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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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第25話 もう1人




 黒瀬隆一の予測は、外れない。


 株。


 不動産。


 企業の成長。


 技術。


 そして。


 時期。


「…………」


 大学からの帰り。


 俺は駐車場の車の中で、しばらく動けなかった。


 三年前。


 黒瀬は言った。


『三年後、アステラは子供の事故予測を研究している』


 そして。


 今。


 本当に、その研究をしている。


 二年前。


『この地域に、大規模な実証研究施設ができる』


 まだ決定していない。


 でも。


 候補地。


 研究内容。


 そして。


 あの土地。


 八百万円。


 十年後。


 一億八千四百万円。


「未来……見てるだろ」


 もう。


 偶然で片付けるほうが無理だ。


 黒瀬の時計。


 あいつは言った。


 十年後。


 八百万円くらい。


 実際。


【10年後の価格:8,600,000円】


 誤差。


 六十万円。


 そして。


 黒瀬の名刺。


 別れ際。


『大事に持っていたほうがいいですよ』


『十年後、高く売れるかもしれない』


 実際。


【10年後の価格:32,000,000円】


「…………」


 俺と。


 同じ能力?


 物を見ると。


 未来価格が分かる?


「いや……」


 何か。


 違う気がする。


 黒瀬が予測しているのは。


 土地。


 株。


 技術。


 研究。


 時期。


 物の値段だけじゃない。


 もっと。


 広い。


「未来そのもの……?」


 俺はハンドルにもたれた。


「お前、何が見えてるんだよ……」



     ◇



「パパ!」


 帰宅。


 玄関を開けた瞬間。


 結衣がロボットを抱えて走ってきた。


「ゼロがね!」


「うん」


「こけた!」


「ロボットだからね」


「なおして!」


「起こすだけです」


 床。


 倒れているゼロを立たせる。


 スイッチ。


 ウィーン。


「なおった!」


「はい」


「パパすご!」


「今日は何もしてません」


 結衣がゼロを追いかけて走っていく。


 その後ろから。


 美咲。


「また難しい顔してる」


「そう?」


「大学で何かあった?」


「…………」


「研究、怖かった?」


「違う」


「ロボットに世界征服される?」


「そういうのじゃない」


「じゃあ何?」


「…………」


 言えない。


「変な投資家のこと」


「壺?」


「まだ言う?」


「買った?」


「買ってません」


「ならいい」


「よくない」


 美咲は笑っている。


 俺も。


 少しだけ笑った。


 でも。


 頭から。


 黒瀬が離れない。



     ◇



 夜。


 未来価格ノート。


 新しいページ。


 上。


 大きく。


『黒瀬隆一』


 分かっていることを。


 一つずつ。


 書く。


『八百万円の土地を現金購入』


『土地の10年後:1億8400万円』


『アステラに投資を検討』


『10年後、日本を代表する企業になると予測』


『時計の10年後:860万円』


『黒瀬の予測:約800万円』


『三年前:事故予測研究を言い当てる』


『二年前:実証研究施設を予測』


『未来影響度:99』


『名刺の10年後:3200万円』


『価格上昇理由:歴史的事件の中心人物』


『関連事象:星見■■事故』


 そして。


 最後。


 俺はペンを止めた。


 黒瀬から届いたメール。


『星見という言葉を見つけても、今は追わない方がいい』


「…………」


 星見。


 俺が。


 能力で初めて見た言葉。


 誰にも話していない。


 高城にも。


 教授にも。


 美咲にも。


 当然。


 黒瀬にも。


「確定だろ……」


 何かある。


 あいつは。


 未来を知っている。


 俺はスマホを取った。


 連絡先。


『黒瀬隆一』


「…………」


 電話。


 する?


 何て聞く?


『未来見えます?』


「頭おかしいな」


 自分で言って。


 自分で否定する。


 でも。


 もう。


 それくらい聞いてもいい気がする。


 発信。


 指を近づける。


 やめる。


「…………」


 もう一回。


 発信。


 やめる。


「くそ」


 その瞬間。


 スマホが震えた。


「うわっ!」


 画面。


『黒瀬隆一』


「…………」


 怖い。


 タイミング。


 怖すぎる。


 数秒。


 画面を見る。


 そして。


 通話。


「……はい」


『黒瀬です』


「どうも」


『大学、行かれたそうですね』


「なんで知ってるんです?」


『先生から聞きました』


「…………」


 本当に。


 全部。


 繋がってる。


『先生、私の悪口を言っていました?』


「未来を信じすぎるって」


『はは』


 黒瀬が笑う。


『間違ってません』


「黒瀬さん」


『はい』


「俺」


 もう。


 聞く。


「聞きたいことがあります」


『どうぞ』


「なんで」


 喉が。


 乾く。


「そんなに未来が分かるんです?」


 沈黙。


 三秒。


 五秒。


 そして。


『慎吾さん』


「はい」


『あなたは?』


「…………」


『なぜ、未来が分かるんです?』


 息が止まった。


「俺は別に――」


『八百万円の土地』


「…………」


『不動産投資の経験もないあなたが、突然買おうとした』


「それは……」


『アステラ』


「…………」


『まだ無名に近い会社の株を買った』


「調べれば――」


『大学の事故予測研究へ三十万円』


「娘がいるからです」


『ええ。それは本心でしょう』


「…………」


『そして』


 一拍。


『あの旧車』


「…………」


 心臓が。


 嫌な音を立てた。


「旧車が何です?」


『三百万円で買ったそうですね』


「高城さんから?」


『ええ』


「それだけでしょ」


『そうですね』


「だったら――」


『十年後』


「…………」


 黒瀬の声。


 変わらない。


 静かで。


 落ち着いている。


 そして。


 言った。


『三千六百万円』


「…………」


 世界が。


 止まった。


 音が。


 消えた。


 耳に当てたスマホ。


 自分の呼吸。


 心臓。


 それだけ。


「…………今」


 声が。


 うまく出ない。


「何て?」


『三千六百万円』


「…………」


 一円。


 違わない。


 俺の車。


【10年後の価格:36,000,000円】


 俺しか。


 知らない。


 誰にも。


 言ってない。


 高城にも。


 美咲にも。


 誰にも。


「なんで……」


『慎吾さん』


「あなた……」


 喉が震える。


「何が見えてるんです?」


 沈黙。


「未来価格?」


『…………』


「俺と同じものが見えてるんですか?」


 言った。


 初めて。


 誰かに。


 能力のことを。


 口にした。


 もう。


 戻せない。


「答えてください」


『会って話しましょう』


「今、答えて」


『電話では話したくありません』


「なんで?」


『慎吾さん』


 黒瀬の声が。


 少しだけ。


 低くなる。


『未来は、無料じゃない』


「…………」


 頭痛。


 反射的に。


 頭へ手をやった。


『あなたも』


 黒瀬が続ける。


『もう気づいているでしょう?』


「…………」


『深く見れば見るほど』


 一拍。


『代償が大きくなる』


「…………」


 こいつ。


 知ってる。


「なんで……」


 声が。


 掠れる。


「なんで、それを知ってる?」


『明日』


「待って」


『午後七時』


「黒瀬さん!」


『前に会った店で』


「答えてください!」


『そこで話します』


「何を?」


 少し。


 間が空いた。


 そして。


 黒瀬は言った。


『あなたの娘さんが死ぬ未来について』


「…………」


 頭が。


 真っ白になった。


「……何?」


『では、明日』


「待て!」


 通話。


 切れる。


「黒瀬!」


 無音。


 俺は。


 スマホを耳に当てたまま。


 動けなかった。


「なんで……」


 結衣。


 高城から。


 娘がいることは聞ける。


 四歳だということも。


 知っている。


 でも。


 死ぬ。


 十年後。


 事故。


 それを知る方法なんて。


「なんで結衣のこと知ってんだよ……」


 俺以外には。


 ないはずだった。



     ◇



 自分の部屋。


 未来価格ノートを開く。


 結衣の絵。


 見る。


【10年後の価格:293,600,000円】


【未来改変率:0.14%】


「…………」


 変わらない。


 そのとき。


 表示。


 一瞬。


 揺れた。


「ん?」


 見たことのない文字。


【警告】


「…………」


 警告?


 今まで。


 こんな表示。


 なかった。


 そして。


【他の観測者との接触を検知】


「…………」


 観測者?


 文字を。


 何度も読む。


【他の観測者との接触を検知】


「他の……」


 俺以外。


 未来を見る。


 人間。


「黒瀬……」


 やっぱり。


 あいつも。


 見ている。


「同じ能力なのか?」


 答えは。


 出ない。


「何が見えてる?」


 何も。


「俺と同じ未来価格?」


 何も。


「星見事故って何だ?」


 何も。


「結衣に何が起きる?」


 何も。


「おい!」


 答えない。


 ただ。


 一つ。


 新しい表示。


【観測結果の干渉を検知】


「…………」


 干渉?


 俺と。


 黒瀬。


 二人が。


 未来を見ている。


 それが。


 何かを変えている?


「…………」


 分からない。


 でも。


 一つだけ。


 はっきりした。


 未来を見ているのは。


 俺だけじゃない。


「…………」


 結衣の部屋。


 静かに。


 ドアを開ける。


 眠っている。


 布団。


 半分。


 蹴ってる。


「またかよ」


 掛け直す。


 枕元。


 ゼロ。


 結衣の寝顔。


「…………」


 黒瀬は。


 この子が死ぬ未来を。


 知っている。


 いつから?


 どこまで?


 事故の原因も?


 星見も?


「大丈夫」


 小さく。


 言った。


 結衣に。


 なのか。


 自分に。


 なのか。


 分からない。


「明日」


 黒瀬に会う。


 逃げない。


 全部。


 聞く。


 あいつが。


 何を見ているのか。


 なぜ。


 結衣の未来を知っているのか。


 そして。


 星見事故とは。


 何なのか。


「お前が何を知ってても」


 俺は。


 眠る結衣を見る。


「絶対、助けるから」


 明日。


 俺は。


 もう一人の観測者と。


 本当の意味で。


 向き合う。





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