第7話 父帝ワイナ・カパック、死す?!
キトの宮殿の豪華なベッドで、父皇帝ワイナ・カパックはシーツを強く握りしめていた。俺の指示通りに人痘(カサカサ粉末)を鼻から吸った親父だったが、高齢のせいか副反応がめちゃくちゃ重く出てしまったのだ。
「父上! しっかりしてください! 筋肉を……筋肉のイメージを強く持つのです!」
「アタワルパよ、もうよい……。ワシの体の中で神々の戦いが起きているのがわかる。ワシはもう……死を覚悟した」
プルプルと震える親父の枕元で、ワスカルが涙を堪えながらピアスをキラーン(哀悼の輝き)とさせている。クシリマイも俺の腕にすがりついてワンワン泣いていた。
親父、すまん。人痘はたまに副反応が重すぎてガチで死にかけるんだ。俺の計算ミスだ。
父皇ワイナ・カパックは最後の力を振り絞るように、俺の手をガシッと掴んだ。
「ニナンよ……我が偉大なる長子、タワンティンスーユの未来よ………本日、ここに集いし群臣の前で宣言する。ワシは退位し、全ての権力を次期皇帝たるお前に禅譲する! 国難にあえぐ我が国を救うのは、お前のその、得体の知れない科学の力だ……。あとは……頼む……」
ガクッ。
親父の首が力なく横に倒れた。
「ちちうえーーーーーーーッッッ!!!」
ワスカルが絶叫し、宮殿中が悲しみの涙に包まれた。俺も「歴史の修正力に親父が殺された!」と絶望した。
……その、わずか3日後のことである。
「おうっ、トウモロコシの粥がうまいな。おかわり!」
「って、普通に生還しとるがなァァァァァァァ!!」
ベッドから起き上がった親父がピンピンした顔で粥をバクバク食っていた。デキモノも綺麗に枯れて、なんなら肌のツヤが俺より良くなっている。
「いやー、一時は死ぬかと思ったが、あのカサカサ粉末は本当に凄いな! 完全に病(天然痘)の死神に打ち勝ったぞ! ワシの体は今、エネルギーに満ち溢れておる!」
ガハハと豪快に笑う親父に、俺はプルプルと震えながら詰め寄った。
「い、いや、生きてて良かったですよ!? ほんと最高ですけど、あの、3日前の大々的な『皇位禅譲の宣言』は……?」
するとワイナ・カパックは、スプーンを置いてニヤリと不敵に笑った。
「あ、それな? もう群臣にも民にも宣言しちゃったし、キープ(紐)にもバッチリ記録しちゃったから変更不可な。というわけで、ワシは予定通り本日をもって退位しまーす! あとは若いお前らで仲良く頼むぞ? はっはっは!」
「現役引退の口実に使われたァァァァァァ!!」
「さすが父上、見事な政治的立ち回です。これで兄上が第十二代皇帝ですね」
ワスカルが書類を抱えて早くも実務モードでピアスをキラーン。
「おめでとうございます、ニナン陛下! さあ、皇帝になられたのですから、今夜もクシリマイとの盛大な『世継ぎ作り(意味深)』の儀式を♡ 昨日の今日でまた激しいのは体が持ちませんけど、皇帝陛下の命令なら喜んでぇん♡」
「クシリマイ、頼むから公衆の面前で掘り返さないで!?」
ナレ死を回避したと思ったら、生前退位した親父から100%の丸投げで帝国最高権力者の座に就かされてしまった。
ピサロ襲来まで、あとわずか。カオスまみれの新生インカ帝国、ニナン皇帝の戦いはこれからだ!




