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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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第45話 未来の四人目


 昼休みが終わっても、黒瀬の言葉が頭から離れなかった。



『慎吾さんと、その人物が』


『最初から一緒にいるように見えた』



「…………」


 仕事をしながら、何度も思い出す。


 未来の研究室。


 俺。


 高城。


 黒瀬。


 そして、顔の見えない四人目。


 そいつは俺のすぐそばにいた。


 ただ同じ部屋にいるという距離じゃない。


 最初から一緒にいるような距離。


「神崎さん」


「はい!」


「…………」


 隣から呼ばれて、思わず大きな声が出た。


「どうしたんです?」


「いや」


「ぼーっとしてましたよ」


「ちょっと考え事」


「珍しいですね」


「失礼やな」


「何考えてたんです?」


「未来」


「…………」


「あ」


 相手が少し引いた。


「すみません」


「いや、違うんです」


「何が?」


「何でもないです」


「…………」


 危ない。


 普通の会社で突然、


『未来について考えてました』


 は駄目だ。


 高城と黒瀬に囲まれすぎて、感覚がおかしくなっている。


「仕事しよ」


 パソコンへ向き直る。


 未来は夜。


 今は仕事。


 最近ようやく、その切り替えが少しできるようになってきた。


 たぶん。



     ◇



「ただいま」


「パパー!」


「はい」


 玄関を開けた瞬間、結衣が走ってくる。


「おかえり!」


「ただいま」


「きょうね!」


「うん」


「ゼロが!」


「うん」


「ぶつかった!」


「でしょうね」


「さんかい!」


「回数報告いります?」


「いる!」


「じゃあ記録しとこうか」


「うん!」


 スマホを出すふりをする。


「本日のゼロ、壁への衝突三回」


「いすも!」


「四回」


「テーブルも!」


「五回」


「いっぱい!」


「高城さんに返品しようかな」


「だめ!」


「作った人じゃないけどね」


「ゼロ!」


「はいはい」


 結衣の頭を撫でる。


 普通だ。


 いつもの結衣。


 四歳で、元気で、俺の娘。


 その顔を見た瞬間、昨日の表示を思い出した。



【保護対象:2】



「…………」


「パパ?」


「ん?」


「どうした?」


「何でもない」


「…………」


 結衣が俺の顔を覗き込む。


「パパ」


「何?」


「へんなかお」


「そんな顔してた?」


「してた!」


「最近みんなに言われるな」


「へんなかお!」


「二回言わなくていいです」


 結衣が笑いながらリビングへ走っていく。


 その後ろ姿を見る。


 一つは結衣。


 そう思っている。


 でも、まだ確定していない。


 もう一つは、もっと分からない。


「慎吾」


「うわっ」


 今度は美咲。


「何そんな驚いとるん」


「最近、考え事が多いんです」


「未来?」


「…………」


「当たり?」


「何で分かるん」


「顔」


「俺の顔、情報漏洩しすぎじゃない?」


「分かりやすいもん」


 美咲が俺を見る。


「何かあった?」


「…………」


「あったね」


「まだ何も言ってない」


「顔」


「便利だな」


「何?」


「黒瀬さんから電話あった」


 美咲の表情が変わった。


「何て?」


「昨日のこと」


「保護対象?」


「うん」


「何か分かった?」


「分かったというか……前に黒瀬さんが見た未来、覚えてる?」


「研究室?」


「そう」


「慎吾と、高城さんと、黒瀬さん」


「あと一人」


「顔が見えん人」


「うん」


 美咲が黙る。


「その人が?」


「俺のすぐ近くにいたらしい」


「近く?」


「うん」


「どのくらい?」


「高城さんとか黒瀬さんより、明らかに近い」


「…………」


「黒瀬さんの言い方だと」


 一度、思い出す。


『最初から一緒にいるように見えた』


「最初から俺と一緒にいるように見えたって」


「…………」


 美咲の顔から、少しだけ笑いが消える。


「それ」


「うん」


「昨日の二と関係あるん?」


「分からん」


「…………」


「高城さんならそう言う」


「慎吾が言った」


「俺も成長したやろ」


「ちょっとだけ」


「評価厳しいな」


「でも」


 美咲が俺を見る。


「気になるね」


「うん」


「四人目」


「うん」


「未来の慎吾の近くにいる人」


「そう」


 美咲が少し考える。


「女?」


「分からん」


「男?」


「分からん」


「大人?」


「分からん」


「子供?」


「分からん」


「慎吾」


「はい」


「何なら分かるん」


「俺に言わないで」


「黒瀬さんも?」


「分からんしか言ってなかった」


「高城さんが増えたみたい」


「最近みんな高城化してる」


「慎吾もね」


「俺も?」


「すぐ決めつけんようになったやん」


「…………」


「何?」


「褒められた?」


「たぶん」


「よかったね」


「高城さんに報告しよ」


「何で」


「神崎慎吾、成長しましたって」


「自分で言ったら台無しやろ」


 美咲が笑う。


 俺も笑う。


 そのとき。


「パパー!」


 リビングから結衣の声。


「なにー?」


「ゼロ!」


 ゴン。


「…………」


 音だけで分かった。


「六回目ですね」


「記録更新やね」


「何の記録だよ」



     ◇



 晩飯を食べたあと、俺は高城へメッセージを送った。


『黒瀬さんから聞きました』


 すぐに既読。


『四人目についてですね』


『はい』


『美咲にも話しました』


 少し間。


『反応は?』


「…………」


『気になるって』


『慎吾さんは?』


「俺?」


 少し考える。


『かなり気になります』


 返信。


『でしょうね』


「何だその返事」


 さらに来る。


『ただし、今夜は観測しないでください』


「…………」


 まだ何も言ってない。


『するつもりなかったです』


 送る。


 数秒。


『本当に?』


「…………」


「慎吾?」


「何?」


「何ニヤニヤしよるん?」


「高城さんに信用されてない」


「当たり前やん」


「妻まで」


「昨日の今日やろ」


 スマホを見る。


『本当です』


 送信。


 返信。


『では明日、少し整理しましょう』


『電話で?』


『可能なら三人で』


「三人?」


『慎吾さん、美咲さん、私です』


「…………」


 美咲を見る。


「何?」


「高城さん、明日美咲も一緒に話したいって」


「いいよ」


「即答」


「私も知るって言ったやん」


「…………」


「何?」


「いや」


 昨日まで、俺は一人で未来を追っていた。


 それが高城、黒瀬、そして美咲。


 少しずつ、俺の周りに人が増えている。


 なのに。



【観測協力者:2】



 美咲はまだ、その数字には入っていない。


「…………」


「慎吾」


「はい」


「今、また何か考えた?」


「観測協力者」


「ああ」


「何で美咲は入らんのかなって」


「それね」


 美咲がソファへ座る。


「私も考えた」


「気になる?」


「ちょっと」


「三になりたい?」


「別に数字増やしたいわけじゃないけど」


「うん」


「高城さんと黒瀬さんは入って、私は入らん」


「そう」


「違いは何なんやろね」


「…………」


 俺は考える。


 高城は俺の能力を分析した。


 黒瀬は、自分の能力で未来を見た。その情報を俺の能力が照合した。


 美咲は、一緒に結衣の絵を見た。


 表示された内容を聞いて、未来を知った。


「何か足りんのかな」


「私に?」


「いや」


「…………」


「そういう意味じゃない」


「分かっとるよ」


「びっくりした」


「でも」


 美咲が言う。


「高城さんと黒瀬さんって、慎吾と一緒に未来を調べよるんやろ?」


「そう」


「私は違うんじゃない?」


「え?」


「私は未来を調べたいわけじゃない」


「…………」


「結衣を守りたいだけ」


「…………」


 言われて、少しだけ引っかかった。


「それ」


「何?」


「結構大事かも」


「そう?」


「うん」


 高城は観測する。


 黒瀬も観測する。


 俺も観測する。


 だから。



【観測協力者】



 でも、美咲は。


「守る側?」


「何が?」


「いや」


 頭の中に、昨日の表示が浮かぶ。



【保護対象:2】



「…………」


「慎吾」


「何?」


「私が保護対象って考えた?」


「…………」


「顔」


「はい」


「やっぱり」


「でも決めつけてない」


「高城さんに怒られるもんね」


「それもある」


「それも?」


「美咲に怒られる」


「正解」


「怖いな」


 美咲が笑う。


 でも、俺は少しだけ気になった。


 美咲が観測協力者にならなかった理由。


 能力が、美咲を別の何かとして認識している可能性。


 ただ、今は答えを作らない。


 明日、高城と整理する。



     ◇



 翌日の夜。


 午後九時三分。


 結衣はもう寝ている。


 ゼロも、いつものようにその隣だ。


 俺と美咲はリビングで、スマホをテーブルの中央へ置いた。


「電話するよ」


「うん」


 高城へ発信。


『はい』


「こんばんは」


『こんばんは』


「こんばんは」


『美咲さんもこんばんは』


「はい」


『では始めましょうか』


「お願いします」


 高城の声が少し遠い。


 大学にいるのかもしれない。


「高城さん」


『はい』


「今どこ?」


『研究室です』


「やっぱり」


『何で分かったんです?』


「声」


『声?』


「何か研究者っぽい」


『意味が分かりません』


「慎吾」


「はい」


「進まんよ」


「すみません」


 高城が続ける。


『黒瀬さんから聞いた四人目についてですが』


「はい」


『まず、現在分かっていることだけ整理します』


「お願いします」


『未来の研究室らしき場所に、少なくとも四人いた』


「俺、高城さん、黒瀬さん」


『そして正体不明の一人』


「はい」


『四人目は慎吾さんの近くにいた』


「はい」


『黒瀬さんの感覚では、偶然近くにいたという距離ではない』


「最初から一緒にいるように見えた」


『そうです』


「あと、黒瀬さんの向こう側を見てた」


『はい』


「それが何なのかは?」


『分かりません』


「知ってた」


『なら聞かないでください』


 美咲が笑う。


「で、高城さん」


『はい』


「昨日の保護対象二と、四人目」


『はい』


「関係あると思います?」


 少し間が空く。


『可能性はあります』


「高い?」


『評価できません』


「慎吾」


「何?」


「これが研究者やね」


「最近分かってきたやろ」


『ただ』


 高城が続ける。


『無視していい一致ではないと思います』


「…………」


 俺と美咲が顔を見合わせる。


『保護対象が二。その一部が観測範囲外。そして、未来の慎吾さんのすぐ近くに、現在正体の分からない人物がいる』


「…………」


『この三点に関連がある可能性は、仮説として残すべきです』


「つまり」


『慎吾さん』


「まだ何も」


『四人目イコール第二の保護対象、とは言えません』


「先に言われた」


「言おうとしたん?」


「少し」


「ほら」


『実績です』


「二人してやめて」


 でも、その可能性はある。


 四人目。


 第二の保護対象。


 観測範囲外。


「じゃあ」


 美咲が聞く。


「どうやって調べるんですか?」


『そこです』


「何か方法ある?」


『あります』


「…………」


 高城の答えが早かった。


「珍しい」


『何がです?』


「分かりませんじゃない」


『慎吾さん』


「はい」


『今から分からないことを調べるんです』


「なるほど」


『まず確認したいのは』


 一拍。


『四人目ではありません』


「え?」


 予想と違った。


「じゃあ何?」


『観測範囲です』


「…………」


 美咲もスマホを見る。


『慎吾さんの能力が言う、観測範囲。それが何によって決まっているのか』


「距離?」


『候補の一つ』


「時間?」


『候補です』


「情報量?」


『それも』


「じゃあ」


『慎吾さん』


「はい」


『一つずつです』


「はい」


『まず最も安全に確認できるものから始めます』


「何?」


『距離です』


「…………」


 高城が続ける。


『慎吾さん』


「はい」


『今、美咲さんが隣にいますね』


「います」


『結衣ちゃんは?』


「寝室」


『ゼロは?』


「結衣の隣」


『では』


 一拍。


『今日は能力を使いません』


「…………」


「え?」


 美咲も同じ反応をした。


「使わんの?」


『はい』


「じゃあ何するんです?」


『条件を作ります』


「条件?」


『明日以降、慎吾さんが安全に観測できるように』


「…………」


 研究者だ。


 俺なら今すぐ何か見る。


 高城は違う。


 先に実験を作る。


『確認したい対象を三つ用意してください』


「三つ?」


『一つは、慎吾さんのすぐ近くにある物』


「はい」


『一つは、家から離れた場所にある物』


「はい」


『そしてもう一つ』


「何?」


 少し間が空く。


『慎吾さんが、存在は知っているけれど、現在どこにあるか分からない物』


「…………」


 俺と美咲が顔を見合わせる。


「それで?」


『同じ条件で観測します』


「三つとも?」


『はい』


「何を見る?」


『未来価格ではありません』


「じゃあ」


『観測範囲です』


「…………」


 なるほど。


 もし観測範囲が距離で決まるなら、近くの物、遠くの物、場所が分からない物。


 それぞれで違いが出る可能性がある。


「高城さん」


『はい』


「やっぱ研究者ですね」


『今さらですか?』


「俺なら絶対、四人目を直接見ようとしてた」


『知っています』


「俺も」


 美咲が言う。


「止めてた」


「信用ないな」


『そのための観測協力者かもしれませんね』


「…………」


 高城が何気なく言った。


 でも、その言葉に引っかかった。


「高城さん」


『はい』


「今、何て?」


『何がです?』


「そのための観測協力者」


『仮説です』


「…………」


『私や黒瀬さんが、慎吾さん一人では暴走しやすい観測を補助する存在として認識されている可能性』


「…………」


「じゃあ」


 美咲が聞く。


「私は?」


『…………』


 高城が黙った。


「高城さん?」


『それは、私も気になっています』


「観測協力者にならなかったこと?」


『はい』


「でも」


 俺は言う。


「代わりに保護対象が出た」


『…………』


 三人とも黙る。


 言葉にした瞬間、少しだけ形が見えた気がした。


 高城。


 観測協力者。


 黒瀬。


 観測協力者。


 美咲が同席しても、観測協力者は増えなかった。


 その代わり。



【保護対象:2】



 新しい表示が出た。


「…………」


 美咲を見る。


「何?」


「いや」


「慎吾」


「決めつけてません」


「まだ何も言ってない」


「先に言っとこうと思って」


 高城が電話の向こうで小さく笑った。


『成長しましたね』


「やった」


「そこ喜ぶん?」


『では今日は終わりです』


「もう?」


『条件だけ決めると言ったでしょう』


「はい」


『対象を探しておいてください』


「分かりました」


『ただし』


「勝手に見ない」


『はい』


「深追いしない」


『はい』


「頭痛があったらやめる」


『はい』


「新しい表示が出ても追わない」


『完璧です』


「美咲」


「何?」


「俺、研究者になれるかも」


「無理やろ」


「即答」


『私も難しいと思います』


「高城さんまで?」


「じゃあ、おやすみなさい」


『おやすみなさい』


「二人とも流すな」


 通話が切れた。



     ◇



「三つか」


 美咲が言う。


「うん」


「近くにある物は簡単やね」


「何でもいい」


「遠くにある物」


「会社とか?」


「でも慎吾、明日会社行くやん」


「ああ」


「そのとき近くになるやん」


「確かに」


「実家とか?」


「ありかも」


「場所分からん物は?」


「…………」


 難しい。


 存在していることは分かる。


 でも、今どこにあるのか俺は知らない。


 そんな物。


「昔持ってた物?」


「捨てたかもしれんやん」


「存在してるか分からんと駄目か」


「たぶん」


「高城さんに聞く?」


「…………」


「何?」


「今電話切ったばっか」


「怒られる?」


「怒られはせんけど」


「じゃあ聞けば?」


「何か負けた気がする」


「何と戦いよるん」


「研究者?」


「勝てんやろ」


「即答やめて」


 美咲が笑う。


 俺も考える。


 存在している。


 でも、俺は今、その場所を知らない。


 そんな物。


「…………」


 ふと、一人の顔が浮かんだ。


「黒瀬さん」


「何?」


「紗奈ちゃん」


「…………」


 以前、黒瀬は俺に娘の写真を見せた。


 そして、紗奈ちゃんのランドセルについても話した。


 事故のあとも、黒瀬は娘の記憶を残している。


 なら。


「遺品」


「え?」


「紗奈ちゃんの物なら、黒瀬さんが今も何か持ってるかもしれん」


「それなら?」


「俺は今、どこにあるか知らん」


「ああ」


「条件には合うよね」


「でも」


「うん?」


「いきなり観測するとか言わんでよ」


「言いません」


「高城さんにも確認」


「分かってます」


 俺はスマホを取った。


「とりあえず黒瀬さんに聞いてみる」


『黒瀬さん、ちょっと聞いていいですか』


 送信。


 すぐに既読。


『何ですか』


『紗奈さんの物って、今も何か残っていますか』


「…………」


 送信。


 既読。


 でも、返事が来ない。


 一分。


 二分。


「慎吾」


「うん」


「大丈夫?」


「分からん」


 三分。


 ようやく返信が来た。


『あります』


「…………」


 続けて。



『一つだけ』



 その文字を見た瞬間、なぜか嫌な感じがした。


『何です?』


 送る。


 少し待つ。


 返信。



『娘が事故の日に持っていた腕時計です』



「…………」


「何?」


 美咲が聞く。


「腕時計」


「誰の?」


「紗奈さん」


「…………」


 黒瀬の娘。


 救えなかった未来。


 事故の日に持っていた腕時計。


 そして今、どこにあるのか俺は知らない。


「…………」


 さらにメッセージが来た。



『ただし』



「…………」



『これは観測対象にしないほうがいいと思います』



「何で?」


 思わず声が出る。


「何て?」


「見ないほうがいいって」


「理由は?」


「まだ」


 次のメッセージ。



『以前、一度だけ』



 続く。



『慎吾さんに会う前に、その時計を手がかりに、その先の未来を見ようとしたことがあります』



「…………」


 心臓が少し速くなる。


「見えたん?」


「待って」


 次。



『何も見えませんでした』



「…………」


 それだけなら、まだ。


 でも、黒瀬からもう一通。



『正確には』



 間。



『未来が見えなかったのではありません』



「…………」



『見ようとした瞬間』



 そして。



『誰かに見られている感覚がありました』



「…………」


 背中が冷たくなる。


 未来の研究室。


 四人目。


 黒瀬を通り越して、その向こう側を見ていた何か。


「慎吾」


「…………」


「何て?」


 美咲を見る。


「黒瀬さん」


「うん」


「前にも」


 一度、息を吐く。


「見られてたらしい」


「誰に?」


「分からん」


「未来の人?」


「それも」


「…………」


 少し考えてから、黒瀬へ送る。


『これ、高城さんにも共有したほうがいいですよね』


 返信はすぐだった。


『ええ。私から伝えます』


「…………」


「高城さんにも?」


「黒瀬さんから言ってくれるって」


「ならいいね」


 数分もしないうちに、スマホが震えた。


 高城。



『黒瀬さんから聞きました』



 続けて。



『その時計は使用しないでください』



「…………」


 早い。


 俺が返信する前に。



『少なくとも、今回の観測対象からは除外しましょう』



「慎吾」


「うん」


「高城さん?」


「見ないでって」


「じゃあ見ない」


「…………」


「何?」


「いや」


「見たいと思った?」


「少し」


「慎吾」


「見ません」


「ほんと?」


「見ません」


 スマホを置く。


 紗奈の腕時計。


 黒瀬が、それを手がかりに未来を見ようとしても何も見えなかった物。


 そして、見ようとした瞬間、誰かに見られた。


「…………」


 偶然なのか。


 黒瀬の能力の問題なのか。


 それとも――。


 HOSHIMI、四人目、未観測要因、保護対象、観測範囲外。


 今まで別々に見えていたものが、少しずつ同じ場所へ集まり始めているような気がする。


「慎吾」


「何?」


「考えすぎ」


「顔?」


「顔」


「はい」


「今日は終わり」


「分かりました」


 美咲がスマホを俺から少し遠ざける。


「何するん」


「没収」


「子供か」


「勝手に連絡せんように」


「しません」


「ほんと?」


「ほんと」


「じゃあ寝るよ」


「はい」


 立ち上がり、寝室へ向かう。


 途中、結衣の部屋の前で少しだけ止まった。


「…………」


 中から小さな寝息が聞こえる。


 結衣。


 おそらく、一つ目の保護対象。


 そうだと思っている。


 でも、まだ確定じゃない。


 そしてもう一つ。


 まだ観測範囲の外にある何か。


 未来の俺のそばにいる四人目。


 黒瀬を通り越して、その先を見る人物。


 さらに、未来を見ようとした黒瀬を、逆に見返した何か。


「…………」


 俺たちは。


 未来を見ている。


 ずっとそう思っていた。


 でも。


 もし。


 未来のどこかから。


 こっちを見ている何かがいるとしたら。


 俺たちは一体。


 何を観測しているんだ。





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