第8話 人痘は捨て身のチェストぉー!行為です
「兄上…いえ、陛下、少々『お掃除』が必要な案件が片付きました」
皇帝に即位したばかりの俺の前に、ワスカルが書類の束を抱えて現れた。その顔面の片眼鏡風ピアスは、心なしかいつもより冷徹に、そして鋭くキラーンと輝いている。
「お掃除……? おいワスカル、何があったんだよ」
「人痘(カサカサ粉末)の全国接種計画ですが、一部の保守派モブ貴族どもが『我ら高貴な血筋が、なぜ平民と同じ怪しい粉を吸わねばならんのだ』と反発を漏らしていましたが……そ奴ら日頃の不摂生が祟ったのか、副反応で数名ほどガチでお亡くなりになりました」
「ひえっ、やっぱり出ちまったか……!」
人痘接種法にはどうしても数パーセントの致死リスクがある。現代のワクチンだって副反応はあるんだ、原始的な人痘なら尚更だ。
「それで? そのモブ貴族の遺族どもが『新皇帝ニナンは呪術で貴族を暗殺している!』って騒ぎ出したとか!? マズいじゃん、即位早々テロとか内戦の火種に――」
「ご安心を。その非難声明、全て私が合法的に潰しておきました」
ワスカルは冷たい笑みを浮かべ、ピアスを再度キラーンとさせた。
「潰したって……お前、何したの?」
「まず、彼らが『太陽神の血を引くニナン陛下を疑った=国家反逆罪』であると定義しました。さらに、お亡くなりになったモブ貴族の領地と財産を全て没収し、天然痘から生還した【ウラコ(医療従事者集団)】の報酬へと即座に補填。文句を言う親族には『では、今すぐ大流行地帯に転属するか、それとも大人しく諦めるか選べ』と、二者択一を迫ったところ……皆様、涙を流して黙り込まれました」
「謀略の切れ味がエグすぎるゥゥゥ!!」
さすがは史実でアタワルパと帝位を巡ってエグい内戦をやらかした男。身内に回るとこれ以上ないくらい頼もしいが、やってることが完全に冷酷なマフィアの若頭である。
「フッ、兄上に泥を塗る羽虫どもは、このワスカルがすべて光の速さで駆除いたします。すべては我が愛するタワンティンスーユと、ニナン兄上のため……」
「ワスカル……お前、本当に俺の味方で良かったよ。でもお願いだから、その片眼鏡ピアスをキラーンってさせながら怖い笑顔でキープを結ぶのやめて!?」
「大丈夫です兄様! 嫌なことは全部忘れて、クシリマイのこのモチモチな胸に顔を埋めて、昨日みたいにハァハァしてくださいっ♡」
「クシリマイさん、頼むから昨日の夜の記憶を捏造するのやめてもらえます!?」
身内の有能さと性欲のブレーキが壊れている新生インカ帝国。
モブ貴族の反発すらワスカルのキラーン一発で消し飛ばし、ニナン皇帝の絶対王政は、着実にその基盤を固めつつあった。




