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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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第36話 止めるんじゃない

翌朝。


「パパ、ゼロしゃべらん」


「しゃべるようになったの、一日だけです」


「なんで?」


「高城さんがスピーカーつけただけだから」


「つけて!」


「うちにありません」


「かって!」


「何でも買えば解決すると思うな」


「パパ、おかねあるやん」


「…………」


 四歳児は、たまに怖いことを言う。


「誰から聞いた?」


「ママ!」


「美咲!」


 キッチンから声が飛んでくる。


「何ー?」


「結衣に変なこと教えた?」


「何を?」


「パパお金あるって」


「最近いろいろ買っとるやん」


「そこだけ切り取るなよ」


 結衣がゼロを持ち上げる。


「ゼロもかえる?」


「ゼロはもう持ってます」


「おっきいゼロ!」


「…………」


 高城さん。


 余計な約束しやがって。


『いつか、もっと上手にしゃべるゼロ作ろうか』


 あれ以来、結衣の中ではゼロの進化が確定事項になっている。


「飛ぶの?」


「とぶ!」


「しゃべる?」


「しゃべる!」


「宇宙?」


「いく!」


「もうNASAだな」


「なさ?」


「忘れてください」


 美咲が朝食を持ってくる。


「何の話?」


「ゼロが宇宙開発に参入しました」


「へえ」


「反応軽っ」


「頑張ってもらお」


「高城さんと同じ扱いじゃん」


 美咲が笑う。


 俺も笑った。


 こんな朝が、ずっと続けばいい。


 結衣がゼロに無茶な設定を追加して、美咲が適当に返して、俺がそこへ突っ込む。


 何でもない朝。


 だからこそ、守りたいと思う。


「美咲」


「ん?」


「昨日の黒瀬さんの話なんだけど」


 美咲の手が止まった。


「うん」


 昨夜。


 帰ったら話すと言った。


 全部は話せない。


 まだ、能力のことまで話す覚悟はできていない。


 でも。


 何も言わないままにはしたくなかった。


「黒瀬さん、娘さんがいたらしい」


「いた?」


「事故で亡くなったって」


「…………」


 美咲の表情が変わる。


「そうなん……」


「うん」


「何歳?」


「そこまでは聞いてない」


「そっか」


 俺は味噌汁へ視線を落とす。


「娘さんを守るために、いろいろやったらしい」


「いろいろ?」


「危ないと思ったものを避けたり、生活を変えたり」


「…………」


「でも、最後は救えなかった」


 美咲は黙って聞いている。


「それで黒瀬さんが」


「うん」


「一人で何でも決めるなって」


「慎吾に?」


「うん」


「…………」


 美咲が俺を見る。


「それ、慎吾に一番必要な言葉やん」


「そんな即答する?」


「する」


「少しくらい考えて」


「考えた結果」


「早いな」


 美咲が少し笑う。


 でも、すぐに真顔へ戻った。


「慎吾」


「ん?」


「何かするときは言ってよ」


「…………」


「全部じゃなくていいけど」


「うん」


「一人で勝手に決めんで」


「分かった」


「ほんと?」


「ほんと」


「ならいい」


 それ以上、美咲は聞かなかった。


 俺も、それ以上は言わなかった。


 いつか。


 全部話す日が来るのかもしれない。


 でも今は。


 これでいい。


     ◇


 会社の昼休み。


 俺は未来価格ノートを開いた。


 新しいページ。


 一番上に。


『HOSHIMI』


 その下へ、これまで分かったことを並べる。


『事故予測』


『環境側への自動介入』


『個人警告端末』


『美咲 未来影響度91』


『高城 未来影響度94』


『星見事故との関連あり』


 そして。


『星見事故 累計337日後方』


「…………」


 昨日までの俺なら、たぶんここから考えていた。


 どうすればHOSHIMIを止められる?


 どうすれば研究を遅らせられる?


 どうすれば星見事故とのつながりを切れる?


 でも。


 黒瀬さんの話を聞いた。


 未来に関連しているからといって、それが原因だとは限らない。


 一つの危険を消したからといって、良い未来になる保証もない。


 HOSHIMIをなくせば、結衣が助かる。


 そんな表示は、一度も出ていない。


「…………」


 だったら。


「止めるんじゃない」


 俺はペンを持った。


『HOSHIMIを安全にする』


 書く。


 しばらく、その文字を見る。


「…………」


 単純だ。


 でも。


 今の俺には、これが一番しっくりきた。


 星見事故がHOSHIMIに関係するなら。


 HOSHIMIそのものを消すんじゃない。


 事故へつながる部分を減らしていく。


 もちろん俺は専門家じゃない。


 プログラムも書けない。


 AIも分からない。


 ロボットだって、電池を替えるくらいしかできない。


 でも。


 未来は見える。


 何かを変えたとき。


 未来が動くことがある。


 それに。


 もう俺一人じゃない。


 高城さんは研究者として考えられる。


 教授たちは技術や制度を知っている。


 美咲には、親としての感覚がある。


 黒瀬さんには、俺より長く未来と向き合ってきた経験がある。


 結衣は、実際にその仕組みを使う側だ。


「…………」


 だったら。


 俺だけで正解を決める必要なんてない。


 ノートに、もう一行。


『未来を避けるんじゃなく、作り直す』


「…………」


 書いたあと、ちょっと恥ずかしくなった。


「主人公っぽいな」


 自分で書いておいて何を言っているんだ。


 消そうか迷ったけど、やめた。


 たまにはいい。


     ◇


 仕事が終わったあと、高城さんへ電話した。


『はい、高城です』


「神崎です」


『どうも。ゼロ壊れました?』


「最近、第一声それですよね」


『違いました?』


「今日は研究の話です」


『珍しい』


「最近そっちばっかりでしょうが」


『確かに』


「HOSHIMI」


 名前を出すと、電話の向こうが少し静かになった。


『資料見ました?』


「見ました」


『どうです?』


「名前、これで行くんです?」


『まだ仮称ですよ』


「何でHOSHIMIなんです?」


『研究内容を表す単語を並べて、頭文字を拾ったらそうなったんです』


「偶然?」


『ほぼ』


「…………」


『何です?』


「いや」


 星見事故。


 その名前を知らない高城さんが。


 偶然。


 HOSHIMIという名前をつけた。


 気になる。


 でも。


 今はそこを深掘りする話じゃない。


「高城さん」


『はい』


「HOSHIMIって、事故を起こす可能性あります?」


 少しだけ沈黙。


 そして。


『あります』


「…………」


 思ったより、あっさりした答えだった。


「あるんだ」


『どんなシステムにもありますよ』


「でも事故防止ですよ?」


『事故を防ぐためのシステムだからこそです』


「どういう意味?」


『例えば、AIが危険だと判断して車を止めたとします』


「はい」


『その後ろの車が対応できなければ?』


「追突する」


『信号を通常より長く赤にした』


「渋滞する」


『そこに救急車がいたら?』


「…………」


『子供に止まれと警告した』


「はい」


『その子が止まった位置が、別の車にとって危険だったら?』


「…………」


 安全のための介入が、別の危険を作る。


「じゃあ、どうするんです?」


『だから研究するんです』


 高城さんの声に迷いはなかった。


『危険を完全にゼロにするのは難しい』


「うん」


『でも、減らすことはできる』


「…………」


 やっぱり。


 この人は必要だ。


「俺も」


『はい?』


「ちゃんと関わりたいです」


『もう十分関わってますよ』


「もっとです」


『もっと?』


「HOSHIMIを、安全にする側で」


 高城さんが黙った。


「変です?」


『いえ』


「専門家じゃないですけど」


『知ってます』


「そこ強調しないで」


『すみません』


「でも、使う側として」


『はい』


「親として」


『はい』


「何か気づいたら言います」


 少し間があって、高城さんが答えた。


『お願いします』


「…………」


『そのための市民参加ですから。遠慮しないでください』


「本当に?」


『はい』


「じゃあ高城さん」


『何です?』


「ピンクの端末、早く」


『そこから?』


「使用者の意見です」


『覚えましたね……』


「便利ですね、この言葉」


『返してください』


 少し笑った。


     ◇


「HOSHIMI?」


 夕飯。


 美咲が首を傾げた。


「研究の名前」


「ほしみ?」


「うん」


「かわいいやん」


「そう?」


「子供向けっぽい」


「高城さんがつけた」


「へえ」


 俺は味噌汁を飲んでから、美咲を見る。


「美咲」


「何?」


「これからも検討会来る?」


「毎回?」


「来れるときでいい」


「なんで?」


「意見言ってほしい」


「また?」


「美咲の意見」


「私、何も知らんよ」


「だからいいんだって」


「研究者、大丈夫なん?」


「その感想も大事」


「悪口やん」


「違います」


 美咲が少し考える。


「まあ、行けるときなら」


「ほんと?」


「結衣連れていっていいんやろ?」


「うん」


「ならいいよ」


「ありがとう」


「朝も言ったけど」


「うん」


「何かあったら言ってよ」


「分かってます」


「ほんとに?」


「今日は二回目だぞ」


「慎吾は確認が必要」


「信用がない」


「実績です」


「高城さんみたいなこと言い始めた」


「誰それ」


「研究者です」


「知っとるわ」


 美咲が笑う。


 俺も笑った。


「パパ!」


「ん?」


 結衣がゼロを持ってくる。


「ゼロ!」


「どうしました?」


「しゃべらん!」


「朝も聞きました」


「なおして!」


「それは高城さんに」


「おじちゃん!」


「そうです」


 美咲が笑う。


「完全に担当になっとるやん」


「俺じゃ無理です」


「パパよわい!」


「急に評価下げるな」


     ◇


 二週間後。


 三回目の市民検討会。


 今回は、これまでとは少し違っていた。


 会議室ではない。


 大学の実験棟。


「おお……」


 中へ入って、思わず声が出た。


 体育館のような広い空間。


 そこに道路、横断歩道、信号、簡易的な建物。


 小さな街が再現されている。


「ここで試すん?」


 美咲も珍しそうに周囲を見る。


「みたい」


「すごいね」


「パパ!」


「何?」


「まち!」


「街ですね」


「ゼロあるく!」


「邪魔にならないところでな」


「はーい!」


 そこへ高城さんがやってきた。


「こんにちは」


「おじちゃん!」


「はい。こんにちは」


「完全に定着しましたね」


「もう受け入れました」


 美咲が頭を下げる。


「この前はありがとうございました」


「こちらこそ。ご意見、かなり参考になりました」


「ほんとに?」


「はい」


「慎吾が大げさに言ってるのかと思った」


「美咲」


「何?」


「俺の信用」


「実績」


「朝から三回目」


 高城さんが笑う。


     ◇


 今回の目的は、HOSHIMIの基本構想を実際の環境で検討すること。


 もちろん、まだAIが全部動くわけじゃない。


 人間が手動で状況を再現し、一つずつ問題を探していく。


「まず、子供役が横断歩道へ近づきます」


 高城さんが指す。


 子供役は大学生。


「そこへ車役が接近する」


 小型の電動カートが少し離れた場所に置かれている。


「危険が高まったら、本人の端末へ警告を出します。同時に、車側にも減速指示を出す」


「なるほど」


 前に聞いた話が、少しずつ形になっている。


「慎吾さん」


「はい」


「今日はぜひ、穴を探してください」


「穴?」


「この仕組みの」


「俺が?」


「はい」


「普通、良いところ探すんじゃない?」


「それは研究者がやります」


「…………」


「市民には、嫌な客になってもらったほうがいい」


「それなら得意です」


「慎吾」


 美咲が呆れた顔をする。


「自覚あるん?」


「今、初めて知りました」


「嘘つけ」


 実験が始まった。


     ◇


 一回目。


 子供役が横断歩道へ近づく。


 そこへカートが接近。


 一定の距離まで近づいたところで、腕時計型の端末から音声が流れた。


『あぶないよ。とまって』


 子供役が止まる。


 ほぼ同時にカートも減速。


「成功?」


「想定通りです」


 高城さんは満足そうだ。


「じゃあ、子供が走ったら?」


「次にやります」


 二回目。


 子供役が横断歩道へ向かって走る。


 警告は出る。


 でも、さっきより明らかに余裕がない。


「今、ちょっと危なかったですよね」


「ええ。警告のタイミングは調整が必要ですね」


 三回目。


 子供が端末を外している設定。


「これだと本人には警告できない」


「その場合は車側で止めます」


 カートが減速。


「なるほど」


 四回目。


 今度は逆にカート側の通信を切る。


 車側には指示が届かない。


 でも、子供の端末は動く。


『あぶないよ。とまって』


 子供役が停止。


「片方が駄目でも」


「もう片方が動く」


「これ、いいですね」


「でしょう?」


 高城さんが嬉しそうに笑う。


 一つの仕組みに全部を任せない。


 失敗することを前提に、もう一つ用意する。


 黒瀬さんの話を聞いたあとだからこそ、その考え方が妙にしっくりきた。


 その隣で、美咲が実験場をじっと見ていた。


「何?」


「いや……」


「何かある?」


 美咲は少し考え、カートと横断歩道を交互に見る。


「これさ」


「うん」


「子供が二人いたら?」


 高城さんの表情が止まった。


「二人?」


「一人は止まる。でも、もう一人は走る」


「…………」


「車はどっちに合わせるん?」


「…………」


 高城さんが黙る。


「高城さん?」


「ちょっと待ってください」


「また?」


「考えてます」


「研究者止まった」


「美咲」


「何?」


「たぶん今、かなり大事なこと言った」


「普通やろ」


「それが怖いんよ」


 高城さんは返事もせず、ホワイトボードへ向かった。


「二対象……行動予測……優先順位……」


「始まった」


 美咲が笑う。


 俺も笑おうとして。


 できなかった。


 視界の端に、文字が浮かんだからだ。


【未来変動を検知】


「…………」


 まただ。


 美咲の一言で、未来が動いた。


 続いて。


【未来改変率:3.06% → 4.12%】


「一気に……」


 また一%以上。


 そして。


 今まで見たことのない項目。


【HOSHIMI安全性:――――】


「安全性?」


 文字が揺れ、数字へ変わる。


【HOSHIMI安全性:61.8%】


「…………」


 六十一・八%。


 高いのか。


 低いのか。


 比較するものがないから分からない。


 さらに。


【重大事故発生率:14.2%】


「…………」


 十四・二%。


 何を分母にした数字なのか。


 どんな条件で算出されたのか。


 星見事故そのものの発生率なのか。


 何も分からない。


 だから。


 十四・二%という数字だけで、意味を決めちゃいけない。


 それでも。


 気にはなる。


「原因は……」


 意識を少しだけ向ける。


【重大事故発生要因:複数対象――】


 ズキッ。


「っ……」


 頭の奥に痛み。


「慎吾?」


「大丈夫」


「頭痛?」


「ちょっとだけ」


「休み」


「うん」


 美咲に言われ、俺はすぐに見るのをやめた。


 表示が消える。


「…………」


 初めて。


 HOSHIMIそのものに関係する危険の数字が見えた。


 ただ。


 今分かっているのは、それだけ。


 十四・二%の意味も。


 複数対象の続きも。


 まだ分からない。


「高城さん」


「はい?」


 まだホワイトボードへ何か書いている。


「それ」


「どれです?」


「二人いる場合」


「はい」


「ちゃんと調べてください」


「もちろんです」


「絶対」


 高城さんが手を止め、俺を見る。


「慎吾さん」


「はい」


「大丈夫ですか?」


「何が?」


「顔色」


「…………」


 美咲も俺を見る。


「ちょっと悪いよ」


「休んどき」


「分かった」


 俺は近くの椅子へ座った。


 急がない。


 一人で決めない。


 黒瀬さんに言われたことを思い出す。


「高城さん」


「はい」


「一個、お願いしていいです?」


「何です?」


「この研究、失敗したパターンも全部残してください」


「…………」


「成功したやつだけじゃなくて、こうしたら動かないとか、こうなったら危険とか。そういう嫌なケース」


 高城さんが俺をじっと見る。


「もちろん、その予定です」


「もっとです」


「もっと?」


「わざと探してほしい」


「…………」


「HOSHIMIが失敗する条件を」


 高城さんの表情が変わる。


 少し考えて。


「いいですね」


「え?」


「安全研究では、成功例より失敗例のほうが価値があることもあります」


「…………」


「どこで壊れるか分からないものを、街には出せませんから」


 その言葉を聞いて、少し肩の力が抜けた。


「じゃあ」


「はい」


「いっぱい壊してください」


「実験では、ですよね?」


「当たり前でしょう」


「慎吾さんなら本物の信号を壊すくらい言うかと」


「俺を何だと思ってるんです?」


「嫌な客」


「さっき自分で頼んだやつじゃん」


 高城さんが笑った。


     ◇


 検討会が終わったあと。


「慎吾さん」


 黒瀬さんに呼び止められた。


「何です?」


「何か見えました?」


「はい」


 周囲に人がいないことを確認して、声を落とす。


「HOSHIMIの安全性」


「そんなものまで?」


「初めてです」


「どれくらい?」


「六十一・八%」


 黒瀬さんが眉を寄せる。


「それと、重大事故発生率」


「…………」


「十四・二%」


 黒瀬さんは少し黙った。


「高いですよね」


「分かりません」


「でも十四%ですよ」


「慎吾さん」


「はい」


「何に対する十四・二%です?」


「…………」


「分かりません」


「でしょう?」


「はい」


 自分でも分かっていた。


 また数字に引っ張られかけている。


「ただ」


 黒瀬さんが言う。


「良いこともあります」


「何?」


「危険につながるかもしれない数字が、完成前に見えた」


「…………」


「意味はまだ分からない。でも」


 一拍。


「確認する材料にはなる」


「直せる?」


「そこまでは言えません」


「ですよね」


「でも、調べることはできる」


「…………」


 俺は少し笑った。


「前より慎重ですね」


「誰のせいです?」


「俺?」


「あなたもです」


「巻き込まれた」


「お互い様ですよ」


 黒瀬さんも少し笑う。


 未来を変えることが危険なんじゃない。


 見えたものだけで正解を決めることが危険なんだ。


 少しずつ。


 その違いが分かってきた。


     ◇


 帰宅。


 結衣が寝たあと。


 俺は未来価格ノートを開いた。


『HOSHIMI安全性 61.8%』


『重大事故発生率 14.2%』


『重大事故発生要因:複数対象――』


『未来改変率 4.12%』


 その下に、大きく書く。


『止めない』


 少し間を空ける。


『安全にする』


 さらに。


『一人で決めない』


「…………」


 ペンを置く。


 未来は見える。


 でも、正解までは見えない。


 だったら。


 いろんな人と考えながら、少しずつ確かめるしかない。


 ノートを閉じ、結衣の部屋を覗く。


 もう寝ている。


 その隣には、いつものようにゼロ。


「…………」


 見る。


【現在価格:186,000円】


【10年後の価格:算出不能】


 変わっていない。


 それ以上は見ない。


 そう思った。


 けれど。


【未来状態:未確定】


「…………」


 以前確認した表示。


 未確定。


 それを見ていると。


 その下に、文字が浮かんだ。


【分岐候補数:――】


「…………?」


 数字が揺れる。


【分岐候補数:1,284】


「…………は?」


 千二百八十四。


「そんなに……?」


 未来は一本じゃない。


 それは分かっていた。


 でも。


 千を超えるなんて想像していなかった。


 さらに。


【生存結果を含む分岐:37】


「…………」


 三十七。


 一瞬。


 胸が跳ねた。


「生存……」


 誰の?


 結衣?


 慎吾?


 別の誰か?


 何をもって「生存結果」と判定している?


 いつの時点まで?


「…………」


 分からない。


 以前の俺なら。


 結衣が生きる未来が三十七ある。


 そう決めていたかもしれない。


 でも。


 能力は、そこまで言っていない。


【生存結果を含む分岐:37】


 表示された事実は。


 それだけ。


「…………」


 それでも。


 三十七。


 ゼロじゃない。


 その数字を見ていると。


 ほんの少しだけ。


 胸の奥にあったものが緩んだ。


「見ない」


 小さく言う。


 ここから先は追わない。


 三十七が何なのか。


 今夜、一人で確かめる必要はない。


 意識を外す。


 表示が消える。


「…………」


 眠っている結衣を見る。


 何も知らず。


 ゼロの隣で寝ている。


「正解は分からんけど」

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