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戦(?)後の処理と湖上の都の復活

テノチティトランの総督府、その豪華な執務室は今や冷たい緊張感に満ちていた。

グスマンが電気の力により檻に繋がれた後、マンク・ユパンキは、残された行政官サアベドラの前に座っていた。

マンク・ユパンキの三白眼は、まるで獲物の骨まで見通すかのように、サアベドラの魂を刺し貫いていた。あの「ビルカバンバ闘争モード」の冷徹さが、部屋の温度を数度下げているかのようだった。

「さて、サアベドラ殿」

ユパンキの声は、淡々としつつも、逃げ場のない圧力を孕んでいた。

「インカの皇子、クアウテモックⅡ世殿下を害そうとした、この件。我々タワンティンスユとして、不問にする訳にはいかぬぞ?」

サアベドラは冷や汗を拭うこともできず、ただ小刻みに震えていた。先ほどグスマンが床で痙攣していた光景が、まぶたの裏に焼き付いている。

「……ま、全くもってその通りでございます。グスマン総督の所業は……狂気の沙汰としか……」

「狂気だろうが正気だろうが、関係ない」

ユパンキは机の上に、インカ独自のモールス信号が刻まれた金属板を叩きつけた。

「当事者であるグスマンは、我が帝国の法に基づき、しかるべき処罰を行う。そして……それだけでは済まされぬ」

ユパンキは身を乗り出し、サアベドラの顔を覗き込んだ。

「スペイン本国による、正式な謝罪。それと……この度の『訪問』を妨害したことによる精神的・物理的損害に対する、相応の国家的賠償を要求する」

「賠償……で、ございますか?」

「ああ。これまでの植民地支配によるインカの通商権の阻害、不当な関税、そして今回の暗殺未遂……これらを換算すれば、メキシコ以北の金銀鉱山の採掘権と、現在の総督府が保有する全ての港湾管理権を譲渡することで、ようやく帳尻が合うだろう」

サアベドラは絶句した。それは謝罪という名の実質的な「領土割譲」と「完全な経済隷属」への勧告だった。

「……そ、それは……スペイン王室が認めればの話ですが……」

「認めさせるしかないだろう?」

ユパンキは背後に控えるアンタチャを一瞥した。彼女は電撃槍に手をかけ、チリチリと微かな電流の音を立てる。それは科学チートという圧倒的アドバンテージを象徴する音だ。その音を聞いた瞬間、サアベドラの抗う意志は完全に霧散した。

「……このまま拒否を続ければ、我が軍は『平和維持』の名の下に、カリブ海、さらには大西洋全域を管理下に置くことになる。……そうなれば、本国の国体さえも危うくなるぞ?それでも構わないか?」

ユパンキの三白眼が、獲物の絶望を確かめるように細められる。

「さあ、サアベドラ。お前は賢い男だ。どちらがスペインにとって『被害が少ない』選択か、理解できるはずだ。……ペンはある。スペイン王室への親書に、署名を添えるがいい」

サアベドラは震える手で羽根ペンを取った。目の前に広げられた紙には、タワンティンスユの要求事項が冷徹なまでの正確さで記されていた。

「……これが……歴史の潮目か……」

彼は、インカという名の巨大な潮流が、スペインという国家の骨組みを根底から溶かしていくのを、ただ静かに受け入れるしかなかった。窓の外では、皇子のための歓迎パレードが再開され、インカの明るい旗が風に躍っていた。


テノチティトランの旧宮殿のバルコニーから、ソチケツァル皇側妃は変わり果てた湖面を見つめていた。

かつて「湖上の華」と謳われた水上都市であった都、テノテトチランの周囲は、スペイン人による「埋め立てと水抜き」によって、干上がった泥濘と埃っぽい平原に変えられていた。かつての美しい水路は死に絶え、チナンパ草により編まれた浮島庭園は枯れ果てている。

彼女の頬を一筋の涙が伝った。故郷の記憶にある、水と光の輝きが失われていたからだ。

「幼いころは澄んだ湖に素裸で湖に飛び込んで庶民の子供達と共に泳ぎ周り、侍女たちを慌てさせたものだ……それが、こんな小汚い荒地に……」

その時、背後からマンク・ユパンキがひょいと現れた。先ほどまでのビルカバンバモードの鬼気迫る表情はどこへやら、いつもの少し気の抜けた、のほほんとした顔に戻っている。

「いやぁ~、ソチケツァル殿下~。お嘆きになることはありませんよ~」

マンクは手すりに寄りかかり、眼下に並ぶ、あの無骨な鉄の怪物たち――100台の焼玉重機を指さした。

「あれを見てくださ~い。あの者たちこそ~、我が帝国の技師団が魔改造を施し~た『高効率掘削・導水・整形システム』なんですよ~」

ソチケツァルは涙を拭い、不思議そうな顔で彼を見た。

「……再注水工事? この埋め立てられた大地を、また湖にするというのか?」

「ええ、そうですよ~。スペインが十年かけて泥を被せて台無しにしたなら~、我々はその何倍もの速度で泥をさらい~、周辺の河川から水を引いて、再び湖を完成させますとも~」

マンクは重機隊のリーダーに手を振ると、焼玉機関の唸りが高まり重機隊が力強く動き出す。

「見ててくださ~い。今日の午後には、中央広場から最初の水路に清流が流れますよ~。……皇帝ニナン様直々の~『メシカ復興・水辺の景観再生プロジェクト』の一環です。陛下が仰っていましたよ~。『歴史は書き換え、美しい景色は蘇らせる』ってね~」

轟音と共に、100台の重機が一斉に駆動し始めた。

地響きが湖底を震わせ、泥が取り除かれ、水の道が再び刻まれていく。スペイン人が何年もかけて「支配の印」として埋めた土壁は、インカの文明の暴力的なまでの効率性の前には、ただの脆い障害物に過ぎなかった。

ソチケツァルは、その光景に目を見開いた。

泥を浚渫しゅんせつする機械の排気音が、まるで古の都市が再び息を吹き返す鼓動のように響いている。かつてこの都を支配したスペインの工兵たちが、どれほどの手間をかけて排水したのかは知らないが、インカの重機は、それを僅か数日で「過去の徒労」に変えていくことだろう。

「……戻るのか……。あの美しい水面が」

「戻るどころか~、以前より遥かに便利で~、衛生的で~、美しい湖になりますよ~。……水上バスの航路も設定しますから~、これからは宮殿から市場まで~、優雅な船旅を楽しめますよ~」

マンクはのほほんとした笑みを浮かべたまま、掘り返された土の向こう側に、遠くの山々から流れ込む清冽な水の輝きを見ていた。

夕暮れ時、テノチティトランの乾いた大地の隙間から、最初の水が溢れ出した。

その水面は、夕日を反射してインカの黄金のように輝いている。かつてのメシカの滅びの記憶は、インカの「再注水」という圧倒的な技術力の前に、静かに水底へと沈められていった。

「ソチケツァル殿下~、湖が戻ったら釣り堀など作っておきましょうか~? 新鮮な魚を釣れるように手配しておきますよ~」

マンクの能天気な提案に、ソチケツァルは今度こそ、悲しみではなく、確かな希望を込めた涙を浮かべた。メシカの支配権は、もはや武力ではなく、都市そのものを蘇らせる力を持った者に移り変わっていた。


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