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『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


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15/68

第15話 俺は、何で有名になる?




【10年後の価格:12,000,000円】


【価格上昇理由:契約者の社会的知名度】


【関連人物:結衣】


「…………」


 意味が分からない。


 俺は、机の上に置かれた中古車の売買契約書を見つめた。


 ただの紙だ。


 俺の名前。


 住所。


 車種。


 金額。


 契約日。


 それだけ。


 そんな紙が、十年後。


 一千二百万円。


「俺が……有名になる?」


 もう一度見る。


【価格上昇理由:契約者の社会的知名度】


 間違いない。


 契約者。


 つまり俺。


 十年後の俺には、中古車の契約書に一千二百万円の値段がつくほどの知名度がある。


「何したんだよ、俺……」


 スポーツ選手。


 違う。


 四十一歳から何を始めるつもりだ。


 芸能人。


 もっとない。


 政治家。


「絶対嫌だ」


 有名投資家?


 会社経営者?


 未来価格を使って資産を増やし続ければ、その可能性はある。


 でも。


【関連人物:結衣】


「…………」


 これが。


 怖い。


 結衣が関係している。


 しかも。


 今見えている未来では。


 十年後。


 結衣は死んでいる。


「まさか……」


 嫌な想像が浮かぶ。


 娘を亡くした父親。


 事故。


 ニュース。


 裁判。


 テレビ。


 被害者遺族。


「やめろ」


 自分で。


 考えるのを止めた。


 そんな未来。


 絶対にいらない。


     ◇


 俺は契約書を握り、集中した。


「関連人物の理由……」


 頭の奥。


 ズキッ。


「っ……」


 いつもの痛み。


 でも。


 止めない。


【関連人物:結衣】


 その下。


 文字が揺れる。


【関連理由:――――】


「見せろ」


 痛みが強くなる。


【関連理由:娘の――――】


「娘の……?」


 心臓が速くなる。


「もう少し」


 表示が歪む。


【関連理由:娘の死亡――】


「…………」


 息が止まった。


 やっぱり。


 最悪の予想。


「くそ……」


 でも。


 文字は。


 まだ続いていた。


【関連理由:娘の死亡事故――――】


「事故……」


 結衣の絵。


【関連事象:■■■■事故】


 同じ。


「その先」


 俺は歯を食いしばる。


「見せろ……!」


 頭に。


 強烈な痛み。


「っ……!」


 視界が白くなる。


 それでも。


 一瞬。


 読めた。


【関連理由:娘の死亡事故を――――】


「を……?」


 死亡事故を。


 何だ?


 公表?


 訴える?


 追及?


 調査?


「もう一回……」


 集中しようとした瞬間。


「うっ……」


 吐き気。


 無理だ。


 俺は机に手をついた。


「はぁ……はぁ……」


 これ以上は。


 危ない。


 能力は。


 教えてくれる。


 でも。


 深く知ろうとすると。


 明らかに身体へ負担がかかる。


「娘の死亡事故を……」


 その先。


 何なんだ。


     ◇


 翌朝。


「パパ、これのる!」


 玄関で結衣が騒いでいる。


 昨日納車されたばかりのスポーツカー。


「保育園はいつもの車で行くぞ」


「これ!」


「狭いよ」


「これがいい!」


「…………」


 負けた。


「チャイルドシートつけるから待って」


「やったー!」


 美咲が呆れた顔をしている。


「朝から大変やね」


「誰の娘ですか」


「慎吾の娘」


「あなたの娘でもあります」


 チャイルドシート。


 狭い後部座席。


「うわ、やりにくっ」


「パパまだー?」


「待て待て」


「おそーい」


「この車、子供乗せること考えて作ってないんだよ!」


 十分後。


 なんとか装着。


「よし」


 結衣を乗せる。


「せまい!」


「昨日言ったよね!?」


 美咲が爆笑している。


「だから言ったやん」


「結衣が乗るって言ったんだよ!」


「パパ、はやく!」


「はいはい」


 エンジンをかける。


 音。


「うるさ!」


「…………」


 俺の憧れ。


 四歳児に。


 ボロボロにされていく。


     ◇


 でも。


 走り出すと。


「パパ!」


「ん?」


「これたのしい!」


「だろ?」


 ちょっと嬉しい。


「ママのくるまよりたのしい!」


「それママに言うなよ」


「なんで?」


「家庭の平和のためです」


 バックミラー。


 結衣。


 笑っている。


「…………」


 十年後。


 十四歳。


 この車。


 まだ持ってるかな。


 結衣。


 乗ってくれるかな。


 たぶん。


『パパの車ダサい』


 とか言うんだろうな。


「……言わせてやる」


「なに?」


「何でもない」


 嫌われてもいい。


 うざがられてもいい。


 十四歳の娘に。


「パパうざい」


 って。


 言われたい。


 それが。


 今の俺には。


 最高の未来だった。


     ◇


 保育園。


 結衣を送り。


 会社へ向かう。


 信号待ち。


 ふと。


 ダッシュボードを見る。


「…………」


 そういえば。


 車の契約書に。


 未来価格がついた。


 だったら。


 俺に関係する物。


 他にも。


 未来価格がつく?


 例えば。


 財布。


 見る。


【現在価格:18,000円】


【10年後の価格:21,000円】


「普通」


 腕時計。


【現在価格:68,000円】


【10年後の価格:1,800,000円】


 これは前から。


 希少価値。


 スマホ。


【現在価格:96,000円】


【10年後の価格:0円】


「まあ、十年後ならそうだよな」


 さすがにスマホは。


 十年後まで価値を保てないらしい。


 そして。


 会社の社員証。


【現在価格:0円】


【10年後の価格:320,000円】


「…………」


 え?


 もう一度。


【10年後の価格:320,000円】


「社員証が?」


 三十二万円。


 高い。


 でも。


 契約書。


 一千二百万円。


 差がありすぎる。


「なんで?」


 信号。


 青。


「おっと」


 俺は慌てて車を発進させた。


     ◇


 会社の駐車場。


 車を停める。


 もう一度。


 社員証を見る。


【10年後の価格:320,000円】


 集中。


「理由」


 軽く。


 深追いはしない。


【価格上昇理由:著名人物の所有品】


「…………」


 著名人物。


 俺。


「やっぱり」


 十年後。


 俺は。


 有名になっている。


 これは。


 かなり可能性が高い。


「でも……」


 社員証。


 三十二万円。


 契約書。


 一千二百万円。


 なぜ。


 ここまで違う?


 契約書には。


 何か。


 特別な意味がある。


 あの車?


 購入日?


 それとも。


 契約そのもの?


「…………」


 分からない。


 でも。


 仕事。


 行かないと。


 俺は社員証を首にかけた。


     ◇


 昼休み。


 俺は。


 実験することにした。


 自分の物。


 片っ端から。


 未来価格を見る。


 名刺。


【10年後の価格:18,000円】


 ボールペン。


【10年後の価格:6,000円】


 仕事用ノート。


【10年後の価格:48,000円】


 古い財布。


【10年後の価格:33,000円】


 家の鍵。


【10年後の価格:――】


「まあ、売れないか」


 そして。


 机の引き出し。


 昔の物。


「これ……」


 一枚の写真。


 数年前。


 家族三人で旅行へ行ったときの写真。


 俺。


 美咲。


 まだ小さい結衣。


「懐かしいな」


 見る。


【現在価格:0円】


【10年後の価格:680,000円】


「…………」


 六十八万円。


 高い。


「理由」


 集中。


【価格上昇理由:著名人物の家族写真】


「…………」


 やっぱり。


 俺が有名になるから。


 そして。


 俺は。


 あることを思いついた。


「待てよ」


 家族写真。


 六十八万円。


 契約書。


 一千二百万円。


 もし。


 結衣が写っているから。


 高いなら。


「結衣の写真は?」


 スマホのデータじゃない。


 紙の写真。


 家に。


 たくさんある。


「帰ったら見る」


     ◇


 その夜。


「何してるん?」


 美咲が聞く。


「アルバム」


「珍しいね」


「ちょっと見たくなって」


 嘘ではない。


 結衣。


 生まれた日。


 赤ちゃん。


 一歳。


 二歳。


 三歳。


 四歳。


「…………」


 ページをめくりながら。


 一枚ずつ。


 未来価格を見る。


 数千円。


 一万円。


 三万円。


 写真によって。


 違う。


 そして。


 ある一枚。


「…………」


 手が止まった。


 去年。


 家族三人で公園へ行ったときの写真。


 どこにでもある。


 普通の家族写真。


【現在価格:0円】


【10年後の価格:2,800,000円】


「高い……」


 二百八十万円。


 さっき見た家族写真の。


 四倍以上。


「理由……」


 俺は写真に集中する。


 頭の奥が。


 ズキッとした。


【価格上昇理由:死亡した著名人物の生前写真】


「…………」


 死亡した。


 著名人物。


「結衣……?」


 いや。


 待て。


 写真には。


 三人いる。


 俺。


 美咲。


 結衣。


 誰だ?


「関連人物」


 集中。


【関連人物:――――】


 ノイズ。


「見せろ」


 頭痛。


【関連人物:慎吾】


「…………え?」


 俺?


 もう一度。


 見る。


【10年後の価格:2,800,000円】


【価格上昇理由:死亡した著名人物の生前写真】


【関連人物:慎吾】


「…………」


 頭が。


 真っ白になった。


 死亡した著名人物。


 その人物は。


 俺。


「俺……死んでる?」


 声が。


 震えた。


 十年後。


 結衣が死ぬ。


 それだけじゃない。


 この写真に。


 二百八十万円の価値がつく未来では。


 俺も。


 死んでいる。


「…………」


 待て。


 違う。


 これは。


 確定した未来じゃない。


 結衣の絵の価格は。


 一度変わった。


 三億円から。


 二億九千四百万円へ。


 未来は。


 変えられる。


 だったら。


 これも。


 変えられる。


 でも。


 今。


 能力が示している未来では。


 十年後。


 娘だけじゃない。


 俺も。


 この世にいない。



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