第31話 発動機マニア、コリ・ルラク参戦!
「で、電信の次は鉄道と蒸気機関かよ……!」
アンタチャが目を血走らせてコイルを巻く工房の隅で、俺は新たな男の出現に頭を抱えていた。
彼の名はコリ・ルラク。アンタチャの叔父であり、タワンティンスユの超一流の青銅器職人だ。
船舶マニアのソリア親方、電気マニアのアンタチャに続き、この男は……発動機に魂を売った、生粋の『メカマニア』だった。
「陛下ァ! 頼みます、この『ピストン』という鉄の塊が、蒸気の力でシュポシュポ上下す構造、もっと詳しく! 鉄の筒の気密性を上げるためのパッキン、青銅の鋳造なら俺の右腕に敵う奴いません! これが動けば、鉄のリャマ(機関車両)が山のような物資を載せてインカ道を爆走するんですっよね!?」
コリ親方は、油と煤で汚れた顔をクシャクシャにして俺にしがみついていた。アンタチャの叔父だけあって、好きなものの話になると周りが見えなくなる「研究一直線野郎」の血筋だ。何日も徹夜しているらしく、目は完全にバキッている。
「コリ、説明するからまず座れ! あと三日も寝てないだろお前! 倒れるぞ!」
「寝てられるかぁ! 蒸気圧の計算が、シリンダーの厚みが、バルブのタイミングが俺を呼んでるんだよぉぉ!!」
「――そこまでよ、あなた」
工房の重い木扉がガラガラと開き、一人の大柄な褐色熟女が、山盛りのチチャ(芋酒)とトウモロコシの肉詰めを載せた大皿を抱えて入ってきた。
彼女の名はルミ・ルラウィ。コリ親方の愛妻であり、このブレーキの壊れた研究バカを唯一制御できる、文字通りの「守護神」だ。
「あら陛下、お邪魔しております。ほらコリ、ご飯を持ってきたわよ。まずはこれを食べて、それから――」
「おぉルミ! すまんが後にしてくれ! 今、陛下の脳内から『外燃機関』の神託をお聞きしているところなんだ!」
コリ親方が飯を無視して図面に齧りついた瞬間、ルミさんの目がスッと据わった。
彼女は皿を近くの作業台にドサリと置くと、一歩、また一歩と無言でコリの背後に歩み寄る。その背中には、現役の戦士顔負けの凄まじいオーラが立ち上っていた。
「……コリ。あなた、最後に寝たのはいつかしら?」
「お、一昨日……いや、その前のクスコの夜明の鐘が鳴った時か……? 痛っ!? 待てルミ、腕を極めるな! 肩が、肩が外れるゥー!!」
ドガァァン!!
「限界ね。連れ帰って寝かせます」
「あ、あがぁぁー! 待てぇ! 陛下、蒸気加圧の、バルブのクリアランス(隙間)がぁぁーーー!!」
ルミさんは、抵抗するコリ親方の両腕を鮮やかな関節技(アンデスコンドル脇固め)で極めると、そのまま米俵のように軽々と肩に担ぎ上げた。さすがは『岩の織物』の名を持つ女、圧倒的な力と技である!何でもタワンティンスユ伝統の柔術レスリングっぽい伝統組技大会のタイトル保持者らしい。
「陛下、うちのバカがご迷惑をおかけしました。。……さぁ、お家に帰って『強制レスト』の時間よ、あなた!」
「へ、陛下ぁぁーーー!!(フェードアウト)」
嵐のようにコリ親方を引きずり出していったルミさんを見送り、俺は呆然と立ち尽くした。
……いいな。あそこは嫁が旦那を『力ずくで休ませてくれる』、健全で最高に羨ましい夫婦の形だ。
「ハッ……! ということは、お兄様の限界に対しても、私達『嫁(人間発電所)』が力ずくでベッドへ連れ去り、徹底的な急速充電を施すのが正しい運用ということですね?とっても参考になりますわ!」
クシリマイが、はち切れんばかりの褐色巨乳をボインボインと激しく上下させながら、縄の結び目を確認し始めた。
「兄様、わたくしたちも、兄様が『もう腰のライフがゼロよ!』と仰ったその瞬間からが本番! 力ずくで後宮の最深部へと引きずり込み、朝まで一歩も外に出さない『強制・愛の終身刑(メガ大車輪・無限回廊)』を敢行いたしますわよ!」
「陛下、被験者の拒否権を剥奪した臨床実験……医学の発展において極めて効率的です」
キリヤが聴診器を首にかけ、しなやかな褐色スレンダーボディで俺の退路を完璧に塞いできた。
「コリ様の奥様を見習い、陛下のバイタルが『ショック状態(極限の快楽)』に陥るまで、ベッドに完全固定した状態で、特製銅線からの愛のパルスを24時間連続投与(過充電モード)させていただきますね」
「ボクも陛下の自由を奪う、愛のチェーンになっちゃいますぅ♡」
フェリちゃんまで手錠(青銅製)をチャキチャキ鳴らしながら、潤んだ瞳でウインクしている。
「待って!! コリ親方のところは『旦那を休ませるため』の力ずくだろ!! なんでお前たちの力ずくは『俺の腰の息の根を完全に止めるため』の監禁プレイになってるんだよ!! 嫁たちの愛の磁界が強すぎて、俺の回路が物理的に粉砕(ナレ死)されるーーー!! 誰か俺をルミさんみたいに優しく(?)連れ戻して寝かせてくれーーー!!」
船舶のソリア、電気のアンタチャ、そして車両・発動機のコリ。
超一級のチート職人マニアたちが揃い、インカ帝国の産業革命は留まるところを知らないが、今夜もまた、過充電を遥かに超えた熱量で物理的に拉致・大突撃してくる嫁たちの「人間発電所」の中で、骨の髄まで放電(搾取)させられる運命のニナン皇帝なのであった。




