002 超でかい伊勢海老のパーリータイム
伊勢海老食ったことないなぁ……
「んーーー。プリップリ。デリシャス。ブリリアント!!」
「ちょっとリリ、ハムスターみたいになってるわよ。まあ、気持ちは分かるけど……落ち着いて食べなさいよ」
「お前らなぁ。でも量だけはあるからなぁ。保管できる素材にも限界があるし、消費できるなら消費しておかねえとな。だからよ。テメェらも食えるだけ食っちまえ。遠慮なんぞするんじゃねーぞ。陸じゃあ滅多に食えるもんじゃねーからな」
「「「「オーーッス」」」」
ギアの言葉にこの場にいるタイフーン号のクルーたちが声を上げる。
スパイニーロブスタリアの群れを狩り終えた夜、タイフーン号の食堂はスパイニーロブスタリアパーティ会場となっていた。何しろルッタたちが仕留めたスパイニーロブスタリアの数は多く、タイフーン号の保管庫には当然収まりきらない。だから保存できない分はこうして豪勢に振舞われることになったのだ。
「後でラニーたちにも持っていってやらねえとなぁ」
「あいよ。スパイニーロブスタリアサンドを用意しているさね。レタスもトマトもたっぷりのヤツをね」
ギアの言葉に料理長のラタールがそう返した。
緊急時の対応のために副長のラニーや一部のクルーは今もブリッジにいる。後で交代もするが、熱々のものを差し入れにとラタールがすでに動いていたのだ。
また、そんなやり取りが行われている一方で、ひとりテンションの低い者が会場にいた。それは今回初陣だったメイサ・エントランである。
「うう、わたくしは駄目な娘ですわ」
「リリの要求が高過ぎる。初陣なら出来すぎの結果だ」
もそもそとロブスタリアサラダを食べるメイサを師匠であるジャヴァが慰めているが、あまり効果はないようである。その様子にルッタが首を傾げた。
「初めてであの戦果でしょ。落ち込む要素あった?」
「メイサは昔から完璧主義者なんだよ。まあ悩んで、悩んで、それで次にはちゃんと修正してモノにしてくるんだから、やっぱりアイツは天才ってヤツなんだろうけどな」
負のスパイラルに落ち入らず、改善策を見出して成長する。そういった成長する天才がメイサであるとコーシローは言う。
本来であればアーマーダイバーは十五歳以上から乗り始めるのが一般的である。ルッタより一歳歳上とはいえ、十三歳でランクC飛獣であるスパイニーロブスタリアを撃破できたというのは本来尋常ではないことなのだ。
ともあれ、それはそれとしてメイサは大きく落ち込むのであった。
「うう、わたくしは幼き頃からアーマーダイバーの操縦訓練を受け、技量だけであれば騎士たちに準ずると教えられていましたわ。でもわたくしは素材を駄目にする失態を犯し、リリ姉様には呆れられ、わたくしの討伐したスパイニーロブスタリアはこの食卓には上がりませんでした」
「う……む」
「でもルッタはスパイニーの親玉も倒しましたし、初陣でもゴーラ武天領軍をバッタバッタと薙ぎ倒し、オリジンダイバーにも勝利したとも聞いていますわ。わたくしはソメイロ山に落ちたフライカワズなのですわ」
「いや、メイサ姉。ブルーバレットに最初に乗った時のことならオリジンダイバーのノワイエとは相打ちだったし、俺の本当の初陣の時はただ逃げてただけだからね」
「え、マジ? そうなのか?」
「そうだよ」
メイサよりも驚いたコーシローの問いにルッタが頷く。メイサの方も「そうなんですの。人に歴史ありですわね」と呟いた。
確かにタイフーン号に乗ってからのルッタの活躍は目覚ましく、ようやくアーマーダイバーを乗ることを許されたメイサにとっては眩いものに映るだろうが、それでもルッタとて人の子。何事にも最初があるのは当然なのだとメイサは理解したのである。
なお、ルッタの言う初陣とは両親を失った八歳の時のことだ。それはつまり、壊れたアーマーダイバーに初めて乗って、ワールドイーターと呼ばれる暴食竜ドラクルから逃げ切った時のことを言っているのだが、それは言わぬが花であった。
そしてルッタの言葉に何かしらの感銘を受けたメイサは「負けていられませんわ〜」とスパイニーロブスタリア天ぷら蕎麦をズモモモモと啜り始め、ジャヴァもうんうんと頷いてスパイニーロブスタリア串を頬張った。
その様子にルッタも満足しながら、続けてスパイニーロブスタリアの蒸し焼きを手に取ってモシャモシャと口にした。
「やっぱり食感も味の濃さもロブスタリアとは違うなぁ。コーシローさんの口にした伊勢海老もこんなんなの?」
「うーん。そうだなぁ」
伊勢海老未経験者の前世を持つルッタには伊勢海老の味が分からない。対してコーシローの方も一度口にしたことがあるだけで、違いと言われても答えづらくはあった。
「そもそもサイズが違うから一概にそうだとは言えないが、こんなんだった気がするぞ」
「へぇ」
「食材としての価値観も近いしな。ロブスタリアは金を払えば庶民でも食べられるが、スパイニーは個体数が少なく、大抵は貴族に卸されるそうだから俺らが食える機会ってマジねえんだよ」
「高級食材ってこと? そんなのを俺らが食べちゃっていいの?」
「そいつは自分で捕まえたハンターの特権だな。まあ、この船にも貴族はいるからそっちのルートから買えなくはないが」
「ふーん」
ルッタが輪切りステーキのバター醤油かけを口にしながら頷いた。
「うんまっ」
スパイニーロブスタリアの大きさからエビの足の中身からでも輪切りステーキなどということが可能で、それはそれは暴力的な旨さであった。
(次にいつ食えるか分からないし、食えるだけ食っとこ。流石に二、三日したら飽きそうだけど)
前回のロブスタリアの時もそうだったが、飛獣というのは基本的には巨大で、食材になるタイプの飛獣は人間が食べるには可食部部位が多く、保存しきれなければその場での廃棄が基本である。
(とはいえ、マジで美味いなぁ。ブルーバレットの新装備も悪くはなかったし、アレは食材系の飛獣には必須だね)
今回ルッタがスパイニーロブスタリア・ラセンソードをほとんど傷めずに仕留めた新装備の名を魔導雷銃という。
近接戦闘を前提とした玄人向けの武器だが、ルッタの腕前ならば十分に活用できる。ルッタも今回の結果には満足していた。
(ブルーバレットの仕上がりは順調。能力的な部分は満たしたし、後はどれだけプラス要素を追加できるか……アヴァランチの方はまだまだだけどさ)
暴食竜ドラクルを仕留める算段は現時点でのブルーバレットで十分に可能だとルッタは結論を出していた。あとは更に勝率を上げるために積み上げていくのみであると。
一方でアヴァランチはまだまだだ。シェーロ大天領闘技場でルッタはアヴァランチと共にギンナを抜いてシェーロ大天領の序列二位にまで昇り詰めた。またギンナとの訓練も繰り返したことでアヴァランチを介した近接戦闘も熟れては来た。
なので現時点での見立てでもクロスギアーズの上位には行けるだろうとルッタは考えているが、確実に優勝するには足りていない。
(元々の乗り手の人のセッティングで機体が近接寄りに特化しているし、ドラッグブースターと魔導手甲も得た。可動部もドラグボーンフレームで補強したから大抵の相手ならやれるとは思う。でもイシカワさんは普通にバグってたからなぁ。あのクラスがもう何人かいたらかなり厳しいし、あと一手か二手欲しいんだよね。チヨーダで見つかるといいけど)
タイフーン号はヘヴラト聖天領に向かう途中で、アキハバラオー最強レアロボ武器商店の本拠があるチヨーダ大天領に寄る予定であった。
そこでブルーバレットやアヴァランチの追加装備を漁る予定だし、コーシローの勧めで今回倒したスパイニーロブスタリア・ラセンソードの触角を用いた武器も作成してもらうつもりであった。
「おい、ルッタ食ってるか」
「ギア艦長。うん、モリモリ食ってるよ」
すでにジャンボエビワンタンメンに手をつけ始めたルッタがギアにそう返した。
「そうか。基本的にお前の弱点はフィジカルだからなぁ。食って動いて鍛えるだけで十分に強くなれるだろうさ」
ワハハと笑いながらルッタの肩を叩く。
実際、その言葉は確かで、ルッタもタイフーン号に乗ってからは食糧事情が改善され、運動もこなすことで体も年齢相応からそれ以上に鍛えられてきてはいる。
けれども、アーマーダイバーは本来十五歳以上、体が出来上がった者が扱うことを前提としているのだ。ルッタが真の意味で乗り手としてのピークを迎えるにはまだ月日を必要としていた。
「ところでルッタ。マリアを知らないか? さっきまでこっちにいたって聞いたんだが」
「マリアさん? ああ、さっきまでいたけど……あの機械の鳥? が来て、食堂の外に出ていったよ」
「機械の鳥? アエロのことか」
「アレってオリジンダイバーのドローンなんだよね?」
「そうだな。あいつの機体は斥候向けで、あのスカウトドローンを無数に飛ばして広域を探索できるんだが……ふむ?」
ギアの娘マリアが乗るオリジンダイバー『ヴィーニュ』は索敵重視の、情報収集を専門としたオリジンダイバーだ。そしてヴィーニュの操るスカウトドローン『アエロ』は直接的な戦闘能力は低いが、小鳥のように小さく、隠密性に優れ、フレーヌのシルフのようにある程度の自主性を持って行動することもできる。
そのアエロがやってきてマリアが外に出た……という事実にギアが首を傾げると、直後にタイフーン号が揺れた。
「え?」
「なんだ?」
「攻撃ではないな」
「ルートを変えた?」
周囲がざわつき、ギアが眉をひそめる。
「なんだぁ?」
ギアはタイフーン号の進行ルートを変えるよう指示した覚えはなかったが、ブリッジで留守番をしているラニーに緊急時の裁量は任せてある。故に問題はどんな緊急事態が起きて、ラニーがどう動いたかだ。
そして、その答えはすぐさま食堂室のスピーカーから響いてきた。
『ブリッジのラニーだ。食事中の連中、すぐに手を止めろ。正面から敵戦力多数。ヘヴラト聖天領軍が襲われてこっちに逃げてきてやがる。接敵まで時間がねえ』
「何!?」
ガタガタとテーブルが揺れ、船自体が大きく動き始めたのをその場の誰もが理解した。
『ルートの変更はしたがこのままだと確実に接触する。敵戦力はガーディアンだ。イシュタリア遺跡のガーディアンが三十二。総員、戦闘準備。死にたくなきゃ全員すぐさま動き出せ!』




