えたところで二本の剣でひっくり返して魔導散弾銃の至近射撃で仕留めていた。
(経験に裏打ちされた、アーマーダイバーを知り尽くした者の動き。あの機体、どれだけの熟練者が乗っているのだ? だが、さっきは子供の声だったはず。わけが分からない)
ヴァラルは先ほど量産機から聞こえた声を思い出して首を傾げた。
『うわー、接近戦が最適解かー。めんどー』
そして悩むヴァラルを後目にマリアがそうぼやく。
アーマーダイバーの基本戦術は銃撃戦中心だ。マリアやヴァラルたちも騎士であることを自認している以上は近接戦闘の訓練を受けているが、あくまで嗜む程度。
まるで舞うが如くガーディアンたちを倒していく二機のような真似は到底できるものではない。
「しかし、確かに我らの手助けは不要のようですな。承知しました。下がります」
状況を見れば、自分たちが参加する必要がないことは理解できる。そのことに自身の不甲斐なさを感じつつも、ヴァラル隊はその場を離れ……
『良し。リリの勝ち』
『一機差かぁ。ちぇー』
『キキー!?』
それほど時間もかからずに、ルッタたちによって傘型ガーディアンの群れは壊滅したのであった。




