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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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19/68

第19話 一千万円の壁




 百八十万円。


 出品終了まで。


 十一時間四十二分。


「…………」


 買う?


 買わない?


 俺は銀色の機械の写真を見続けた。


 前に能力が見せた、価格の変化点。


【3年後の価格:9,800,000円】


 魅力的。


 めちゃくちゃ魅力的。


 でも。


「三年は長い」


 俺の目的は、金持ちになることじゃない。


 結衣。


 十年後。


 事故。


 それを防ぐ。


 時間は十年しかない。


 いや。


 もう、十年を切っている。


「三年寝かせて八百万増やす……」


 悪くない。


 普通なら。


 最高。


 でも。


 俺には。


 もっと速く資金を増やす方法があるかもしれない。


「…………」


 買わない。


 そう決めかけた。


 そのとき。


 もう一度。


 銀色の機械を見る。


【3年後の価格:9,800,000円】


「ん?」


 価格。


 九百八十万円。


 銀色の機械。


 一台。


 でも。


 出品は工場設備の一括販売。


「他の機械……」


 俺は初めて。


 ちゃんと全部を見ることにした。


 旋盤。


 測定器。


 工具。


 棚。


 部品。


 一つずつ。


 現在価格を確認していく。


「…………」


 十五万円。


 二十二万円。


 八万円。


 三十一万円。


 十九万円。


 さらに。


 他の機械。


 工具。


 部品。


 全部。


 計算。


「……銀色の機械を除いても、かなりあるな」


 一括販売価格。


 百八十万円。


 ロット全体の現在価値は。


 二百万円を超えている。


「待てよ」


 銀色の機械だけ残して。


 他を売れば?


「これ……いけるんじゃないか?」


     ◇


 翌朝。


 電話。


『はい』


「ネットに出てる工場設備の件なんですけど」


『ああ、一括の』


「まだあります?」


『ありますよ』


「現物見られます?」


『今日なら午後ですね』


「行きます」


     ◇


 午後。


 会社。


 有給。


「俺、何してるんだろ」


 平日に。


 閉鎖された工場へ。


 機械を買いに来ている。


 数か月前。


 普通の会社員。


 今。


 工場設備。


 人生。


 分からない。


「こちらです」


 案内されたのは。


 工場の奥にある倉庫。


 ネットで見た写真と。


 同じ。


 機械。


 工具。


 棚。


 部品。


 大量。


「全部で百八十万円?」


「はい。搬出は購入者さんでお願いします」


「…………」


 そこ。


 考えてなかった。


「重いですよね?」


「重いですね」


「ですよね」


 トラック。


 搬出業者。


 倉庫。


 運搬。


 費用。


「未来価格さん、そこまで教えてくれないんだよな……」


「はい?」


「何でもないです」


     ◇


 まず。


 銀色の機械を見る。


【現在価格:480,000円】


 そして。


 前に見えた変化点。


【3年後の価格:9,800,000円】


 間違いない。


 他の機械も見る。


 現在価値。


 十分ある。


「…………」


 問題は。


 運搬費。


 保管場所。


 売却までの手間。


 でも。


 銀色の機械だけを。


 安く残せるなら。


「買います」


「え?」


「一括で」


「ありがとうございます」


 言った。


 百八十万円。


 また。


 でかい買い物。


     ◇


 そして。


 すぐに。


 現実に殴られた。


「四十二万円……」


 搬出。


 運送。


 一時保管。


 業者の見積もり。


 四十二万円。


 購入。


 百八十万円。


 搬出など。


 四十二万円。


 合計。


 二百二十二万円。


「利益減るなぁ……」


 未来価格は教えてくれる。


 価値。


 価格。


 その先。


 でも。


 運ぶ金。


 置く場所。


 売る手間。


 そういう現実までは。


 何も教えてくれない。


「まあ……やるしかないか」


     ◇


 それから。


 俺は銀色の機械以外を。


 一つずつ売り始めた。


 測定器。


 二十八万円。


 工具。


 十二万円。


 旋盤。


 三十五万円。


 棚。


 六万円。


 別の機械。


 二十四万円。


「売れる……」


 意外と。


 売れる。


 業者。


 町工場。


 個人。


 俺が知らなかっただけで。


 業務用の中古品にも。


 ちゃんと市場がある。


「面白いな」


 知らない世界。


 未来価格がなかったら。


 一生知らなかったかもしれない。


     ◇


 一か月後。


 売却総額。


 百六十八万円。


「…………」


 購入と搬出。


 二百二十二万円。


 回収。


 百六十八万円。


 差額。


 五十四万円。


 そして。


 手元には。


 銀色の機械。


【現在価格:480,000円】


 前に見えた未来。


【3年後の価格:9,800,000円】


「五十四万で買ったようなもんか」


 悪くない。


 いや。


 めちゃくちゃいい。


 今売れば。


 ほぼトントン。


 持てば。


 三年後。


 九百八十万円。


「これなら……」


 待てる。


 すぐに金にはならない。


 でも。


 未来を買った。


 そんな感じがした。


     ◇


 とはいえ。


 資産一千万円。


 まだ。


 遠い。


 現金。


 三百万円台。


 旧車。


 現在価格。


 三百十万円。


 銀色の機械。


 四十八万円。


 株。


 中古品。


 その他。


「資産なら……」


 計算。


「七百万円は超えてるな」


「おお……」


 増えた。


 数か月前。


 百万円だった。


 それが。


 七百万円。


「あと三百万」


 一億円。


 あまりにも遠かった。


 でも。


 一千万円。


 今は。


 見える。


     ◇


 そこから。


 二か月。


 俺は急がなかった。


 土地を逃したとき。


 学んだ。


 目の前の数字に。


 焦って飛びつくのは危ない。


 未来価格との差が。


 十分大きい物だけ。


 買う。


 売る。


 無理しない。


 カメラ。


 十二万円で買う。


 売却。


 二十九万円。


 古い時計。


 十九万円。


 売却。


 四十八万円。


 オーディオ。


 二十三万円。


 売却。


 五十一万円。


 玩具。


 三万円。


 売却。


 十一万円。


 派手じゃない。


 アンプみたいな。


 大当たりもない。


 でも。


 積み上がる。


     ◇


 ある夜。


 俺は。


 未来価格ノート。


 口座。


 保有品。


 全部を並べた。


 現金。


 保有している中古品。


 旧車。


 銀色の機械。


 株。


 それぞれを。


 現在価格ベースで計算する。


「…………」


 電卓。


 数字。


「九百八十二万円」


 あと。


 十八万円。


「…………」


 近っ。


 あと。


 十八万円。


 一千万円。


     ◇


「パパ、なにしてる?」


「計算」


「また?」


「また」


「おかね?」


「そう」


「いくら?」


「九百八十二万円」


「…………」


 結衣。


 分かってない。


「いっぱい?」


「いっぱい」


「アイスなんこ?」


「アイス換算やめようか」


「なんこ?」


「一個百五十円なら……」


 計算。


「六万五千個くらい」


「ろくまん!?」


 そこは分かったらしい。


「パパすご!」


「だろ?」


「かって!」


「何を?」


「ろくまんこ!」


「絶対嫌です」


 キッチンから。


 美咲。


「冷凍庫入らんよ」


「問題そこ?」


     ◇


 あと十八万円。


 たった。


 十八万円。


 なのに。


 こういうときに限って。


 良い商品が見つからない。


「焦るな」


 自分に言う。


 目標を達成したいから。


 微妙な物を買う。


 それが。


 一番危ない。


 一週間。


 何も買わない。


 二週間。


 何もない。


「…………」


 未来価格。


 あるのに。


 暇。


     ◇


 土曜日。


 家族で。


 大型リサイクルショップ。


「パパまた見るん?」


「ちょっとだけ」


「ながいもん」


「今日は十分」


「ほんと?」


「たぶん」


「ママー! パパたぶんっていった!」


「密告するな!」


 美咲が笑う。


「三十分まで」


「はい」


     ◇


 時計。


 普通。


 カメラ。


 普通。


 楽器。


 普通。


「ないなぁ」


 結衣は。


 玩具コーナー。


「パパ!」


「ん?」


「これ!」


 持ってきた。


 ロボット。


 古い。


 箱。


 ボロボロ。


「何これ?」


「ほしい!」


 値札。


 八百円。


「八百円か」


 まあ。


 それくらいなら。


 買ってもいい。


 何気なく。


 見る。


【現在価格:186,000円】


「…………は?」


 十八万六千円。


「パパ?」


 目標まで。


 あと。


 十八万円。


 ほぼ。


 ぴったり。


「…………」


 俺は。


 ロボットを見る。


 結衣を見る。


 もう一度。


 ロボット。


【現在価格:186,000円】


 売れば。


 一千万円。


 超える。


「結衣」


「なに?」


「これ欲しい?」


「うん!」


「…………」


 めちゃくちゃ。


 欲しそう。


 ロボットを。


 ぎゅっと抱えている。


「…………」


 俺は。


 笑った。


「買おう」


「やったー!」


 レジ。


 八百円。


 購入。


     ◇


 帰宅。


 結衣。


 箱を開ける。


「うごかん!」


「古いからなぁ」


「パパなおして!」


「無茶言うな」


 電池。


 交換。


 動かない。


「壊れてるか」


「なおして!」


「分かりましたよ」


 俺はネットで。


 型番を調べた。


「…………」


 希少品。


 限定モデル。


 状態がよければ。


 かなり高額。


 でも。


 これは。


 箱ボロ。


 動かない。


 それでも。


【現在価格:186,000円】


「売れるのか……」


 十八万六千円。


 売れば。


 目標達成。


 そのとき。


「パパ、これわたしの?」


「…………」


「ねえ」


「うん」


「やった!」


 結衣。


 ロボットを抱きしめる。


「…………」


 無理。


 売れない。


「はは」


 俺。


 何してるんだ。


 未来価格。


 十八万六千円。


 目標まで。


 あと十八万円。


 ほぼ。


 ぴったり。


 でも。


「それ、結衣の」


「うん!」


 いい。


 別の十八万円。


 探せばいい。


     ◇


 翌日。


 俺は。


 ロボットを直していた。


「ここ?」


 接点。


 錆。


 掃除。


 配線。


「分からん」


 旧車の整備より。


 難しい。


「高城さんなら……」


 ロボット。


 専門家。


 いや。


 こんな玩具。


 迷惑か?


「…………」


 写真。


 送る。


『これ直せます?』


 五分。


 返信。


『懐かしい!』


「知ってるんだ」


 さらに。


『たぶん直せますよ』


「マジか」


     ◇


 翌週。


 高城。


 整備工場。


 なぜか。


 旧車の横で。


 玩具修理。


「ここですね」


「分かるんです?」


「接点とモーター」


 工具。


 十分。


 ウィーン。


「動いた!」


「パパ!」


 結衣。


 大喜び。


「すご!」


「高城さんが直してくれたよ」


「おじちゃんすご!」


「おじ……」


 高城。


 三十代。


 少し傷ついてる。


「ありがとう!」


「どういたしまして」


 結衣が。


 ロボットを床に置く。


 ウィーン。


 ぎこちなく。


 動く。


 結衣。


 大笑い。


 高城も。


 笑う。


「娘もこういうの好きですよ」


「そうなんですね」


「今度会わせたいな」


「ぜひ」


 俺は。


 何気なく。


 ロボットを見る。


【現在価格:186,000円】


 変わらない。


 でも。


 その下。


【10年後の価格:0円】


「…………」


 ゼロ?


 今。


 十八万六千円。


 十年後。


 ゼロ。


「なんで?」


 普通なら。


 古い玩具。


 希少品。


 さらに価値が上がる可能性だってある。


 なのに。


 ゼロ。


 俺は。


 軽く理由を探る。


 表示。


 揺れる。


【価格消失理由:市場流通なし】


「…………」


 市場流通。


 なし。


「市場に……出ない?」


 結衣を見る。


 ロボット。


 抱きしめている。


「これずっともってる!」


「…………」


 偶然。


 ただの。


 四歳児の発言。


 でも。


 俺は笑った。


「そういうゼロもあるのか」


 売られない。


 市場に出ない。


 だから。


 市場価格としては。


 ゼロ。


「いいな」


「何がです?」


 高城が聞く。


「いや」


 ゼロ。


 嬉しい。


 初めて。


 そう思った。


 結衣の絵も。


 いつか。


 こんなゼロになればいい。


     ◇


 三日後。


 仕事帰り。


 中古カメラ店。


 一台。


 値札。


 四万二千円。


【現在価格:268,000円】


「…………」


 買う。


     ◇


 翌週。


 専門店。


 査定。


 二十二万円。


「売ります」


     ◇


 夜。


 俺は。


 もう一度。


 全部を計算した。


 現金。


 中古品売買で増えた資金。


 保有している旧車。


 銀色の機械。


 株。


 その他の保有品。


 すべて。


 現在価格ベース。


「…………」


 電卓。


 数字。


 出る。


 10,037,000円。


「…………」


 一。


 十。


 百。


 千。


 万。


「一千万……」


 超えた。


「…………」


 俺は。


 椅子から立ち上がった。


「よっしゃあああ!」


「パパうるさい!」


 隣の部屋から。


 結衣。


「ごめん!」


 でも。


 笑う。


 百万円。


 そこから。


 始めた。


 時計。


 レンズ。


 アンプ。


 万年筆。


 旧車。


 機械。


 カメラ。


 いろいろ。


 そして。


 とうとう。


 一千万円。


「やった……」


 未来価格ノート。


 目標。


『一千万円』


 その横。


 赤いペン。


 大きく。


『達成』


「…………」


 嬉しい。


 めちゃくちゃ。


 嬉しい。


 でも。


 俺は。


 次のページを見る。


 結衣の絵。


 十年後。


 二億九千四百万円。


「…………」


 そうだ。


 確認。


 俺は。


 絵を見る。


【10年後の価格:294,000,000円】


「…………」


 変わらない。


 俺の資産は。


 百万円から。


 一千万円になった。


 十倍。


 でも。


 結衣の未来は。


 一円も。


 下がっていなかった。

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