第6話 アンデス一線越え!?(記憶なし)
「いやー、生き残った! ガチで歴史書の1行死から脱出したぞ俺!」
天然痘のパンデミック阻止に目処が立ち、生存ルートが確立された安心感から、俺はその夜、トウモロコシの地酒を浴びるように痛飲した。前世でも味わったことのないレベルの、完全なる泥酔である。どうやって自分の寝室に戻ったのかすら記憶にない。
そして、翌朝。
「……う、頭が割れそうだ。インカの酒、度数高すぎだろ……」
ズキズキする頭を押さえながら起き上がり、ふと、寝室の鏡に目を向けた俺は硬直した。
鏡に映っていたのは、首筋から胸元、果ては腹筋のあたりにまで、これでもかと乱発されている鮮やかな赤紫色の斑点&色鮮やかなリップマーク。
「って、これ天然痘の再発じゃねえええ!! あきらかにクシリマイの唇の形したリップマークじゃねえかァァァ!!」
しかも、シーツには微かに甘い香りが残り、俺の衣服ははだけまくっている。下半身に至っては剥き出しだ。絶対に、確実に、明らかにか「一線」どころかアンデス山脈を飛び越えるようなイベントが発生していた。しかし酩酊していた俺の記憶は完全にブラックアウトしている。
恐る恐る寝室の扉を開けると、そこにはニヤニヤとした笑みを浮かべた侍女が立っていた。
「あ、ニナン様、お目覚めですか。昨晩は……ずいぶんと激しい『神事』が行われていたようで。クシリマイ様、とっても可愛い声を響かせておいででしたよ♡」
「き、聞くな! 何も言うな! 俺に喋らせるな!!」
俺は真っ赤になって自分の顔を覆った。実妹婚の文化があるとはいえ、前世日本人の倫理観が「お前は実妹と一線を越えた」と脳内で大罪人アラートを鳴らし散らしている。
そこへ、廊下の向こうからフンフフーン♪と超ゴキゲンな鼻歌が聞こえてきた。
現れたクシリマイは、いつも以上に肌がツヤツヤと輝いており、まさに「愛を知った女」のオーラを全身からドバドバと放出している。
「あ、兄様ぁ♡ 昨晩は、あんなに激しくクシリマイを求めてくださって……本当に幸せでしたぁ」
「ア、クシリマイさん!? 昨夜、俺たちはいったい何を……」
「もう、意地悪。言わせないで下さいませっ♡」
クシリマイは顔を赤らめて身をよじったが、ふと見ると、彼女の歩き方がほんの少しだけ、ぎこちなく、どこか「変」だった。
「(あ、歩き方が変……!? 嘘だろ、本当にやっちまったのか俺!? 大横綱ばりの寄り切りを実妹にかましちまったのか!?)」
俺が宇宙の真理に到達したような顔で絶望していると、背後から音もなくワスカルが湧き出て、ピアスを過去最高にキラーンと輝かせた。
「おめでとうございます、兄上。これで次世代の純血なる皇子の誕生も秒読み段階ですね。さっそくキープに『初夜・完遂』の結び目を記録しておきます」
「お前はそういう仕事だけはマッハでこなすな!!」
「兄上ェェェ!! 昨晩はそんなに激しいスクワット(夜の営み)をされたのですか! 私も負けていられません、今日からスクワット二万回です!」
「アタワルパはお前、一生筋トレだけしてろ!!」
ピサロが来る前に、俺の貞操と現代人倫理が完全に史実インカばりに滅亡寸前だった。




