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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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第23話 星見事故




 黒瀬隆一。


 代表取締役。


 電話番号。


 メールアドレス。


 会社の住所。


 どこにでもある、ただの名刺。


 なのに。


【10年後の価格:32,000,000円】


「三千二百万……」


 カフェを出たあとも。


 俺は車を発進させられずにいた。


 名刺をハンドルの上に置き。


 もう一度見る。


【現在価格:0円】


【10年後の価格:32,000,000円】


 変わらない。


「紙一枚だぞ……」


 高城の名刺も高かった。


 十年後。


 著名人物として扱われる高城直人。


 まだ世間に知られていない頃の名刺。


 それで。


 四百八十万円。


 それだけでも。


 十分おかしい。


 でも。


 黒瀬は。


 三千二百万円。


 高城の六倍以上。


 つまり。


 十年後。


 黒瀬隆一という名前には。


 それだけの価値が生まれている。


 有名な投資家になる?


 大富豪?


 歴史に残る経営者?


 それとも。


「……悪い意味で有名になるとか?」


 その可能性だってある。


 歴史的な事件に関係した手紙。


 写真。


 本人が使っていた物。


 そういう物に。


 高値がつくこともある。


 未来価格は。


 善悪を判断しない。


 高く売れるなら。


 高い。


 それだけだ。


「理由……見るか」


 少し迷った。


 最近。


 未来価格を深く見ようとすると。


 頭が痛くなる。


 特に。


 結衣の絵。


 あれを調べたときは。


 酷かった。


 でも。


 三千二百万円。


 無視できる金額じゃない。


「少しだけ」


 名刺を見る。


 意識を集中させる。


 数字の奥。


 いつもの感覚。


 見えている文字を。


 さらに奥へ。


 押し広げる。


【価格上昇理由:歴史的――】


「歴史的?」


 もう少し。


 頭の奥。


 ズキッ。


「痛っ……」


 それでも。


 止めない。


【価格上昇理由:歴史的事件――】


「事件?」


 嫌な予感がした。


 さらに。


 集中する。


【価格上昇理由:歴史的事件の中心人物】


「…………」


 背中が。


 冷えた。


 歴史的事件。


 その中心人物。


「黒瀬……」


 何をする?


 何が起きる?


 俺は。


 名刺から。


 目を離さなかった。


「関連事象……」


 頭痛。


 一段強くなる。


【関連事象:■■■■事故】


「…………」


 出た。


 読めない文字。


 でも。


 この表示。


 知っている。


 結衣の絵を。


 深く見たときにも出た。


【関連事象:■■■■事故】


「同じ……?」


 黒瀬の名刺。


 結衣の絵。


 同じ事故。


 心臓が。


 速くなる。


「事故の名前」


 見ろ。


「何事故なんだよ」


 文字が。


 揺れる。


【関連事象:■見■■事故】


「見……?」


 さらに。


 頭。


 ズキン。


「くっ……」


 額を押さえる。


 それでも。


 名刺から。


 目を離さない。


【関連事象:星見■■事故】


「…………」


 星見。


 初めて。


 読めた。


 事故の名前。


 一部だけ。


「星見……事故?」


 次の瞬間。


 表示が。


 消えた。


「え?」


 もう一度。


 名刺を見る。


【現在価格:0円】


【10年後の価格:32,000,000円】


 そこまでは出る。


「理由」


 何も出ない。


「関連事象」


 出ない。


「おい……」


 頭痛だけが。


 残った。


「今の何だよ」


 能力そのものに。


 拒否された?


 それとも。


 俺の限界?


 分からない。


 でも。


 見た。


 確かに。


 星見。



     ◇



 スマホを取り出す。


『星見事故』


 検索。


 当然。


 それらしいものは出ない。


 昔の交通事故。


 星見という名字。


 星見町。


 星を見るイベント。


 関係なさそうなものばかり。


「未来の事故だもんな……」


 まだ。


 起きていない。


 なら。


 検索して出るはずがない。


 問題は。


 星見。


 何だ?


 地名?


 施設名?


 会社名?


 プロジェクト?


 それとも。


 人の名前?


「…………」


 未来価格ノート。


 持ってくればよかった。


 仕方なく。


 スマホのメモを開く。


『星見■■事故』


 保存。


 その下。


『黒瀬隆一=歴史的事件の中心人物』


 文字にすると。


 余計に怖い。


「中心人物……」


 事故を起こす側なのか。


 巻き込まれる側なのか。


 防ぐ側なのか。


 責任を取る側なのか。


 まだ。


 分からない。


 黒瀬を。


 敵だと決めるには早い。


 俺はそう自分に言い聞かせ。


 ようやく車を出した。



     ◇



「パパー!」


 玄関を開けた瞬間。


 結衣が走ってきた。


「ただいま」


「みて!」


「何?」


 例のロボット。


 ゼロ。


 胸に。


 白いシールが貼られている。


 そこには。


 ひらがなで。


『ぜろ』


「名前書いたん?」


「わたしがかいた!」


「上手やん」


「でしょ!」


 少し曲がっている。


 『ろ』が妙にでかい。


 でも。


 ちゃんと読める。


「なんでゼロって名前にしたん?」


「んー」


 結衣が考える。


「かっこいいから!」


「それだけ?」


「うん!」


「そっか」


 子供の命名なんて。


 そんなものか。


 俺は。


 ゼロを見る。


【10年後の価格:0円】


 ゼロ。


 本当に。


 ゼロ。


「……いい名前だな」


「でしょ!」


 結衣がロボットを抱えて。


 走っていく。


 その後ろ姿を見た瞬間。


 さっきの表示が。


 頭に浮かんだ。


【関連事象:星見■■事故】


 黒瀬。


 結衣。


 同じ事故。


「…………」


 胸の奥が。


 重くなる。



     ◇



「どうだった?」


 夕飯。


 美咲が聞いてくる。


「何が?」


「怪しい投資家」


「ああ」


「壺は?」


「買ってません」


「百万円の水」


「買ってません」


「じゃあ合格」


「何の審査なん」


 美咲が笑う。


「で、どんな人?」


「普通」


「普通?」


「見た目は」


「中身は?」


「…………」


 少し考える。


「分からん」


「何それ」


「頭いい。話も面白い」


「いい人やん」


「でも、なんか怖い」


「詐欺師やん」


「決めつけ早いな」


「慎吾より頭よくて、話が面白くて、なんか怖いんやろ?」


「俺を基準にするな」


 結衣が顔を上げる。


「パパあたまいい?」


「いいです」


 美咲。


「普通です」


「おい」


「ママは?」


「いいです」


「俺だけ普通?」


「日頃の行いやね」


「未来が見えた。明日の皿洗いはしません」


「じゃあ今日からして」


「未来を変えます」


「便利やね」


 三人で笑う。


 普通の夕飯。


 さっきまでの怖さが。


 少しだけ。


 薄くなった。


 でも。


 消えはしなかった。



     ◇



 結衣が寝たあと。


 俺は自分の部屋へ入り。


 未来価格ノートを開いた。


 新しいページ。


 上に大きく。


『黒瀬隆一』


 その下に。


 分かっていることを書いていく。


『未来影響度:99』


『八百万円の土地を現金購入』


『土地の10年後:1億8400万円』


『アステラに興味』


『時計:10年後860万円』


『黒瀬の予想:約600万円』


『名刺:10年後3200万円』


『価格上昇理由:歴史的事件の中心人物』


 最後。


 少し。


 手が止まる。


『関連事象:星見■■事故』


「…………」


 並べると。


 普通じゃない。


 黒瀬。


 アステラ。


 土地。


 そして。


 結衣。


 全部が少しずつ。


 同じ場所へ。


 近づいている気がする。


「会社……」


 そういえば。


 黒瀬の名刺。


 会社名は。


 ちゃんと調べていなかった。


 名刺を机に置き。


 会社名を検索する。


「あった」


 小さな投資会社。


 設立は三年前。


 代表取締役。


 黒瀬隆一。


 事業内容。


 株式投資。


 不動産。


 企業支援。


 スタートアップ投資。


「普通だな」


 少なくとも。


 表向きは。


 会社名でも検索する。


 ニュース。


 過去の記事。


 投資実績。


 ほとんど。


 出てこない。


「小さい会社なんだな」


 さらに。


 検索結果を遡る。


 二ページ。


 三ページ。


 四ページ。


「ん?」


 一件。


 古いイベントページ。


 三年前。


『未来都市と生活支援技術 研究・企業交流会』


「未来都市……」


 開く。


 AI。


 ロボット。


 自動運転。


 生活支援技術。


 スタートアップ。


 大学。


 企業。


 投資家。


 参加者一覧。


 スクロール。


「…………」


 いた。


『黒瀬隆一』


「三年前から……」


 イベントの写真。


 端。


 今より少し若い黒瀬。


 何人かの企業関係者と話している。


 記事を読む。


『生活支援AIの発展』


『高齢者・児童の事故防止』


『自動運転技術』


『実証都市構想』


「事故防止……」


 俺の手が。


 止まる。


 三年前。


 黒瀬は。


 すでに。


 この分野に関わっていた。


 偶然?


 投資家なら。


 将来伸びる技術を探す。


 別に。


 不自然じゃない。


 でも。


 今の俺には。


 全部が。


 繋がって見える。


「いつからだ……?」


 黒瀬は。


 いつから。


 この未来を知っていた?


 いや。


 まだ。


 決めつけるな。


 未来を知っている証拠はない。


 時計だって。


 分析で予測できる。


 土地だって。


 公開情報。


 アステラだって。


 優秀な投資家なら。


 見つけられる。


「…………」


 でも。


 名刺。


 三千二百万円。


 あれだけは。


 黒瀬本人にも。


 知りようがない。


 はずだ。



     ◇



 ノートへ。


 線を引く。


 黒瀬。


 アステラ。


 土地。


 事故防止技術。


 そして。


 結衣。


 最後。


 中央に。


『星見■■事故』


 それぞれから。


 線を伸ばす。


「…………」


 嫌な感じだ。


 まるで。


 十年後の事故が。


 今から。


 少しずつ。


 作られているみたいに見える。


 そのとき。


 スマホが震えた。


「ん?」


 メール。


 知らないアドレス。


 件名。


『本日はありがとうございました』


「黒瀬……」


 本文。


『今日は楽しかったです。慎吾さんとは、またお話しすることになると思います。』


「…………」


 続き。


『一つだけ。』


『未来は、知れば得をするとは限りません。』


 手が止まる。


「未来……」


『むしろ、知らない方が幸せな未来もあります。』


 そして。


『それでも知りたいのであれば、次にお会いしたときに。』


「…………」


 何だよ。


 これ。


 もう。


 隠す気あるのか?


 俺は返信を押す。


『未来って何ですか?』


 打つ。


 消す。


『黒瀬さん、何を知ってるんですか?』


 打つ。


 止まる。


「…………」


 送ろう。


 そう思った瞬間。


 もう一度。


 スマホが震えた。


 黒瀬。


 追伸。


『一つ、忠告を忘れていました。』


「…………」


 開く。


『星見という言葉を見つけても、今は追わない方がいい。』


「…………」


 時間が。


 止まった。


 俺は。


 画面を見たまま。


 動けなかった。


「なんで……」


 星見。


 今日。


 初めて。


 能力で見た。


 黒瀬には。


 言っていない。


 高城にも。


 美咲にも。


 誰にも。


「なんで知ってんだよ……」


 スマホを持つ手に。


 汗が滲む。


 そのとき。


 もう一通。


 届いた。


『特に、娘さんの前では。』


「…………」


 背中を。


 冷たいものが走った。


 俺は。


 反射的に立ち上がり。


 結衣の部屋へ向かった。


 ドアを開ける。


 眠っている。


 いつも通り。


 布団から。


 片足を出して。


 枕元には。


 ゼロ。


 静かに。


 眠っている。


「…………」


 スマホを見る。


『特に、娘さんの前では。』


 星見。


 結衣。


 黒瀬。


「黒瀬……」


 もう。


 偶然では。


 説明できない。


 黒瀬は。


 星見を知っている。


 結衣が。


 それに関係することまで。


 知っている。


 俺は。


 眠っている娘を見る。


 胸の奥で。


 初めて。


 はっきりとした恐怖が。


 形になった。


 黒瀬隆一。


 あの男は。


 俺よりずっと前から。


 この未来を。


 知っている。

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