第5話 やった!生存!コロンビア!
「あ、熱ううううい! 体がタワンティンスーユの火山のごとく燃えるぅぅぅ!」
鼻腔接種から数日、俺は地獄の真っ只中にいた。
高熱で意識は朦朧、体中にポツポツとデキモノが出現し、前世の記憶と現世の記憶がアンデス山脈の濁流のように脳内を駆け巡る。
部屋の外で家族の嘆きが聞こえる
「ニナン兄様! 死なないで、死んだらクシリマイは誰の嫁になればいいのですかぁ!」
「兄上、耐えてください! 筋肉が、兄上の筋肉が泣いています!」
「むうっ……かくなる上は……アタワルパ!クシリマイ!我らも………」
「……はっ!?」
数日間の生死の境を彷徨うビルカバンバ闘争な悪夢から、俺はガバッと跳ね起きた。シーツは汗でびしょ濡れ。だが、体は驚くほど軽い。デキモノも綺麗にカサブタになって剥がれ落ちていく。
「い、生きてる……? 息してるぞ俺! っっっしゃあああ!! ナレ死回避成功おおおおう!!」
ベッドの上で古のネットミーム、コロンビアガッツポーズを決める俺に、部屋の隅からワスカルがいつもの倍以上の輝きでピアスをキラーンとさせて近づいてきた。
「お見事です、兄上。見事に『神の病』を克服なされました。これで我が国は救われます。……実は我々も既に……」
差し出されたのは、色とりどりのキープ(紐)の束ではなく、ストロー状の葦の筒だった。
「ん? なんだこれ」
「いえ、兄上が吸った後、私たちも『兄上と同じになりたい!』と、躊躇なくそのカサカサを鼻から吸いまして。、無事に全員生還いたしました」
「……は?」
見れば、アタワルパが「兄上の苦しむ姿を見て、筋肉の連動性を高めるイメージトレーニングをしておいたので、熱など一日で下がりました!」と筋肉をモリモリさせている。
さらにクシリマイも「兄様と病気までお揃いなんて運命ですよねっ! ほら、デキモノが消えてさらにツヤツヤになったクシリマイの褐色美肌、触って確かめてください!」と、ワンティンスーユならぬ、たゆんたゆんするはち切れんばかりの巨乳を押し付けてくる。
「お前ら……無謀すぎぃぃぃぃ!!」
俺は腰を抜かした。数パーセントの確率でガチ死亡するデス・ルーレットだぞ!? 万が一全滅してたら、インカ帝国がバルサン食らったGKBLみたいに滅んでるところだったわ!
だが、全員に抗体ができたのは大収穫だ。俺はすぐに次なる国家プロジェクトを発動した。
「よし! この天然痘から生還した者たちには、神に『選ばれた者』を意味する【ウラコ】の称号を与える! そして国の予算から十分な報酬を出す!」
「ウラコ、ですか。具体的にはどのような待遇に?」
ワスカルが素早くメモ(キープ)の準備をする。
「ウラコになった奴隷は平民扱いにランクアップ! 平民はエリート戦士扱いに大出世だ! この特権と引き換えに、ウラコたちには白衣を着せて、北方の感染地帯の『隔離』と、この『人痘接種』の実務に当たらせる!」
免疫持ちの無敵集団による、古代版・医療従事者ネットワークの構築である。
「なるほど! 生還すれば身分が上がるとなれば、民はこぞって鼻からカサカサを吸いたがるでしょう! 兄上、これはもはや宗教的熱狂を生むレベルの神政策です!」
ワスカルのピアスが今日一番のキラーンを記録した。
「よーし、これで天然痘のパンデミックは防げる! 次は……いよいよ迫り来るピサロの鉄砲玉どもをどうハメるかだな!」
ナレ死を回避し、チート弟妹たちを従えた俺の「インカ帝国・逆転生存戦略」が、いよいよ本格的に加速し始め




