ep40 石油精製プラント?いえ只の大きい釜です
ニナンは木炭をチョーク替わりに、油田から採取された黒い原油をどう使い切るかのフローチャートを書き始める。
「よし、工程はこうだ。まず巨大な金属タンクで煮る。そこから蒸留塔を通して揮発分を粗製ガソリン、ナフサとして抽出、残った液は成分ごとに分離させるぞ」
「取り敢えず煮る、ですか。……なんともインカ式というか、豪快でやすね」
ソリアが呆れ半分に呟く。
ニナンは満足げに頷いた。
「そうだ。上澄みの灯油、軽油、液体重油は内燃機関へ。そしてドロドロの残渣(アスファルト分)は、カパックニャン(インカ道)の舗装と、外洋航海用の船の防水塗装に回す。スペインの連中が雨の度に道の泥濘に足を取られている間に、我々は油で固めた高速(?)道路を突っ走るんだよ」
クスコ・帝国中央宮廷(作戦室)
――キラーン☆(「資源完全活用」による経済的独占)
「ふっ……兄上。資源の残渣すらも道路舗装と造船に回す。これにより、インカの物流ネットワークは『低コスト・高耐久・超高速』へと進化します。スペインが木を切って薪にしている間に、我らは大地そのものを油でコーティングし、掌中に収める……。究極の経済的ハメ殺しです(キラーン」
ワスカルが眼鏡を反射させ、キープに「帝国全土・石油コンビナート化計画およびカパックニャン機関車両道路網の設計図」を爆速で刻み込んでいく。
「ハーッハッハッハ!! 兄上! 素晴らしいですな! その残渣を煮詰めて、さらに硬化させれば、敵の城門を塞ぐ『粘着地獄・アスファルトトラップ』の完成ですぞォォォ!! 動きが取れなくなったスペイン兵に、その上から熱々の重油をぶっかけ……おっと、これはさすがに兄上に叱られますな!」
「アタワルパ! 叱る以前の問題だ! ……だが、アスファルト舗装されたカパックニャンを走る動力車、か。これぞまさに、インカの黄金時代を支える大動脈になるな」
ニナンは完成した精製プロセスの図面を眺め、これでインカの「絶対生存ルート」がさらに強固なものになったことを確信した。
「(……歴史の教科書が『スペインによる征服』を記録するはずだったページを、石油と重機の黒いインクで塗り潰してやる)」
帝国技術総本部(通称ニナン工房)の片隅で、コリ・ルラクが完成したばかりの試作機を見つめている。それは、石油の精製過程で得られた中間留分を燃料とする「初期型灯油ストーブ」だった。
「陛下、灯油って臭いますね。室外まで煙を逃す煙突が必須みたいですよ?」
ニナンは試作機の炎を確認する。確かに、燃焼後の排気には硫黄分特有の鼻を突く刺激臭が混ざっている。現代のような脱硫技術が無いので硫黄臭がまともに立ち上るのだ。
「だな。インカの宮廷が異臭騒ぎじゃあ笑えない。……よし、このストーブには自然排気式の煙突を標準装備にしよう。壁を貫通させて、屋外へ排出する構造だ。安全第一、これが我が帝国の絶対ルールだ」
クスコ・帝国中央宮廷(作戦室)
――キラーン☆(「暖房と換気」による健康支配)
「ふっ……兄上。煙突の標準装備、これは単なる換気ではありません。帝国全土に『煙突のある家』を普及させることで、各家庭の建築基準を強制的にインカ標準へと統一します。これに従わない古い建築様式の家は『不健康で危険』というレッテルを貼って取り壊し、我々の最新インフラ住宅へと誘導する。生活様式からのハメ殺しです(キラーン」
ワスカルが眼鏡を反射させ、キープに「帝国全土・高効率灯油暖房システムおよび強制換気建築法」を爆速で刻み込んでいく。
「ハーッハッハッハ!! 兄上! 素晴らしいですな! その煙突を複数束ねて、敵陣の真下まで地中を掘り進み、そこから煙突を出して『煙幕と刺激臭』を送り込めば、敵の兵士たちは咳き込んで戦意喪失間違いなしですぞォォォ!!」
「アタワルパ! 煙突を毒ガス兵器にするな!どんな大惨事が起きるか分からん!」
ニナンは遠い目をして、煙突から真っ直ぐに昇る白い煙を想像した。
「(……インカの冬が、薪を燃やす煙ではなく、石油の安定した熱で暖まる時代。……これだけで、帝国は一気に近代化する)」
アンタチャはジト目で外を見る「へいか。……えんとつ増えたら、まちのけしき、かわる。タワンティンスユの新めいぶつ……?」
煙突を突き立て、冬の寒さを石油の炎で制圧するタワンティンスーユ帝国。
ニナン新皇帝インカの絶対生存ルートは、今日も石油ストーブの燃焼音を響かせながら、誰も追いつけない黄金の未来へ向かって大爆走を続けるのだった!




