第20話 四十万円
一千万円。
達成。
なのに。
【10年後の価格:294,000,000円】
「……なんで?」
結衣の絵。す
二億九千四百万円。
変わらない。
百万円から。
一千万円。
十倍。
俺は。
金を増やした。
未来のために。
結衣を助けるために。
なのに。
「一円も下がらない……」
当たり前。
なのかもしれない。
金が増えた。
それだけ。
結衣の事故。
何も。
変えていない。
「…………」
俺は未来価格ノートを見る。
最初のページ。
目標。
三億円。
ゼロ円。
そのために。
金が必要だと思った。
実際。
金は必要だ。
でも。
金は。
武器。
目的じゃない。
「使わなきゃ意味ないのか」
◇
翌朝。
「パパ、これみて!」
例のロボット。
床を。
ウィーン。
ぎこちなく動いている。
「おお」
「おじちゃんがなおした!」
「高城さんね」
「おじちゃん!」
「本人の前では高城さんって呼んであげて」
「なんで?」
「傷つくから」
「なんで?」
「三十代には色々あるんです」
美咲が笑う。
「慎吾もおじちゃんやん」
「四十一歳です」
「おじちゃんやん」
「…………」
否定。
できない。
結衣。
ロボット。
楽しそうに。
床を走らせる。
「…………」
俺は。
ロボットを見る。
【現在価格:186,000円】
【10年後の価格:0円】
そして。
前に見えた理由。
【価格消失理由:市場流通なし】
「ゼロ……」
売られない。
市場に出ない。
だから。
ゼロ。
俺が。
欲しい数字。
「…………」
結衣の絵も。
いつか。
こうなればいい。
◇
会社。
昼休み。
未来価格ノート。
アステラ。
高城。
教授。
黒瀬。
土地。
今まで分かったことを。
全部見る。
「金じゃない」
俺が。
結衣の未来を。
変えるには。
未来そのものに。
触る必要がある。
「でも、何をすれば……」
事故。
まだ。
詳細は分からない。
場所。
日時。
原因。
全部。
分からない。
唯一。
分かること。
アステラ。
高城。
教授。
次世代生活支援AI。
事故予測。
「…………」
ここ。
俺は。
未来価格ノートに挟んでいた。
高城の名刺を取り出した。
◇
夜。
電話。
『はい、高城です』
「慎吾です」
『どうも。ロボットまた壊れました?』
「いや、元気です」
『よかった』
「あの」
『はい』
「この前の研究」
『事故予測?』
「はい」
「…………」
俺。
何を。
言おうとしてる?
未来を。
変えたい。
でも。
未来価格のことは。
言えない。
「個人で」
『はい』
「支援とかできます?」
沈黙。
『支援?』
「研究に」
『寄付ってことですか?』
「まあ……」
『どうしたんです急に』
「…………」
当然。
そうなる。
「娘がいるから」
俺は。
言った。
「事故をゼロにできるかもしれないって話」
『はい』
「いいなと思って」
嘘。
ではない。
本気。
『嬉しいですけど』
「少額でも?」
『大学側の研究支援制度ならあると思います』
「どれくらいから?」
『ちょっと確認します』
「お願いします」
『でも』
「はい?」
『無理しないでくださいね』
「…………」
『研究なんて、いつ成果が出るか分からないですよ』
「分かってます」
『投資みたいに返ってくるものでもない』
「それでも」
俺は。
リビングを見る。
結衣。
ロボット。
遊んでいる。
「未来が変わるかもしれないなら」
高城。
少し。
黙った。
『……分かりました』
◇
一週間後。
大学。
俺は。
本当に来ていた。
「本当に来た……」
研究支援。
個人。
寄付。
説明を聞く。
金額。
自由。
「…………」
一千万円。
達成したばかり。
俺は。
いくら出す?
一万円。
十万円。
百万円。
「…………」
未来価格。
金を増やす。
それだけ考えれば。
寄付。
ゼロリターン。
最悪。
いや。
違う。
俺は。
何のために。
金を増やしてきた?
「三十万円」
俺は言った。
「三十万円、寄付します」
担当者が。
少し驚く。
「ありがとうございます」
書類。
記入。
支援先。
次世代生活支援AI。
事故予測研究。
金額。
三十万円。
「…………」
初めて。
未来価格を使って増やした金を。
利益のためではなく。
未来のために。
使った。
◇
帰宅。
「三十万!?」
美咲。
「はい」
「寄付!?」
「はい」
「相談は!?」
「…………」
また。
やった。
「慎吾!」
「ごめんなさい!」
「車の次は寄付!?」
「ごもっともです!」
「三十万よ!?」
「はい!」
「三千円じゃないよ!?」
「分かってます!」
怒られる。
めちゃくちゃ。
怒られる。
「なんで?」
美咲。
本気。
「なんでそこまで?」
「…………」
言えない。
未来。
結衣。
死。
それは。
言えない。
でも。
「事故を」
「事故?」
「子供の事故を減らす研究なんだ」
「…………」
「結衣みたいな子供が」
声。
少し。
詰まる。
「事故に遭わなくて済むなら」
美咲。
黙る。
「それなら」
俺は。
言った。
「三十万くらい、いいかなって」
「…………」
美咲。
ため息。
「先に相談して」
「はい」
「金額の問題じゃない」
「はい」
「次から絶対」
「はい」
「勝手に三十万使ったら」
「はい」
「旧車売るから」
「それだけは!」
「じゃあ相談して」
「します!」
強い。
◇
夜。
俺は。
自分の部屋へ戻った。
机。
結衣の絵。
「…………」
期待。
している。
正直。
めちゃくちゃ。
期待している。
三十万円。
研究。
未来。
「変わった?」
見る。
【10年後の価格:294,000,000円】
「…………」
変わらない。
「やっぱり」
そんな。
簡単じゃない。
寄付。
三十万円。
巨大な研究。
十年。
未来。
そんなもの。
一回。
寄付しただけで。
変わるわけ。
「ないよな」
俺は。
絵を戻そうとした。
そのとき。
「…………?」
表示。
揺れた。
【10年後の価格:294,000,000円】
数字が。
一瞬。
消える。
そして。
再表示。
【10年後の価格:293,600,000円】
「…………」
え?
もう一度。
見る。
【10年後の価格:293,600,000円】
二億。
九千。
三百六十万。
「四十万……」
下がった。
三億。
最初。
そこから。
二億九千四百万。
そして。
今。
二億九千三百六十万。
「下がった……」
俺は。
椅子から立ち上がった。
「下がった!」
四十万円。
たった。
四十万円。
二億九千万円以上。
残っている。
誤差。
みたいなもの。
でも。
違う。
「俺が……」
今回。
初めて。
理由が分かる。
俺が。
研究へ。
金を出した。
そのあと。
未来価格が。
変わった。
「変えた……?」
未来を。
俺が。
「…………」
手が。
震える。
嬉しい。
中古品で。
何十万円。
何百万円。
儲かったときより。
一千万円。
達成したときより。
嬉しい。
「よし……」
できる。
未来は。
変えられる。
「結衣」
待ってろ。
パパ。
やるから。
三億。
全部。
消す。
「絶対ゼロにする」
その瞬間。
絵の上。
新しい表示。
見たことのない。
文字。
【未来変動を検知】
「…………」
何だ?
さらに。
【未来改変率:0.14%】
「未来……改変?」
初めて。
能力が。
俺の行動によって。
未来が変わったことを。
認識した。
「0.14%……」
小さい。
めちゃくちゃ。
小さい。
でも。
ゼロじゃない。
「四十万円で……0.14%?」
一瞬。
考える。
三十万円出した。
未来価格が四十万円下がった。
未来改変率。
0.14%。
「…………」
いや。
待て。
金額と。
未来改変率が。
そのまま比例しているとは限らない。
百万円出せば。
もっと下がる?
一億円出せば。
一気に変わる?
「そんな単純じゃないよな」
金額だけなら。
それこそ。
三億円。
寄付すればいい。
でも。
たぶん。
違う。
俺がしたこと。
三十万円を寄付した。
その金で。
研究が。
ほんの少し。
前に進む。
誰かが。
何かをする。
それが。
さらに。
別の未来へ。
つながる。
「…………」
金じゃない。
行動。
その結果。
未来が。
変わる。
「だったら」
0.14%。
あと。
99.86%。
「全部変えてやる」
そのとき。
表示。
消えない。
「…………?」
いつもなら。
必要な情報を見せて。
終わる。
でも。
今回は。
違った。
もう一つ。
表示。
【未来改変に伴う関連事象の変動を検知】
「関連事象?」
未来を変えた。
その結果。
別の未来も。
動いた?
表示。
切り替わる。
【高城直人】
【未来影響度:94】
「…………」
九十四。
前に。
高城の名刺で見た数字。
変わっていない。
「じゃあ、何が変わった?」
未来改変に伴う。
関連事象の変動。
そう表示された。
なのに。
高城の数字は。
同じ。
「…………」
分からない。
変わったのは。
高城の影響度じゃない?
それとも。
まだ見えていない。
何か?
そして。
もう一人。
名前。
【黒瀬隆一】
「…………」
息が。
止まる。
俺は。
黒瀬のことを。
調べていた。
でも。
能力が。
向こうから。
黒瀬の名前を表示したことは。
一度もない。
「なんで……」
その下。
【未来影響度:――】
数字。
ノイズ。
「見せろ」
頭。
ズキッ。
「っ……」
表示。
揺れる。
【未来影響度:99】
「…………」
九十九。
教授。
八十七。
高城。
九十四。
そして。
黒瀬。
九十九。
「お前……」
何者なんだ?
さらに。
表示。
【未来改変により接触予定時期が変動】
「接触?」
誰と?
俺?
結衣?
高城?
「いつ?」
集中。
頭。
ズキン。
「っ……!」
数字。
揺れる。
【接触予定:――日後】
「見せろ」
ノイズ。
そして。
【接触予定:12日後】
「…………」
十二日後。
黒瀬隆一。
八百万円の土地を。
現金で買った男。
十年後。
日本を代表する企業になると。
アステラへ投資しようとしている男。
そして。
未来を。
知っているかもしれない男。
「十二日後……」
そいつと。
俺たちは。
出会う。
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