蛇足―ほんとうにdoudemoii話―
注意書きなどまったくなかったのですが、つまり作者は名前を決める作業がとても苦手だったので、名前なんてなければいいのにと思っていました。用語集的な意味も込めて暴露できたらなあと思っていたことを載せておこうと思います。ごめんなさい……!
<お魚さん一家>(サ○エさんではない)
ユウゼン……チキンですがカカシですが魚の名前です。特に伊豆七島や小笠原諸島で多くみられる日本固有種。海のような瞳を表現しようとしましたが無理でした。
カラシウス……弟。金魚の学名からいただきました。今考えるともっと凶暴な魚のほうが相応しい気がしてきました。
ラティメリア……姉。シーラカンスの学名。オズの七不思議。シーラカンスはかわいいと思います。
オルカ・オルシヌス……オズ皇帝。オルシヌス・オルカ=シャチの学名。
モデストゥス……伯爵。ハゼです。ハゼかわいいですね。モデストゥスを書くのは楽しかったです。
セラストリーナ……セラストリーナはオリジナルだったと思います。ユウゼンを「お兄ちゃん」なんて呼ばせてたまるかと思い、ユウ兄さんにしました。
<その他の人など>
シルフィード……蜂鳥の総称がシルフで、その女性形からとりました。
ヘリエル……もっとユウゼンと三角関係にしたかったんですが頑張れませんでした。同情が表現できていればいいなと思います。
セクレチア……鬼畜女官。魔術や罵倒楽しかったです。
モリス……従者。盲導犬の名前から頂きました。いつの間にか捻くれてました。
シアン……猫かぶり・ボガゴンチャーミー・傀儡・不老不死。あのインク色。シアン好きです。
ライム……果物の名前から。とても書きたくなり一部主人公にしました。萌。
ビディー・アーリー……アイルランドに実在したらしい酒屋の魔女の名前。
ルサールカ……レリウスの母親。水の妖精の名前です。
ルカ、リオ……奇獣。一文字ずらしただけの名前から作者のやる気がうかがえます。
マーリン・アンブロジウス、シモン・マグス、アポロニウス・ド・ティアナ……精霊魔術師。マーリンはアーサー王のマーリン、シモンは聖書などに登場する魔術師で、アポロニウスはキリストに対抗するように担ぎ上げられた不思議な人物から頂きました。
<その他>
オズ……の魔法使い; カカシは意図していなかったので無意識です。
マゴニア……中世フランスにおける、伝説上の空中の大陸。
テンペスタリ……テンペスタリイ(Tempestarii)「嵐を起こすものたち」
カムロドゥノン連邦国……Camulodunon、戦の神カムロスの町。
ティル・ナ・ノーグ……アイルランドのケルト神話に登場する妖精の国。
葦原中国……あしはらなかつくに。日本神話において、高天原と黄泉の国の間にあるとされる世界、すなわち日本の国土のこと。
シルヴァグリーン……造語です。キュウリの中と外を混ぜ合わせた色。
ヘテロクロミヤ・アイディス……ヘテロクロミア・イリディス=虹彩異色症。
ハルジオン……春の雑草。
アドニス……アネモネ。又は神話に出てくる美少年。
「いつかの午後に―A wish―」
森の砂漠の側の、どうかすると緑に埋もれてしまいそうな屋敷。
午後の暖かい光は植物も人も生き生きと照らし出して、シルフィードは木陰で地面に直接腰を降ろしながら穏やかな景色を眺めていた。
遠くで、ライムが怒り、モデストゥスが笑う陽気な声が聞こえた。シアンとアダマントの落ち着いた会話。女中さんがマーテンシーに何か話しかけている。少しだけ涙が出そうになる。
こわいのかな。まだ。それとも罪悪感なのかと考えている。
「夢、じゃない……?」
今でも信じられなくて、もう離れたくなくて、全て忘れてしまいたいような気がして、シルフィードは夢の中で彼の手に縋った。好きだと言ってくれた。雲の多い青空の下。優しい幻に包まれたまま死にたいと願った、あの日。
彼は王座を辞退した。彼の美しい弟がもうじきその地位を受け継ぐ。後継のいなかったハルジオン地方の伯爵の、その後を彼は担うと発表して、とても大きな話題になった。それと同じくらい、盛大だった挙式。それはカカシ皇子と蜂鳥の姫の物語として長く語り継がれることを、シルフィードはまだ知らない。
追われるように、色々なことがめまぐるしく、たびたび顔は合わせてもゆっくりと一緒にいることは出来なかった。彼は誰にでも優しい。それにしなくてはいけない事がたくさんある。自分のために、と考えて、嬉しくて苦しくて涙が出そうになった。
「シルフィ! そこにいたん……」
そして、どこかから帰ってきたらしい暖かい声が身体に沁みこんでくる。立ち上がって出迎えようとする間もなく、彼は走り寄ってきて真っ直ぐな視線をこちらに向けた。綺麗な、深くて穏やかな唯一の瞳だった。
「どうか、したのか? なにか不安なことでも……!?」
彼は大げさなほど心配そうに側に跪いた。たぶん、感傷的になって涙ぐんでしまったから。まだ上手く笑えない。一生罪は消えない。それでも、気にかけてもらえるから嬉しいだなんて、私はとても浅ましい。
「いえ……なんでも、ないです……お帰りなさい」
少し困ったような顔で、うん、と頷く彼はどう言えばいいのか悩んでいるようだった。不器用に、それでも一生懸命に、伝えようとする。
「あの、だから……なんでも、どうでもいいことでも、相談してくれていいから……。俺、もう皇帝じゃないし、今の暮らしの方が満足で、余裕もあって、つまりなんでも大丈夫、というか……? もし、マゴニアに帰りたいのなら──」
「じゃあ、夢じゃないって……言ってほしいな……」
呟けば、ぴたり、と彼の表情が止まる。それから安心したような、泣き出しそうな、色んな感情が彼の中によぎった。それでも言ってくれた。
「夢、じゃない……夢じゃない。好き、だ」
さわさわと、植物たちが揺れて音をたてる。白い蝶が飛び立って、鳥の影が地面を通り過ぎた。
熱くて、胸が締め付けられて、全部満たされる。シルフィードは堪え切れなくなって、おそるおそる彼のシャツを少しだけ掴んだ。
「好き、ですよ」
遠くから聞こえる笑い声と暖かい、誰も知らない午後。
緑に埋もれた庭の片隅で、二人は確かめ合うように唇を重ね合わせた。