第16話 俺は、いつ死ぬ?
【10年後の価格:2,800,000円】
【価格上昇理由:死亡した著名人物の生前写真】
【関連人物:慎吾】
「俺……死んでる?」
何度見ても。
慎吾。
俺の名前だ。
十年後。
この写真には二百八十万円の価値がある。
理由。
死亡した著名人物の生前写真。
その著名人物が。
俺。
「…………」
椅子に座った。
力が抜ける。
結衣だけじゃない。
俺も。
今見えている未来では。
十年後には死んでいる。
「何なんだよ……」
娘を助けるために、未来価格を使い始めた。
金を増やして。
未来を調べて。
本当に少しずつだけど。
未来を変えられるかもしれないと思い始めた。
なのに。
今度は俺?
「ふざけんなよ」
俺が死んだら。
誰が結衣を助けるんだ。
◇
「慎吾?」
「うわっ!」
振り返る。
美咲。
「何?」
「いや……」
「さっきからアルバム見ながら固まってるけど」
「懐かしいなと思って」
「泣きそうな顔で?」
「…………」
そんな顔してたのか。
美咲が隣に座った。
「これ去年やね」
「うん」
例の写真。
公園。
俺。
美咲。
結衣。
三人で笑っている。
「結衣、小さい」
「一年しか経ってないよ」
「子供の一年はでかいよ」
「そうやね」
美咲がページをめくる。
「これ覚えてる?」
「ああ」
「慎吾、転んだやつ」
「写真で残すなよ」
「面白かったもん」
次。
「これ」
「うわ」
俺。
寝てる。
顔。
結衣のシールだらけ。
「これ消していい?」
「ダメ」
「なんで?」
「結衣が大きくなったら見せる」
「俺の人権は?」
「ない」
「ひどい」
美咲が笑う。
俺も。
少しだけ笑った。
でも。
写真を見る。
十年後。
二百八十万円。
理由。
俺が死んでいるから。
「…………」
やっぱり。
笑えなかった。
◇
その夜。
美咲と結衣が寝たあと。
俺は自分の部屋へ戻った。
未来価格ノート。
新しいページ。
大きく書く。
『慎吾 死亡?』
「……嫌な見出しだな」
でも。
調べる。
まず。
自分自身。
鏡を見る。
「俺の十年後」
意識を向ける。
何も出ない。
「やっぱり人間には出ないか」
結衣にも。
俺にも。
美咲にも。
人そのものには価格が表示されない。
だったら。
俺に関係する物から探す。
「死亡予定日……」
例の家族写真を手に取る。
集中。
【10年後の価格:2,800,000円】
【価格上昇理由:死亡した著名人物の生前写真】
【関連人物:慎吾】
「俺の死亡予定日」
強く思う。
頭の奥が。
ズキッ。
【死亡予定日:――――】
「出た」
心臓が速くなる。
「見せろ」
ノイズ。
文字が。
少しずつ形になる。
【死亡予定日:算出――】
「算出?」
さらに集中する。
【死亡予定日:算出不能】
「…………は?」
算出不能。
「なんで?」
結衣は。
出た。
日数まで。
はっきり。
なのに。
俺は。
算出不能。
「能力の限界?」
それとも。
俺の死は。
まだ固定されていない?
「…………」
分からない。
でも。
この違いは。
絶対に意味がある。
◇
俺は別の物でも試した。
社員証。
【10年後の価格:320,000円】
【価格上昇理由:著名人物の所有品】
「死亡予定日」
集中。
【死亡予定日:算出不能】
名刺。
【10年後の価格:18,000円】
【死亡予定日:算出不能】
仕事用ノート。
【10年後の価格:48,000円】
【死亡予定日:算出不能】
「全部ダメか……」
なら。
別の角度。
俺は社員証を見る。
今は価値がない。
十年後には三十二万円。
その間。
いつ。
価値がつき始める?
「もっと手前は……?」
そう強く思った。
その瞬間。
いつもの表示が揺れた。
【10年後の価格:320,000円】
数字が滲む。
「……え?」
見慣れた十年後の表示が。
一瞬。
別の文字へ変わった。
【7年後の価格:12,000円】
「七年後?」
すぐに消える。
「待て」
俺は社員証を握る。
「もう一回」
集中。
頭が。
ズキッと痛む。
表示が揺れる。
【8年後の価格:86,000円】
次。
【9年後の価格:210,000円】
そして。
【10年後の価格:320,000円】
「…………」
俺は息を止めた。
自分で七年後や八年後を指定したわけじゃない。
能力が。
何か意味のある時点だけを。
断片的に見せている。
「七年後から……価値がつき始める?」
社員証。
理由は。
著名人物の所有品。
だとすれば。
七年後あたりから。
俺の名前が。
世間に知られ始める?
「…………」
まだ。
断定はできない。
でも。
変化する時期は。
そのあたり。
そんな気がした。
「じゃあ……この写真は?」
例の家族写真。
見る。
【10年後の価格:2,800,000円】
強く思う。
この価格が。
いつから上がる?
表示。
揺れる。
【5年後の価格:12,000円】
消える。
【7年後の価格:120,000円】
さらに。
【9年後の価格:620,000円】
「九年後……」
まだ。
六十二万円。
でも。
その次。
ノイズが激しくなる。
【9年――後の価格:1,100,000円】
「何年だ?」
数字の一部が潰れている。
さらに。
【9年――後の価格:2,300,000円】
「…………」
十年後。
【10年後の価格:2,800,000円】
俺は写真を机に置いた。
「直前で……跳ねてる」
九年後。
六十二万円。
そこから。
十年後に向かって。
一気に上がる。
つまり。
俺に何か起きるのは。
十年目に入ってから?
「結衣と……同じ時期?」
嫌な汗が流れる。
俺は結衣の最初の絵を取り出した。
【現在価格:0円】
【10年後の価格:294,000,000円】
まだ。
二億九千四百万円。
死亡予定日。
強く意識する。
【死亡予定日まで:3,5――日】
「…………」
数字が。
途中で潰れている。
以前より。
当然。
時間は減っている。
それでも。
まだ。
ほぼ十年。
俺の写真の価値が急激に上がる時期と。
かなり近い。
「同じ事故なのか……?」
もし。
結衣の事故に。
俺も巻き込まれて死ぬ。
だったら。
一応。
辻褄は合う。
「でも……」
引っかかる。
俺の死亡予定日。
【算出不能】
結衣は。
日数まで出る。
もし。
同じ事故。
同じ日に。
二人とも死ぬなら。
俺にも同じように出てもよさそうだ。
「…………」
何かが違う。
◇
翌朝。
ほとんど眠れなかった。
「パパ、ねむそう」
「眠い」
「ねれば?」
「これから仕事です」
「おしごとでねれば?」
「クビになる」
「くび?」
「仕事なくなる」
「じゃあパパずっとおうち?」
「そうなる」
「いいやん!」
「よくないんだよ」
美咲がコーヒーを飲みながら笑う。
「結衣は嬉しいよね」
「パパ毎日あそべる!」
「収入ゼロのパパが誕生します」
「ゼロ?」
「そう」
「じゃあアイスかえん?」
「買えません」
「おしごといって」
「切り替え早っ」
美咲が吹き出した。
俺も笑う。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
「パパ!」
「ん?」
「きょう、あのくるま?」
「今日は普通の車」
「えー!」
「毎日あれで行けるか!」
玄関を出る。
普通の朝。
「…………」
俺は。
この普通を。
絶対に守る。
◇
昼休み。
俺は未来価格ノートを見ていた。
分かっていること。
七年後あたり。
俺に関係する物へ。
少しずつ価値がつき始める。
九年後から十年後にかけて。
生前品の価値が急上昇する。
そして。
十年後には。
俺は死亡した著名人物として扱われている。
でも。
死亡予定日。
算出不能。
「情報が足りない」
俺はペンを置いた。
こういうとき。
未来価格だけを見続けても。
答えは出ない。
今。
調べられることを調べる。
「まずアステラだな」
結衣の事故。
現時点で。
唯一。
名前が出ている企業。
アステラ・ロボティクス。
現在株価。
三百円前後。
十年後。
四万二千八百円。
生活支援AI。
見守り。
そして。
結衣の絵。
【関連企業:アステラ・ロボティクス】
「ここからだ」
俺は。
アステラについて。
本格的に調べることにした。
◇
会社。
所在地。
事業内容。
研究開発。
特許。
提携先。
ニュース。
採用情報。
今までより。
ずっと細かく見る。
「…………」
小さな会社だ。
今はまだ。
世間では。
ほとんど知られていない。
でも。
研究内容は面白い。
物流。
工場。
介護。
家庭。
人間と一緒に動くロボット。
「これが十年後……」
巨大企業になる?
株価だけを見るなら。
そう考えてもおかしくない。
そして。
一つ。
気になる記事。
以前見つけた。
『次世代生活支援AIの共同研究を開始』
「これ……」
記事を開く。
大学との共同研究。
家庭内の事故防止。
高齢者。
子供。
行動予測。
「事故防止……」
娘の。
死亡事故。
アステラは。
事故を起こす側なのか。
それとも。
事故を防ぐ側なのか。
「どっちなんだよ」
そのとき。
記事の中。
研究責任者。
一人の名前が目に入った。
「…………」
知らない人。
四十代。
大学教授。
専門。
ロボット工学。
AI。
「この人……」
今。
聞いたところで。
十年後の事故なんて。
知るはずがない。
それでも。
アステラの未来を追うなら。
覚えておくべき人物だ。
俺は研究責任者の顔写真を見る。
本当に。
何気なく。
見ただけだった。
すると。
「…………え?」
表示が出た。
【現在価格:――】
人には。
価格は出ない。
結衣にも。
俺にも。
美咲にも。
出なかった。
でも。
記事の中にある。
教授の顔写真。
そこに。
今まで見たことのない文字が。
重なった。
【関連価値:――――】
「関連価値?」
初めて見る表示。
俺は。
画面へ顔を近づけた。
【関連価値:対象者の未来への影響度】
「…………」
何だこれ。
価格じゃない。
「影響度?」
その下。
【対象:結衣】
心臓が跳ねた。
「……また結衣?」
さらに。
数字。
【未来影響度:87】
「八十七……?」
何の数字だ。
百点満点?
それとも。
千?
そもそも。
数字が高いほど影響が大きいのか。
低いほど危険なのか。
何も分からない。
ただ。
今まで。
一度も見たことのない表示だ。
「…………」
俺は。
教授の名前と。
未来影響度87。
その二つを。
未来価格ノートへ書いた。
その瞬間。
「…………待て」
思い出した。
土地。
八百万円。
十年後。
一億八千四百万円。
価格上昇理由。
周辺開発。
関連事象。
『次世代研究――誘致』
「次世代研究……」
そして。
アステラ。
『次世代生活支援AI』
「…………」
同じ。
次世代。
研究。
偶然?
俺は。
急いで。
売れた土地の住所を調べた。
そして。
アステラと共同研究している大学。
研究施設。
周辺。
地図。
「…………嘘だろ」
土地。
大学。
距離。
車で。
十五分。
「近い……」
あの土地。
十年後。
一億八千四百万円。
次世代研究施設の誘致。
アステラ。
次世代生活支援AI。
教授。
未来影響度87。
結衣。
事故。
そして。
俺の死。
「全部……」
バラバラだった点が。
初めて。
ほんの少しだけ。
近づいた気がした。
そのとき。
俺は。
もう一つ。
気づいた。
「あの土地……」
もう。
別の人が買っている。
俺は。
東和不動産から聞いた言葉を思い出す。
現金購入。
一年以上売れなかった土地。
俺が見つけた直後。
突然現れた購入希望者。
「…………」
偶然。
そう思っていた。
でも。
もし。
あの買主が。
十年後の研究施設を。
何らかの形で知っていたとしたら?
「いやいや」
俺は首を振る。
未来価格とは限らない。
まだ公表されていない計画。
大学。
企業。
行政。
内部に近い人間なら。
俺より早く情報を持っていても。
別に不思議じゃない。
「…………」
それでも。
一年以上。
誰も買わなかった土地。
俺が。
未来価格一億八千四百万円を見つけた。
ほぼ同じタイミングで。
現金購入の人間が現れた。
「偶然……だよな」
口に出す。
でも。
妙に。
気持ちが悪かった。
そして。
初めて。
俺は。
一つの可能性を考えた。
俺は。
この能力が。
自分だけのものだなんて。
一度も。
確認していない。
「…………」
未来価格が見える人間は。
本当に。
俺一人なのか?




