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表敬訪問か大侵攻か

舞台はパナマ、総督府の応接室。最早インカ御用達しの大商人状態のピサロは、パナマ総督を前に悠然とリマでのニナン・クヨチ、ワスカル、アタワルパのやり取りを語る

「ワスカル様が『そろそろクアウテモック2世に、ご自信のルーツたるメシカのテノテトチランのメキシコシティを訪問させてあげるべきでしょう』と、提案されましてな?」

「ちょっと待て!訪問!?そんなことしたらもうヌエバエスパーニャの権威ライフはゼロじゃぞ!」

ピサロは構わず続ける

「ワスカル殿下の提案に、アタワルパ殿下が即座に反応しましたな。殿下の脳内では、既に「メシカ訪問」=「帝国の威信を見せつける軍事パレード」という図式が完成していようるで。」

「ようで、じゃなくてその物じゃろうが!!」

「それでアタワルパ殿下は『良いな、ワスカル兄上! ちょうどグアヤキルで造船していた新型の装甲艦が十隻ほど完成する!。護衛の儀仗兵は……そうだな、10万ほどいれば十分だろう! 空からの観測飛行船部隊も同行させ、テノテトチランの空をインカの翼で埋め尽くそう!』と言われまして」

総督は思わず手にしたコーヒーを吹き出しそうになった。

「やりすぎじゃろうがぁぁぁぁぁ!!アタワルパの奴……殿下はヌ、エバエスパーニャ全土を焦土にする気かぁぁぁぁぁ!?」

「いやいや、そこは流石にニナン陛下が止めまして『訪問であって進駐ではない。儀仗兵は500ぐらいにしておけ』と」

「そ、そうじゃ!まったく10万など何を考えておるのだ!」

「しかしワスカル殿下も割と乗り気だったらしく『陛下、アタワルパ将軍の言う通りです。10万の兵がいれば、スペイン総督府の守備隊も、インカの『平和維持活動』に対して一切の干渉ができなくなります。これはあくまで、皇子の安全を確保するための最小限の護衛……そう、公式文書には『大規模な文化交流使節団』とでも記せばよろしい』と」

「文化交流で10万の軍隊を連れて行く国がどこにあるんじゃぁぁぁぁ!!。スペインのグスマン総督が卒倒するわ!!いや、卒倒どころか最悪、ヌエバエスパーニャ軍がパニックを起こして『開戦の合図』だと勘違いして砲火を開くぞ!!」

「その件にはニナン陛下も言及されました」

「そ、その通りじゃろ!で、周りは納得したのか!?」

「ワスカル殿下の答えは『なるほど。スペインが先に手を出せば、こちらは『皇子への不敬と国際法違反』を理由に、メシカ(アステカ)全土を即座に解放(という名の強制編入)できますね。理にかなっています!』と」

「鬼かぁぁぁぁ!悪魔かぁぁぁぁ!?」

「まあまあ、結局は『あくまで皇子殿下の表敬訪問だ。儀仗兵は精々500名、華やかなパレード用の衣装を着た連中だけ』ということになりましたので」

「そうか!そうか!」

「只…」

ホッとしかけた総督の顔色が変わる

「『商会の貨物船に紛れ込ませる形で、技術支援チームと無線技士を数名同行させろ。……10万の軍隊を見せつけるより、最新の『インカ製農具』と『浄水設備』を無償で配るほうが、よほど効果的にメシカの民をインカ側に引き込める』と」

「結局同じではないかぁ!!!皇帝陛下本人もそっち側かぁ!」

「そうしましたら、アタワルパ殿下が『よし、ならば野砲を100門ほど付けよう。我が甥の権威も高まろう!』

と」

「……野砲100門?!甥の権威を高めるのに、なんでメキシコを火の海にする前提の武装が必要なんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!。野砲を連れて母の実家訪問する皇子がどこにいる!」

「ご安心を、そこは陛下が止めましたから」

「本当に止めれたんじゃろうな?!」

「ええ。ワスカル殿下も「野砲は重すぎます。機動性を削ぎ、敵に口実を与える。それは浅慮というものです』と」

「おお!!ワスカル……殿下は分かっておられる!」

「……変わりに最新鋭の焼玉重機100台が派遣されることになりまして。」

「は?」

「ワスカル殿下曰く『道さえあれば、いかなる山岳地帯も湿地も克服可能。物資も、援軍も、野砲だって後からいくらでも運べます。インカの技術でメキシコの地形そのものを書き換えれば、スペインの防衛線など無意味。これぞ、真の意味での『平和的訪問』です』と」

「はあああああ?!!」

「アタワルパ様も『おお!なるほど!冴えてるなワスカル兄上! 道さえ造れば、人道支援隊(完全武装)をいつでも送り込める……! 完璧だ!』と拍手喝采でした。」

「違ぁーーう!!ぜんぜん平和的でないわぁぁぁぁぁ!!橋頭堡状態じゃろうがぁぁぁぁ!!」

ピサロは面白そうに笑いながら話を続ける。

「……、重機は『友好の証としての地質調査兼、インフラ整備団』という名目にするそうです。皇子が最初にクワを入れれば、それはただの平和的な植樹式的なアレですから問題ありますまい」

「問題ありまくりだわ!」

「メシカの民も喜ぶでしょうな。スペインの搾取で荒れ果てた道が、インカの技術で舗装されれば。民衆は『どちらの統治がより豊かか』を、舗装された道の上を歩きながら実感するはずです」

「里帰りとは……表敬訪問とは……」

総督は執務机の上に突っ伏して頭を抱えた。


数日後、メキシコの海岸線には、平和の使者(皇子)を乗せた艦隊の影と共に、地面を地響きと共に掘り返しながら進む100台の鉄の怪物の姿があった。ヌエバエスパーニャ軍がそれを見て、開戦よりも先に「降伏」の二文字を検討し始めたのは、言うまでもない。


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