表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/58

ep37 スチームパンク・チャレンジャーズ

「帝国技術総本部(通称ニナン工房)」の奥深く。中央に鎮座する試作蒸気機関の前に、ニナンと若き技術者コリ・ルラクが立っていた。

釜からはゴウゴウと凄まじい熱気が放たれ、圧力計の針は危険域を示す赤い目盛りに近づきつつある。

コリ・ルラクは自信満々に胸を張る。

「陛下、あまり慎重になりすぎでは? 2系統の安全弁で十分、圧力は管理できております!」

ニナンは険しい顔で即座に否定した。

「甘い! 3系統だ、絶対に3系統以上必要だ!」

「なぜそこまで……?」

「いいか、コリ・ルラク。3気圧って数字、甘く見るなよ。これが万が一、安全弁が一つ詰まって、もう一つが故障した瞬間に限界を超えたら……この工房どころか、村の一角が廃墟になるぞ! 我々の目指す『絶対生存』に、運任せの安全装置なんてあってたまるか!」

ニナンは設計図の安全弁の箇所に、力強く「×3」と書き加えた。

クスコ・帝国中央宮廷(作戦室)

「ふっ……兄上。蒸気機関の爆発は、単なる事故ではなく『帝国の技術的未熟さ』を世界に露呈する失態です。三重の保険は、技術者の誠実さを示すと同時に、他国に『インカの機械は絶対に壊れない(=悪魔の技術)』という神話を植え付ける最高のハメ殺しです(キラーン)」

ワスカルが眼鏡を反射させ、キープに「蒸気機関・多重安全規定の標準化と、保守作業員の無人化自動メンテナンスプログラム」を爆速で刻み込んでいく。

「ハーッハッハッハ!! 兄上! 素晴らしいですな! 安全弁を3系統といわず、各所に10系統くらい装備させて、いざという時はその蒸気圧を全て前方に噴射して『蒸気爆発ショットガン』として敵を薙ぎ払う武装に転用しましょうぞォォォ!!」

「アタワルパ! 爆発を武器にするなと言っている! ……だが、コリ・ルラクが食い下がるのも無理はない。彼らにとって、蒸気機関は未知の魔術に近いのだからな」

ニナンは設計図を見つめ、技術者たちの情熱を冷やさぬよう、しかし確実に「爆発しない未来」を構築していく。

「(……俺が知っているのは未来の技術だけじゃない。歴史が証明する『失敗の代償』だ。それを回避することこそが、この帝国を救う唯一の道なんだ)」



半地下の避難小屋、分厚い鉄板越しに潜望鏡を覗き込む一行の空気は、張り詰めた糸のように鋭い。

「……で、こんなシェルターの中から潜望鏡で観察しながら、ロープで操作して動作実験でやすか? 陛下、これ、動力装置の実験というより『新兵器の破壊力テスト』の準備でやすか?」

ソリアの呆れた声が響く。ニナンは潜望鏡から目を離さず、涼しい顔で答える。

「いや、これくらいは要る。相手は未知の圧力だぞ、良いか?3気圧ってことは掌一枚分の広さに何百キログラムもの力が加わるんだ。」

「更に今回は『破談』、いや『破断試験』ですからね。どこまで耐えられるか、限界まで回すのが目的ですので」

コリ・ルラクがメモ帳を握りしめながら、嬉々として専門用語を口にする。その背後で、何故か居るクシリマイが顔を青ざめさせていた。

「『破談」なにか今、凄く不穏な単語が聞こえたような……? 破断? 破局?」

「何故居る、クシリマイ。宮殿にいろと言ったはずだ」

ニナンの冷ややかな問いかけに答える間もなく、コリ・ルラクの耳がピクリと反応した。

「――っ! 来ます! 破断前兆音クリティカル・ノイズです!」

ドォォォォォォォォン!!

地響きと共に工房が震え、潜望鏡越しにも明らかな「火柱」が視界を埋め尽くした。シェルターの鉄壁が熱を帯び、耳をつんざくような轟音が鳴り止む。ようやく静寂が訪れた後、ニナンは満足げにうなずき、手元のデータを記録した。

「よーし、これで限界は分かった。……よし、更に安全策と設計を詰めよう。次は破断係数に余裕を持たせて、圧力弁を5系統に増やすぞ」

クシリマイはニナンの服の裾を握りしめ呟く「この世の終わりかと思いましたわ……蒸気って怖いんですのね……『安全第一』、大切な概念ですわ。ヨシッ!ですわね」


クスコ・帝国中央宮廷(作戦室)

――キラーン☆

「ふっ……兄上。今回の爆発は失敗ではありません。データを取るための『能動的な破壊』です。爆発の瞬間に計測されたデータこそ、未知の高圧力を保証する最強の証。最高のハメ殺しです(キラーン」

ワスカルが眼鏡を反射させ、キープに「蒸気機関・破壊限界データ解析および安全率150%向上計画」を爆速で刻み込んでいく。

「ハーッハッハッハ!! 兄上! 素晴らしいですな! この爆発で得た『衝撃波』を逆に利用して、敵の艦隊を湖面ごと吹き飛ばす『蒸気熱砲』のヒントにしましょうぞォォォ!!」

「アタワルパ! また機関爆発を武器にするな! ……だが、コリ・ルラクの言う通り、限界を知らなければ本当の『安全』は語れない。クシリマイ、お前も怯えるな。この爆発の回数だけ、インカの技術は危険から遠ざかっているのだから」

ニナンは煤だらけの顔で、次なる設計図に新しい数値を書き込んでいく。

(……失敗を恐れて動かないことこそ、一番の滅亡ルート。俺は何度だって爆破して、何度だって完成させる)

ニナンの異常なまでの探求心が、インカを圧倒的なまでの技術大国へと押し上げていることを静かに記録する。

爆発を糧に強度を上げ、失敗をデータとして積み重ねるタワンティンスーユ帝国。

ニナン新皇帝インカの絶対生存ルートは、今日も工房から大爆発を響かせながら、誰も追いつけない黄金の未来へ向かって大爆走を続けるのだった!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ