第3話 回れ!大車輪!
「これぞインカの文明ハック、名付けて『ニナン・カート』だ!」
俺が宮殿の中庭でお披露目したのは、木の板に軸の通った円盤をニつつけた、前世でいうところのただの「荷車」である。
だが、これを見たアタワルパとワスカルの反応は凄まじかった。
「な、何ですかこれは……! リャマの背中に積めない重さのジャガイモが、たった一人の兵卒でスイスイ運べるだと……!?」
「兄上、これは物流の革命です。運搬効率が従来の数倍に跳ね上がります……!」
ワスカルが眼鏡風ピアスをこれでもかと激しくキラーンと輝かせ、アタワルパは感動のあまり荷車を持ち上げてスクワットを始めている。筋肉で理解するな。
「フッ、驚くのはまだ早いぞ。お前ら、アンデスの急流を見ろ。ただ流すだけじゃもったいないだろ?」
俺は続けて、川沿いに建造させた巨大な木製の「水車」へと二人を案内した。ゴーゴーと音を立てて回る水車が、連動した巨大な石臼をガリガリと回転させ、トウモロコシを自動で粉にしていく。
「なっ、神の恵みたる川の力が、そのまま粉挽きに……!? 兄上はもしや、太陽神インティの申し子なのでは!?」
アタワルパがその場で礼拝ポーズ。いや、ただの位置エネルギーの利用だよ。
さらに俺の改革は止まらない。インカの難所といえば、深い谷底だ。そこへ俺は、伝統的なロープ輸送システム『オロヤ(Orroya)』に、金属製の「滑車」を組み込んだ。
これまでは谷の両側にスタンバイしたマッチョメンが力を合わせて人力でウンショウンショと手繰り寄せていたロープが、滑車を通して滑らせると、女性の力でもスルスルと物資を満載したカゴが谷を渡っていく。
「素晴らしい……! 兄上の叡智があれば、我が国のインフラは神の領域に達します!」
またしてもワスカルのピアスがキラーン!
文字通り、国中の職人や民から「ニナン様は生き神様だ!」と熱狂的な尊崇を集め、俺のカリスマはカンスト寸前。これでナレ死の未来も確実に書き換わりつつある。……あるのだが。
「さすがはクシリマイの未来の旦那様ですぅ! もう、お兄様すごすぎて、クシリマイのここ(豊満な胸)のドキドキが止まりません!」
背後から、至近距離で破壊力抜群の衝撃が襲いかかった。
振り返ると、汗ばんだ褐色美肌をこれでもかと強調する薄着のクシリマイが、俺の腕を自身の「インカの至宝」こと弩級の巨乳でギュウギュウに挟み込んできている。おまけに、潤んだ瞳で熱い秋波をバチコーンと送ってきた。
「ちょっとクシリマイ、今みんなが見てるから! あと胸押し当てるのやめなさい、お兄ちゃん理性がインカ滅亡しちゃうから!」
「ええ? だって私たちは間も無く結婚して、神聖なる血統を残す運命なんですよ? むしろ早く既成事実を作っちゃいましょうよぉ」
耳元でフゥ、と熱い吐息を吹きかけられ、俺の脳内ピサロが「突撃ィー!」と叫びそうになる。
「兄上、クシリマイの言う通りです。高貴なる血を繋ぐため、今夜あたりいかがですか」
ワスカルが冷静な顔でピアスをキラーンとさせながら、キープ(紐)に『初夜の予定』的な結び目を追加しようとしている。
「ワスカル、お前は謀略派なんだからもうちょっと兄の純潔を謀略で守れよ!!」
「兄上! 夫婦の営みもまた、己の肉体を鍛える素晴らしい訓練です!」
「アタワルパはお前、筋肉ネタで会話に混ざるな!!」
迫り来るスペインの驚異を科学で退けつつ、実妹の超弩級な誘惑(物理)から己の理性を守り抜く。
ナレ死を回避したその先には、別の意味で危ないカオスな日常が待っているのだろう。




