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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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第46話 観測範囲

 翌日の夜。


「これでいい?」


「うん」


 美咲が確認するように、テーブルの上を見た。


 そこには、俺の腕時計が置いてある。


 普段、仕事につけていくやつだ。


「一個目」


「近くにある物やね」


「そう」


 美咲がスマホの時計を見る。


「高城さん、まだ?」


「九時って言ってたから」


「あと一分」


「研究者って時間ぴったりに電話してくるんかな」


「知らん」


「九時ちょうどに――」


 ブブッ。


「…………」


 俺と美咲が同時にスマホを見る。


「来た」


「怖っ」


「出て」


「はい」


 通話ボタンを押す。


「もしもし」


『高城です』


「九時ぴったりですね」


『九時にと言ったでしょう』


「いや、ほんとにぴったりだなって」


『早いほうが良かったですか?』


「そういう意味じゃないです」


 横から美咲がスマホへ声をかける。


「こんばんは」


『美咲さん、こんばんは』


「今日もお願いします」


『こちらこそ』


「俺には?」


 俺が割り込むと、電話の向こうで高城が一拍置いた。


『何がです?』


「いや、いいです」


 スマホをテーブルの中央へ置く。


『では、昨日決めた実験を始めましょう』


「はい」


『その前に体調は?』


「普通です」


『頭痛』


「なし」


『吐き気』


「なし」


『睡眠時間』


「六時間半」


『分かりました』


「健康診断みたいになってきた」


 俺が言うと、美咲がすぐに返す。


「大事やろ」


『大事です』


 高城まで同意した。


「はい」


 最近、二対一になることが増えた気がする。


『対象は用意できましたか?』


「一つ目は、俺が普段仕事につけてる腕時計です」


『今、手元にありますか?』


「はい。テーブルの上。俺から五十センチくらい」


『分かりました』


 そこで美咲が次を促す。


「二つ目は?」


「実家に置いてある、昔使ってたゲーム機」


『現在もあることは確認済みですか?』


 高城が聞く。


「はい。昨日、親に確認しました」


「まだあると?」


 美咲が確認する。


「あるって」


『写真は?』


「送ってもらってます」


 スマホを操作する。


 昨日、母親に頼んで送ってもらった写真。


 実家の押し入れ。その奥に、昔使っていたゲーム機が写っている。


「ちゃんとある」


『現在位置も把握しているわけですね』


「実家の押し入れです」


『分かりました』


 美咲がまた俺を見る。


「三つ目は?」


「高城さんが今日送ってくれた、銀色のボールペン」


『はい』


 電話の向こうで高城が答える。


 別の画像を開く。


 一枚の写真。


 銀色のボールペン。


 美咲が画面を覗き込んだ。


「普通のペン?」


「らしい」


『私物です』


 高城の声。


「高城さんの?」


『はい』


「今、どこにあるんです?」


『それは言いません』


「…………」


 俺が黙ると、美咲が呆れたように言った。


「そういう実験やろ」


「分かってるけど」


『現在も存在しています。ただし、慎吾さんは現在位置を知らない』


「はい」


『これで三条件です』


 一つ目。


 実物がすぐ近くにあり、現在位置も分かっている物。


 二つ目。


 実物は遠くにあるが、現在位置を知っていて、写真もある物。


 三つ目。


 実物は遠くにあり、現在位置を知らないが、写真で対象を認識できる物。


『これで、観測範囲という言葉が、物理的な距離や位置情報と関係しているかを確認します』


「はい」


『ただし』


 高城が続けるより先に、俺が言う。


「深追いしない」


『はい』


「新しい表示が出ても勝手に進めない」


『はい』


「頭痛が出たらやめる」


『はい』


 俺は美咲を見る。


「美咲」


「何?」


「もう覚えた」


「偉いやん」


「四十一歳への褒め方じゃない」


『では始めましょう』


 高城に促される。


「はい」


 俺は腕時計を見る。



     ◇



 いつものように意識する。


 ただし、今日は未来価格じゃない。


 観測範囲。


「…………」


 最初は何も出ない。


 横で見ていた美咲が、小さく聞く。


「慎吾?」


「まだ」


『焦らずに』


 高城の声。


「はい」


 観測範囲。


 この腕時計は、俺の能力にとってどこにある?


 数秒。


 表示が浮かんだ。



【観測対象を検知】



「出た」


『そのまま読んでください』


「観測対象を検知」


 次。



【対象情報を照合します】



「照合」


『待ちましょう』


 数秒。



【照合完了】



「終わった」


 そして。



【観測状態:範囲内】



「…………」


『慎吾さん?』


 高城が呼ぶ。


「範囲内」


『正確には?』


「【観測状態:範囲内】」


『分かりました』


 電話の向こうで、高城が何かを書いている音が聞こえる。


「近くにあるから?」


 俺が反射的に言う。


「慎吾」


 すぐに美咲が止めた。


「分かってます」


『まだ一個目です』


 高城まで続く。


「はい」


 美咲が少し笑う。


「教育されとるね」


「最近、自分でも思う」


『次へ行きましょう』


「はい」


 腕時計から目を外す。


 表示は数秒して消えた。


「消えました」


『頭痛は?』


「なし」


『では二つ目』


「実家のゲーム機」


 スマホに表示された写真を見る。


『実物は慎吾さんから離れています』


「はい」


『ただし、現在位置は分かっている』


「実家の押し入れ」


『写真を通して対象も認識できる』


「はい」


『では観測してください』


「分かりました」


 写真を見る。


 昔使っていたゲーム機。


 色も、形も、傷も覚えている。


 懐かしい。


「…………」


 意識する。


 数秒。


 何も出ない。


「駄目?」


 俺が呟く。


『待ってください』


 高城がすぐに返す。


「はい」


 さらに数秒。


 すると。



【観測対象を検知】



「来た」


 美咲が画面を覗きながら聞く。


「写真でも?」


「うん」


『続きは?』


 高城の声。



【対象情報を照合します】



「同じ」


 数秒。



【照合完了】



 そして。



【観測状態:範囲内】



「…………」


 俺が黙ったのを見て、美咲が聞く。


「どうした?」


「範囲内」


『一つ目と同じ?』


「はい」


 美咲が少し考えてから言う。


「じゃあ、遠くても見れるんやね」


『少なくとも、この二条件ではそうです』


「距離じゃない?」


『まだです』


「高城さん」


『はい』


「最近、俺が言う前に止めますよね」


『慎吾さんが言うので』


「未来見えるんです?」


『見えません』


「じゃあ何で」


 美咲が横から割って入る。


「慎吾が分かりやすいからやろ」


「妻まで」


『三つ目へ行きましょう』


 高城に流された。


「はい」


 少し休む。


 頭痛はない。


 気分も悪くない。


 テーブルの水を一口飲む。


 美咲が俺の顔を見る。


「大丈夫?」


「うん」


「無理せんでよ」


「してない」


『では三つ目です』


「はい」


 スマホに表示された写真。


 銀色のボールペン。


 高城の物。


 今も存在している。


 でも、どこにあるかは知らない。


「…………」


 写真を見る。


 意識する。


 観測範囲。


 数秒。


 何も出ない。


 さらに待つ。


 美咲が小さく俺を見る。


「慎吾?」


「まだ」


『そのまま』


 高城の声は落ち着いている。


「はい」


 十秒。


 十五秒。


 少し長い。


 でも、頭は痛くない。


 そのとき。



【観測対象を検知】



「出た」


『続けて』



【対象情報を照合します】



「照合」


 少し長い。


 数秒。


 十秒。



【照合完了】



「終わった」


『結果は?』


「待って」


 表示が変わる。



【観測状態:範囲内】



「…………」


 俺の顔を見て、美咲が聞く。


「慎吾?」


「同じ」


『範囲内?』


 高城が確認する。


「はい」


 美咲が驚いたように俺を見る。


「場所分からんのに?」


「うん」


『慎吾さん』


「はい」


『一度、観測を終了してください』


「分かりました」


 写真から目を外す。


 意識も切る。


 数秒後、表示が消えた。


「消えました」


『体調は?』


「問題なし」


『分かりました』


 電話の向こうで、高城が黙る。


「高城さん?」


『整理します』


「はい」


『一つ目。近距離。現在位置を把握。実物を直接観測』


「範囲内」


『二つ目。遠距離。現在位置を把握。写真を通して観測』


「範囲内」


『三つ目。遠距離。現在位置は不明。写真を通して観測』


「範囲内」


 美咲が言う。


「全部一緒やね」


『はい』


「じゃあ」


 俺は少し考えながら言う。


「少なくとも、距離だけで決まってるわけじゃない?」


『その可能性が高くなりました』


「場所を知らなくても関係ない」


『今回の条件では』


 そこで美咲が俺を見る。


「慎吾」


「何?」


「高城さんみたいになってきたね」


「俺も今思った」


『良い傾向です』


「褒められた」


「よかったね」


 何だろう。


 最近、高城に褒められるとちょっと嬉しい。


「でも」


 美咲がテーブルを見た。


「じゃあ、あれは何なん?」


「…………」


 分かる。


 あれ。



【保護対象の一部が観測範囲外に存在します】



「遠くにおるからじゃない」


「場所が分からんからでもない」


「じゃあ」


『そこです』


 高城が言った。


『私たちは、観測範囲という言葉を少し単純に考えすぎていたのかもしれません』


「どういうこと?」


『観測範囲という言葉から、物理的な範囲を想像した』


「距離とか」


『はい』


「でも違う?」


『まだ違うとは断定できません』


「…………」


『ただ』


 高城が続ける。


『慎吾さんは、三つの対象すべてを認識していました』


「認識?」


『一つ目は当然です。自分の腕時計ですから』


「はい」


『二つ目も、過去に所有していた物。現在も実家にあると確認している』


「はい」


『三つ目は初めて見る物ですが』


「写真で見た」


『そして私から、現在も存在していると聞いた』


「…………」


 少し分かってきた。


「つまり」


『慎吾さん』


「はい」


『言ってみてください』


「急に先生みたい」


『いいから』


「はい」


 考える。


 三つとも、距離は違う。


 現在位置を知っているかどうかも違う。


 でも、一つだけ共通している。


「俺が対象として認識できてる?」


『私は、その可能性を考えています』


「…………」


 美咲も少し考えている。


「じゃあ」


 美咲が俺を見る。


「観測範囲外って、慎吾がまだ知らんものってこと?」


 心臓が一度、強く鳴った。


『可能性はあります』


 高城は否定しなかった。


「まだ知らない」


『正確には、現在の慎吾さんが観測対象として認識できていない存在』


「…………」


 頭に浮かぶ。


 未来の研究室。


 俺。


 高城。


 黒瀬。


 四人目。


 顔は見えない。


 性別も、年齢も、名前も何も分からない。


 でも、未来の俺のすぐそばにいる。


「高城さん」


『はい』


「もし四人目が」


『慎吾さん』


「まだ最後まで言ってない」


『四人目が第二の保護対象とは確定していません』


「…………」


 美咲が吹き出す。


「先に全部言われたね」


「悔しい」


『実績です』


「その言葉ほんと便利だな」


 でも、つながる。


 いや。


 つなげたくなる。


 今の俺は四人目を知らない。


 だから観測できない?


「これから会う人?」


 美咲が言った。


『可能性の一つです』


「じゃあ」


 俺も続ける。


「未来では知ってる」


『もし四人目が同一人物なら、そういうことになります』


「…………」


 未来の俺のすぐそば。


 最初から一緒にいるような距離。


 今の俺は知らない。


 でも、未来の俺は知っている。


「これから出会う……」


 俺が呟く。


 美咲が少し黙ったあと、言った。


「それか」


「何?」


「まだおらん」


「…………」


 俺は美咲を見る。


 電話の向こうの高城も、少し黙った。


「この前、高城さん言ってたやん」


『時間的な意味で観測範囲外にある可能性ですね』


「そう」


「…………」


 美咲は少し言いにくそうに続けた。


「これから生まれるとか」


「…………」


 また頭に浮かぶ。



【保護対象:2】



 一つが結衣。


 もう一つが。


「二人目……」


「慎吾」


 美咲に呼ばれる。


「まだ何も」


「顔」


「はい」


『慎吾さん』


 今度は高城。


「分かってます」


『現時点では、対象が人間かどうかも確定していません』


「はい」


『一つが結衣ちゃんかどうかも』


「確定してない」


『そうです』


「でも可能性はある」


『あります』


「…………」


 美咲を見る。


「何?」


「いや」


「男の子とか考えた?」


「まだそこまでは」


「まだ?」


「言葉の綾です」


『お二人とも』


 高城が割って入る。


「はい」


『話を戻します』


「すみません」


 電話の向こうで、高城が少し息を吐いた。


『今日確認できたのは一つです』


「はい」


『少なくとも今回の三条件では、物理的距離や現在位置の把握だけでは観測範囲外にならなかった』


「うん」


『そして、観測範囲が慎吾さん自身の対象認識と関係している可能性が出てきた』


「…………」


『今日はここまでです』


「はい」


 美咲が俺を見る。


「素直やん」


「俺も学習するんです」


『良いことです』


「じゃあ今日は終わり?」


『はい』


「分かりました」


『慎吾さん』


「何です?」


『今夜は結衣ちゃんの絵を見ない』


「見ません」


『四人目を意識して能力を使わない』


「はい」


『保護対象も解析しない』


「はい」


『分かりました』


「完璧やろ」


 美咲が横から確認する。


「明日の朝、勝手に見たりせん?」


「美咲?」


『それも禁止です』


「高城さん?」


 美咲は満足そうに頷く。


「よかった」


「俺の人権は?」


『あります』


「能力使用権は?」


『今日はありません』


「ないんかい」


 美咲が笑った。


 俺も笑う。


『では、おやすみなさい』


「おやすみなさい」


 美咲もスマホへ声をかける。


「ありがとうございました」


『美咲さんも、おやすみなさい』


 通話が切れた。



     ◇



「で」


 美咲がスマホを取る。


「寝る?」


「まだ九時半です」


「テレビ見る?」


「見る」


「未来は?」


「見ません」


「よろしい」


「だから保護者みたいに言うなって」


 テレビをつける。


 何でもない番組。


 何でもない夜。


 結衣はもう寝ている。


 ゼロも、いつものようにその隣だ。


 美咲は隣。


 未来は今は見ない。


 高城と約束した。


 美咲とも。


 今日は終わり。


 そう思っていた。


 十分ほど経ったころ。


「慎吾」


「ん?」


 美咲がテレビを指す。


「これ面白そう」


「何?」


「次の店」


「ああ」


 画面を見る。


 その瞬間だった。



【観測情報を更新します】



「…………」


 体が止まる。


 美咲がすぐに俺を見る。


「慎吾?」


「待って」


「何?」


「出た」


「何が?」


「能力」


 美咲の顔が変わる。


「使った?」


「使ってない」


「ほんと?」


「何も見てない」


「高城さんに電話する?」


「まだ」


「慎吾」


「違う。まず読むだけ」


「…………」


 表示を見る。



【観測範囲情報を更新しました】



「観測範囲……」


「何?」


「情報を更新したって」


「さっきの実験?」


「分からん」


 頭痛はない。


 吐き気もない。


 ただ、表示だけが勝手に続く。



【保護対象:2】



「…………」


 美咲が俺を見る。


「慎吾?」


「保護対象」


「二?」


「うん」


 変わっていない。


 次。



【観測範囲外:1】



「一」


「何が?」


「観測範囲外」


「…………」


 美咲が俺の腕を掴む。


「もう一個が?」


「たぶん」


「慎吾」


「分かってる。たぶん」


「高城さんに電話しよ」


「うん」


 スマホへ手を伸ばす。


 そのとき、もう一つ表示が浮かんだ。



【接触予測:算出可能】



「…………」


 手が止まった。


「慎吾?」


「接触……」


「何?」


「接触予測」


「…………」


 美咲も固まる。


「それ」


「うん」


「会うってこと?」


「分からん」


「でも」


「待って」


 次の表示。



【接触までの残り時間を表示しますか?】



 その下に。



【はい】


【いいえ】



「…………」


 美咲がすぐに俺を見る。


「慎吾」


「うん」


「選ばんでよ」


「分かってる」


「高城さん」


「うん。先に高城さん」


 スマホを取る。


 高城へ発信する。


 一回。


 二回。


『はい』


「高城さん」


『何か出ました?』


「…………」


「何で分かるんです?」


『慎吾さんから電話してくるときは、大体そうです』


「俺から普通に電話したことない?」


『ほぼありません』


「…………」


 美咲が俺の肩を軽く叩く。


「慎吾」


「はい」


「早く」


「そうだった」


 一度、息を吸う。


「新しい表示です」


『読んでください』


「【観測範囲情報を更新しました】」


『はい』


「【保護対象:2】」


『はい』


「【観測範囲外:1】」


『…………』


 高城が黙る。


「それから」


『はい』


「【接触予測:算出可能】」


『…………』


「高城さん?」


『続きは?』


「あります」


『何です?』


「【接触までの残り時間を表示しますか?】」


『…………』


「その下に、はいといいえ」


『まだ選んでいませんね?』


「選んでません」


『そのままで』


「はい」


『頭痛は?』


「ない」


『吐き気』


「ない」


『表示以外に変化は?』


「ないです」


『分かりました』


「高城さん」


『はい』


「これ、接触って」


『まだ意味づけしません』


「ですよね」


『ただ』


「はい」


『一つだけ』


 高城の声が、少しだけ低くなった。


『今日の実験によって、慎吾さんの能力が観測範囲に関する情報を更新した可能性があります』


「…………」


 横にいた美咲がスマホへ身を寄せる。


「じゃあ、この接触予測って」


『美咲さん』


「はい」


『まだ選ばないでください』


「私には選べないですよ」


『あ』


 珍しく、高城の声が止まった。


「高城さん?」


『慎吾さんにしか選べないんでしたね』


「たぶん」


『失礼しました』


「珍しい」


『何がです?』


「高城さんがちょっと慌ててる」


『慌てていません』


 美咲が俺を見る。


「今のは慌ててたやろ」


「ちょっとね」


『…………』


「高城さん?」


『今日は表示しません』


「え?」


 思わず聞き返す。


『残り時間は、今日は見ない』


「でも」


『慎吾さん』


「はい」


『今までと違います』


「何が?」


『これまでは、慎吾さんが何かを観測しようとして情報を得ていました』


「はい」


『でも今回は、能力の側から何らかの“接触”が起きる時期を提示しようとしている』


「…………」


 背中が少しだけ冷たくなる。


「何と接触するんです?」


『そこが分かりません』


「ですよね」


『だからこそ、今日はここで止めます』


「…………」


 美咲が俺を見る。


「慎吾」


「分かってる」


 表示を見る。



【接触までの残り時間を表示しますか?】


【はい】


【いいえ】



 知りたい。


 めちゃくちゃ知りたい。


 第二の保護対象。


 観測範囲外。


 未来の四人目。


 そして接触予測。


 それらが全部、同じものにつながっているのか確かめたい。


「…………」


 美咲が静かに俺を呼ぶ。


「慎吾」


「うん」


「今日はやめよう」


「…………」


「私も知りたいよ」


「うん」


「でも、一緒に見るって約束したやん」


「…………」


「勝手に先に行かんで」


「分かった」


 表示へ意識を向ける。


「いいえ」


『選びました?』


 高城がすぐに確認する。


「はい」


 数秒。



【接触予測の表示を保留します】



「…………」


 美咲が聞く。


「どうなった?」


「保留」


『分かりました』


 高城が小さく息を吐く。


『今日は本当に終了です』


「はい」


『明日、黒瀬さんにも共有します』


「分かりました」


『慎吾さん』


「はい」


『よく止まりました』


「…………」


 俺は美咲を見る。


「美咲」


「何?」


「褒められた」


「よかったね」


「何か嬉しい」


『四十一歳ですよね?』


「急に現実に戻すな」


 美咲が笑う。


 電話の向こうで、高城もほんの少しだけ笑った気がした。


 通話を切る。


 表示はもう消えている。


 テレビの音が戻ってくる。


 いつものリビング。


 いつもの夜。


 でも、さっきまで俺の目の前には。



【接触予測:算出可能】



 そう表示されていた。


 第二の保護対象。


 観測範囲外。


 未来の俺のすぐそばにいる四人目。


 それらが同じ一つの存在を指しているのかは、まだ分からない。


 そもそも、今回表示された【接触】が何との接触なのかさえ分かっていない。


 ただ。


 能力は今、俺の知らない何かとの「接触」について、その時期を算出できると告げた。


 そして俺は。


 知ることができたその時間を、あえて見なかった。

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