第29話 一言の値段
検討会当日。
「…………」
大学の会議室の前で、俺は立ち止まっていた。
扉の横には、今日の予定が貼られている。
『次世代生活支援技術 市民検討会』
間違いない。
ここだ。
「入るだけだろ」
別に面接じゃない。
試験でもない。
俺は市民参加者として呼ばれただけだ。
中へ入って、研究者や企業の人たちの話を聞いて、必要なら意見を言う。
それだけ。
なのに。
扉を開けるのが怖い。
理由は分かっている。
五日前に届いた、黒瀬からのメール。
『あなたの一言で、未来が大きく変わる可能性があります』
そして。
『私が見た未来の中には、星見事故が三年前倒しになる未来もあります』
「何も言わなきゃいいのか……?」
それなら未来は変わらない。
少なくとも。
俺の発言が原因で、事故が早まることはない。
でも。
それでは何のために来たのか分からない。
未来を見るだけじゃなく。
作る側へ行く。
そう決めて、ここに来た。
「……難しいな」
「何がです?」
「うわっ!」
真横から声がして振り向く。
高城がいた。
「びっくりした!」
「すみません。そんな驚くとは」
「気配消してました?」
「消してませんよ」
「忍者?」
「研究員です」
高城が扉を見る。
「入らないんですか?」
「今から入るところです」
「五分くらい立ってませんでした?」
「見てたんです?」
「廊下の向こうから」
「声かけてくださいよ」
「何か覚悟を決めてる顔だったので」
「…………」
間違ってはいない。
「大丈夫ですよ」
高城が笑う。
「そんな堅い会じゃないですから」
「そうですか?」
「市民の意見を聞くための会です」
一拍。
「正解を答える場所じゃありません」
「正解……」
「はい?」
「いや」
それが一番欲しいんだけどな。
何を言えば正解で。
何を言えば結衣の未来を悪くするのか。
未来価格は。
そこまでは教えてくれない。
「行きましょう」
「はい」
高城が扉を開ける。
俺も、そのあとに続いた。
◇
会議室へ入る前に、受付で参加者名簿への確認を求められた。
「お名前をお願いします」
「神崎慎吾です」
受付の女性が名簿を確認する。
「あ、神崎さんですね。こちらをお願いします」
「ありがとうございます」
渡されたのは。
首から下げるタイプの名札。
『神崎慎吾 市民参加者』
「…………」
自分の名前を首からぶら下げるだけで。
急に場違い感が増した気がする。
神崎慎吾。
四十一歳。
会社員。
研究者でもなければ。
行政の人間でもない。
ただ。
四歳の娘がいる父親。
ここでは。
それが俺の肩書きらしい。
「神崎さん、こちらです」
高城に案内され、中へ入る。
思っていたより広い会議室だった。
中央に机がロの字に並び。
二十人ほどが座れるようになっている。
大学関係者。
企業。
行政。
学校関係者。
子育て世帯。
高齢者。
名札を見るだけでも。
いろんな立場の人が集まっているのが分かる。
案内された席へ座ると。
机の上には資料が置かれていた。
『次世代生活支援技術 実証地域構想』
ページをめくる。
事故予測。
自動運転。
見守りシステム。
生活支援ロボット。
交通データ。
防犯。
災害対策。
「でかい話だな……」
俺が想像していたより。
ずっと規模が大きい。
単純に。
子供の飛び出しを予測するだけじゃない。
街そのものから情報を集め。
危険が起きる前に予測する。
もし。
本当に完成すれば。
結衣だけじゃない。
何人もの命を。
救えるかもしれない。
「…………」
資料をめくる手が止まった。
『実証地域候補の選定について』
まだ。
具体的な地名は書かれていない。
でも。
俺は知っている。
黒瀬が買った。
あの土地。
十年後。
【10年後の価格:184,000,000円】
あの場所が。
何らかの形で。
この計画に関係する。
「神崎さん」
「はい?」
顔を上げる。
教授が立っていた。
「今日はありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
「ぜひ率直な意見を聞かせてください」
「率直な……」
「専門家では気づかないことがありますから」
「…………」
やめてください。
今。
一番プレッシャーになる言葉です。
「が、頑張ります」
「頑張る必要はありませんよ」
教授が笑って離れていく。
「…………」
頑張るなと言われても。
俺の一言で。
娘の死亡予定が三年早まるかもしれないんですが。
もちろん。
そんなことは言えない。
◇
開始五分前。
参加者がほぼ揃った。
高城。
教授。
大学関係者。
市の職員。
学校関係者。
アステラの社員。
そして。
「…………」
黒瀬。
俺から三つ離れた席に座っている。
目が合った。
黒瀬が軽く頭を下げる。
俺も返す。
それだけ。
今日は話しかけてこない。
むしろ。
そのほうが怖い。
黒瀬の前には。
いつもの黒いノート。
何が書いてあるんだろう。
今日のことも?
俺が何を言うのかも?
「…………」
いや。
黒瀬は言った。
分からない、と。
星見事故が三年前倒しになる未来は見えた。
でも。
何が原因なのかは見えていない。
なら。
黒瀬だって今日。
未来がどう動くのか分からない。
俺と同じだ。
◇
「それでは始めます」
教授の挨拶から。
検討会が始まった。
最初の三十分は研究説明。
街中に設置したセンサー。
車両情報。
信号。
防犯カメラ。
スマートフォン。
家庭用ロボット。
それらの情報をAIが統合し。
事故や危険を事前に予測する。
「例えば」
スクリーンに。
住宅街の映像が出る。
「この道路を子供が歩いています」
小学生くらいの子供。
その先には。
交差点。
「現在の技術では、車と子供が接近して初めて危険を検知します」
映像の中。
子供が走り出す。
車が急ブレーキ。
「これを私たちは、もっと前に予測したい」
映像が巻き戻る。
「子供の移動速度、視線、過去の行動、周囲の交通量、車両の位置」
教授が画面を指す。
「複数の情報を組み合わせることで――」
画面に表示。
『飛び出し可能性 78%』
「危険が起きる前に、車へ警告する」
今度は。
車が交差点の手前で減速した。
子供が飛び出す。
でも。
車はすでに止まっている。
「…………」
会議室から。
小さなどよめき。
「すご……」
俺も。
思わず呟いた。
これだ。
これが十年後。
結衣を助ける?
俺は高城を見る。
真剣な顔で。
スクリーンを見ている。
【未来影響度:96】
以前見えた数字。
高城は。
結衣の未来に。
深く関わる。
なら。
この研究はやっぱり――。
「大丈夫ですか?」
「え?」
隣から声。
同じ市民参加者らしい女性が。
少し心配そうにこちらを見ていた。
「すみません。すごい顔で見てたので」
「ああ……ちょっと感動してました」
「分かります」
女性が笑う。
「うちも子供がいるので」
「そうなんですね」
「小学二年です」
「うちは四歳です」
「じゃあ心配ですよね」
「はい」
本当に。
心配なんて言葉では。
足りないくらい。
◇
説明が終わり。
意見交換へ。
最初に発言したのは。
高齢者の男性だった。
「監視されているようで嫌ですね」
教授が頷く。
「プライバシーですね」
「事故防止は分かります。でも、どこへ行ったか全部記録されるんでしょう?」
「重要な問題です」
次。
学校関係者。
「子供に端末を持たせる前提ですか?」
「必須ではありません」
「学校内への機器持ち込みは難しい場合があります」
「その点も検討が必要ですね」
次々に。
意見が出る。
費用。
プライバシー。
責任。
誤検知。
高齢者への対応。
子供への説明。
「…………」
面白い。
研究だけ見ていたときは。
すごい技術だと思った。
でも。
実際に使うとなると。
問題が山ほどある。
そして。
俺は。
まだ一度も発言していない。
黒瀬を見る。
目が合う。
何も言わない。
表情も変わらない。
ただ。
見ている。
「くそ……」
余計に気になる。
◇
「子育て中の方はどうでしょう?」
教授が言った。
「実際にお子さんがいる立場から、何かありませんか?」
来た。
俺だけじゃない。
子育て世帯は三組いる。
一人の母親が手を挙げた。
「通知が多すぎると、たぶん見なくなると思います」
「ああ」
高城がメモを取る。
「例えば、危険度が低いものまで毎回来ると」
「慣れてしまう?」
「はい。最初は見ると思いますけど、そのうち『またか』って」
「なるほど」
教授が頷く。
「重要ですね」
俺もそう思う。
警告が。
毎日何十回も来れば。
そのうち見なくなる。
そして。
本当に危険な一回を。
見落とす。
「他には?」
教授が周囲を見る。
俺と目が合った。
「神崎さんはいかがですか?」
「俺ですか?」
「はい」
逃げられない。
黒瀬を見る。
いや。
見るな。
意識するな。
普通に。
普通の父親として考えろ。
「そうですね……」
資料を見る。
事故予測。
通知。
親。
子供。
「俺なら……」
言いかけて。
止まる。
怖い。
この一言で。
未来が変わる?
「神崎さん?」
「あ、すみません」
考えろ。
未来じゃない。
今の結衣だ。
四歳。
走る。
急に止まる。
急に曲がる。
手をつないでいても。
振りほどく。
スーパーで。
突然いなくなる。
道路。
駐車場。
公園。
「親に通知するだけじゃ、遅い気がします」
口から出た。
高城のペンが。
止まった。
「どういう意味です?」
「例えば」
俺は言う。
「子供が道路に飛び出しそうだってAIが予測したとして」
「はい」
「親のスマホに通知が来るんですよね?」
「基本構想では」
「でも」
一拍。
「親が見てなかったら終わりじゃないですか?」
「…………」
会議室が。
少し静かになる。
「通知に気づかなかった。スマホが鞄の中だった。仕事中だった。子供と離れていた」
教授と高城が。
顔を見合わせる。
「だったら」
俺は続ける。
「親に知らせるより先に、危険そのものを止めたほうがよくないですか?」
「危険そのもの?」
「例えば車なら」
スクリーンを見る。
さっきの飛び出し映像。
「子供が飛び出す可能性が高いなら、その近くの車が先に減速するとか」
「…………」
「信号なら、青になるタイミングを少し遅らせるとか」
高城が俺を見る。
「踏切なら?」
誰かが言った。
「閉める?」
「それは逆に危険かもしれませんけど」
少し。
笑いが起きる。
緊張が和らいだ。
「でも」
俺は続ける。
「人間が警告を見てから動くんじゃなくて」
一拍。
「街のほうが先に動く」
言葉にして。
自分でも。
少し驚いた。
「そういうのは無理なんですか?」
沈黙。
教授が高城を見る。
高城は何も言わない。
「……高城さん?」
「いや」
高城がペンを置いた。
「面白いです」
「そうですか?」
「かなり」
教授も頷く。
「予測だけでなく、予測に基づく自動介入」
「自動介入?」
「危険を予測したシステムが、直接環境側へ働きかけるということです」
「そう。それです」
「技術的には可能です」
「じゃあ――」
「ただし」
教授の表情が変わる。
「責任の問題があります」
「責任?」
「AIの判断で車を止める。信号を変える。公共設備を制御する」
「ああ……」
「もしAIが間違えたら?」
「…………」
「救急車を止めたら?」
「…………」
「交通事故を防ぐための介入が、別の事故を生んだら?」
「…………」
背中に。
嫌な感覚。
別の事故。
未来を変えたことで。
別の事故が生まれる。
黒瀬が言っていたことと。
同じ。
「だから」
教授が続ける。
「非常に慎重な議論が必要です」
「なるほど……」
「ですが」
高城が口を開く。
「研究する価値はあります」
教授を見る。
「予測精度が一定以上になれば、人間の確認を挟まずに介入したほうが救えるケースは絶対に出ます」
「高城君」
「完全自動じゃなくてもいい。段階的な介入なら」
高城の目が。
変わっている。
研究者の目。
「例えば、周囲の車両へ注意信号を送る。速度制御を提案する。スマート信号と連携する」
「…………」
「それなら今の研究から発展させられます」
教授が腕を組む。
「検討しましょう」
「はい」
高城が。
すぐメモを取る。
俺は。
その光景を見ていた。
「…………」
俺の一言が。
今。
研究の方向を。
少し変えた?
そう思った瞬間。
視界の端。
文字。
【未来変動を検知】
「…………!」
来た。
心臓が跳ねる。
黒瀬を見る。
黒瀬も。
俺を見ていた。
笑っていない。
【未来改変率:0.14% → 0.31%】
「上がった……」
倍以上。
俺が発言した。
それだけで。
未来が動いた。
「神崎さん?」
「え?」
高城。
「どうしました?」
「いや……何でもないです」
結衣の絵は。
ここにはない。
未来価格は確認できない。
でも。
改変率は上がった。
良い方向?
悪い方向?
分からない。
そして。
次の表示。
【関連事象の発生時期が変動】
「…………」
やめろ。
嫌な汗。
黒瀬のメールが。
頭をよぎる。
『星見事故が、三年前倒しになる未来もあります』
「まさか……」
文字。
【星見――事故】
息が止まる。
続き。
【発生予定時期:――】
表示が揺れる。
「やめろ……」
三年前倒し。
それだけは。
やめてくれ。
数秒。
そして。
【発生予定時期:現在予測より184日後方へ変動】
「…………」
え?
もう一度。
【変動:+184日】
「延びた……?」
約六か月。
事故が。
遠ざかった。
俺の一言で?
手が震える。
悪くなってない。
少なくとも。
事故は早まっていない。
むしろ。
遅くなった。
「慎吾さん」
黒瀬の声。
小さい。
俺だけに。
聞こえるくらい。
「はい」
「何か見えました?」
「…………」
答えない。
でも。
顔に出たんだろう。
黒瀬が俺を見る。
「良いほうですか?」
俺は。
小さく頷いた。
黒瀬が。
息を吐く。
「そうですか」
その顔。
少しだけ。
安心しているように見えた。
黒瀬にも。
今の未来は。
見えていなかった。
そのことが分かった。
◇
検討会は。
そのあとも続いた。
俺は。
何度か発言した。
でも。
もう未来を見ながら話すのはやめた。
四歳の娘を持つ父親として。
普通に。
思ったことを言った。
子供は端末を忘れる。
親もスマホを見ない。
高齢者は新しい機械を嫌がるかもしれない。
警告が多すぎれば慣れる。
便利でも。
面倒なら使わなくなる。
当たり前のことばかり。
でも。
研究者には。
その当たり前が。
必要らしい。
「参考になります」
休憩中。
高城がメモを見ながら言った。
「ほんとに?」
「はい」
「俺、普通のことしか言ってないですよ」
「だからですよ」
「…………」
「普通に生活している人が」
高城が笑う。
「普通に困ること」
一拍。
「研究室にいると、それが一番見えなくなるんです」
「そんなもんですか」
「そんなもんです」
少し。
嬉しかった。
金でもない。
能力でもない。
俺自身の経験が。
未来を少しだけ。
動かした。
それが。
何となく。
嬉しかった。
◇
検討会終了後。
資料を鞄へ入れていると。
黒瀬が近づいてきた。
「慎吾さん」
「はい」
「少しいいですか?」
「何です?」
黒瀬は。
周囲を確認。
声を落とす。
「先ほど、何を見ました?」
「…………」
「事故ですか?」
「星見です」
黒瀬の表情が。
固まる。
「時期が変わりました」
「どちらに?」
「百八十四日」
一拍。
「遅くなった」
「…………」
黒瀬が黙る。
「何です?」
「いえ」
「良いことですよね?」
「現時点では」
「またそういう言い方」
「慎重に見たほうがいい」
「でも事故が遠ざかった」
「はい」
「だったら――」
「慎吾さん」
黒瀬が俺を見る。
「事故が遅くなった理由は?」
「…………」
「分かりますか?」
「いや」
「でしょう?」
「…………」
「未来が良くなったから遅れたのか」
一拍。
「別の何かが起きたせいで遅れたのか」
分からない。
「だから」
黒瀬が言う。
「今は喜びすぎないほうがいい」
「厳しいな」
「未来に関しては」
黒瀬が。
少し笑う。
「私は臆病なんです」
「全然そう見えませんけど」
「かなり臆病ですよ」
「八百万円の土地を現金で買う人が?」
「未来が見えたので」
「ずるっ」
「慎吾さんも同じでしょう?」
「…………」
否定できない。
「でも」
俺は聞く。
「黒瀬さん」
「はい」
「俺が今日、あの発言をする未来」
一拍。
「見てませんでした?」
「見ていません」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ」
一つ。
気になった。
「星見事故が三年前倒しになる未来では」
黒瀬を見る。
「今日、俺は何をしたんです?」
黒瀬の表情が。
消えた。
「…………」
「覚えてます?」
「断片ですが」
「何をした?」
少し長い。
沈黙。
黒瀬は。
会議室の前方を見る。
教授。
高城。
市の職員。
まだ何人かが話している。
「あなたは」
「はい」
黒瀬が。
ゆっくり言った。
「実証地域について、ある提案をします」
「提案?」
「はい」
「どんな?」
「それは――」
黒瀬が言いかけた。
そのとき。
「神崎さん!」
高城が。
こちらへ来た。
「ちょうどよかった」
「何です?」
「さっきの自動介入の話」
「ああ」
「先生と話してたんですけど」
高城が少し嬉しそうに言う。
「次回、もう少し具体的に検討したいんです」
「俺も?」
「もちろん」
「分かりました」
「それと」
高城が資料を一枚差し出す。
「実証地域についても、市民側から意見が欲しいそうです」
「…………」
俺と黒瀬が。
同時に紙を見る。
『実証地域候補 意見募集』
背中が冷える。
「どの辺がいいとか」
高城が言う。
「神崎さん、この地域に詳しいですよね?」
「まあ……」
「候補になりそうな場所、何か思いつきません?」
「…………」
頭に。
一つだけ。
浮かんだ。
八百万円の土地。
黒瀬が買った。
十年後。
一億八千四百万円になる場所。
「慎吾さん」
黒瀬の声。
低い。
「今は」
俺を見る。
「答えないほうがいい」
「…………」
高城が。
首を傾げる。
「何でです?」
「まだ情報が足りません」
黒瀬が答える。
「候補地を挙げるには早い」
「まあ、それはそうですけど」
俺は。
二人の間で。
何も言えなかった。
さっき。
俺の一言で。
星見事故は。
百八十四日。
遠ざかった。
そして今。
また。
一つの選択肢が。
目の前にある。
あの土地を。
候補に挙げるか。
挙げないか。
未来は見える。
でも。
正解は見えない。
「…………」
俺は資料を受け取った。
「次までに考えます」
「お願いします」
高城が離れていく。
黒瀬は。
何も言わない。
「…………」
「黒瀬さん」
「はい」
「三年前倒しになった未来」
「…………」
「俺が提案したのって」
手に持った紙を見る。
「まさか」
黒瀬が。
俺を見る。
そして。
静かに答えた。
「ええ」
「…………」
「あの土地です」
俺の手が。
止まった。
十年後。
一億八千四百万円になる土地。
その価値を作る未来と。
俺が見ていた。
結衣が十一歳で死ぬ未来。
二つが。
初めて。
同じ場所で。
つながった。




