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メシカ連合評議長 クアウテモック2世

テノチティトランの旧宮殿の大広間。

インカの焼玉重機が地響きを立てて湖を蘇らせていく中、その室内ではメキシコの歴史を決定づける政治の「再舗装」が行われていた。

現場指揮官マンク・ユパンキ(のほほんモード)は、胃薬を握りしめた行政官サアベドラの首根っこを掴むような勢いで、総督府の書類に次々とサインをさせていた。その内容は、スペインの特権を事実上全廃し、現地人勢力に完全な自治権を認めるというものだ。

こうして誕生したのが、各地のメシカ豪族や先住民の代表からなる『メシカ連合評議会』である。

そして、その記念すべき初代評議長として指名されたのは――インカの純白のラマ車に乗り、人道支援のパンを配って民衆の心を鷲掴みにした幼き皇子、クアウテモックⅡ世であった。

「……評議長、か」

クスコの執務室で、ホットライン(イリャパ・キプ)を通じてその報告書を受け取ったニナンは、可笑しそうに、しかし感心したように呟いた。

「面白いな。ワスカル、現地でのクアウテモックⅡ世の『呼ばれ方』はどうなっている?」

ワスカルは眼鏡の位置を直し、手元の暗号キープを解読しながら淡々と答えた。

「はい、陛下。名目上は評議会の『連合評議会長』という役職名ですが……現地の豪族や民衆たちは、彼を公然と『陛下マヘスタ』、あるいは『ウエイ・トラトアニ(偉大なる演説者=メシカ皇帝)』と呼んで、ひれ伏しているそうです。スペインの総督府は、それを止める力も、口を挟む権利もありません」

ニナンは背もたれに深く寄りかかり、天井を見上げて笑った。

「ぶははは! まるで初期のローマ皇帝じゃないか! アウグストゥスが『私は王ではない、共和政の第一の市民プリンケプスに過ぎない』と言い張りながら、実質的には全権を握る絶対君主として君臨した、あの手法そのままだ。メシカの伝統的な共和制の形を擬装しつつ、中身は完全に皇室の支配……。ワスカル、お前の仕込みか?」

ワスカルは冷徹な微笑を浮かべた。

「滅相もない。私はただ、現地の豪族たちに『インカの鉄管と肥料が欲しければ、誰もが納得する正統な血統のリーダーをトップに据えよ』と、ごく自然な見識を流したまでに過ぎません。彼らにとって、クアウテモックⅡ世陛下を担ぎ上げることは、インカの経済圏という名の『最強の盾』を手に入れることと同義ですから」

その時、通信機の向こうから、テノチティトランの熱気溢れる音声が響いてきた。

『クアウテモックⅡ世陛下、万歳! メシカの真の王、万歳!』

現地の豪族たちは、インカの圧倒的な技術力(と軍事力)を目の当たりにし、もはやスペインに義理立てする気など微塵もなかった。彼らは競って幼い皇子に忠誠を誓い、その背後にいるタワンティンスユという巨大な重力に自ら飛び込んでいく。

『兄上、クアウテモックです』

通信機のキーに向かって、クアウテモックⅡ世がイリャパ・キープを叩く。

『私はみんなから『陛下』とよばれています。評議長と言い張っていますが、皆『陛下』と呼んで頭を下げてきます』

クスコの側でインカ・モールスのイヤホンを聞くアティク・アマルが、誇らしげに胸を張った。

「さすがは僕の弟だ! 『メシカはもう君の国だね。離れていても、僕たちの皇室ホットラインがあれば、いつでも二人の国を繋ぐことができるぞ』っと。」

『はい、兄上』

少年たちの美しい兄弟愛の裏で、メシカの大地は「評議会」という名の精巧なシステムによって、完璧に植民地支配から脱却しタワンティンスユ経済圏への統合を果たしつつあった。

「ローマ皇帝、か。スペイン人が築いた恐怖政治の帝国を、内側から『市民の支持』という名の合法的な手段で乗っ取るとはな。……パナマ総督が知ったら、また泡を吹いて倒れるぞ、これは」

ニナンは、窓の外で響くクスコの活気を感じながら、楽しげに笑った。



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