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第2話 歪すぎるだろ!文明発展ツリーが!

「いや待て落ち着け。まずは敵(歴史)を知り、己を知ることからだ」


俺は自室に引きこもり、頭の中の『世界史の記憶』の引き出しを片っ端からひっくり返していた。


インカ帝国の文明レベル。ぶっちゃけ前世のイメージだと「なんかマチュピチュとかすごい石造りの遺跡がある金ピカの国」くらいの認識だったが、現当事者になってよくよく見回してみると……。


「なんだこの両極端な歪すぎる文明スタイルは!!」


まず、建築とインフラに関しては文句なしのハイパーチートだ。


クスコの街の石壁なんて、カミソリの刃一枚通らない超精度で組まれている。おまけにアンデス山脈の崖っぷちに、全長数万キロにおよぶ『インカ道』という大幹線道路を張り巡らせているのだ。チャスキ(飛脚)を走らせれば、ここから数千キロ先への伝令も数日で届く。


「うん、道路網の整備っぷりはそこらの異世界ギルドもびっくりだよな。……だが、最大の問題はここからだ」


俺は机の上の、やたらとカラフルな紐の束を見つめた。


「文字が……文字がねえ!!」


そう、この国にはテキストという概念がない。代わりに『キープ(結縄)』と呼ばれる、紐の結び目で数字を記録するシステムがある。


「ワスカルの奴、この紐を指先でしごきながら『兄上、今年のトウモロコシの収穫量は……』とかドヤ顔で報告してくるけど、パッと見ただの民芸品だからな!? 科学チートしようにも、教科書(紙)も数式(文字)も残せないじゃねえか!」


さらに致命的なのが流通と軍事だ。


「車輪がない。ついでに馬も牛もいない。……詰んでね?」


アンデスが山がちすぎて車輪が発展しなかったのは百歩譲って理解できるが、運搬用の動物がリャマとアルパカしかいない。あいつらは可愛いが、大人が乗ったら潰れる。つまり、全物流と軍隊の移動が「徒歩( manpower )」なのだ。


おまけに金属加工は、金や銀、銅の装飾品は超一級品なのに、武器のメインは青銅か、最悪ただの石。


「対するスペイン(ピサロ一味)は、ガチガチの鉄の甲冑に身を包み、大砲と火縄銃をぶっ放し、馬に乗って時速40キロで突撃してくるんだぞ!?」


石器時代ベース武装の超建築文明 vs 大航海時代のガチ重装騎士。


格闘ゲームなら一瞬で筐体を叩き壊して帰るレベルのクソマッチングである。


「文字なし、鉄なし、馬なし、車輪なし。なのに人口は数百万人超えの大帝国。……なんだこの、一点特化の極振りステータスは。アンバランスすぎて頭痛くなってきた」


さらに言えば、すでに沿岸部では謎の異人(多分ピサロの偵察隊)が持ち込んだと思われる謎の疫病(天然痘)の噂がチラホラ聞こえ始めている。


「普通にやってたら、あと数年で俺がナレ死して、親父が死んで、アタワルパとワスカルが泥沼の内戦始めて、ピサロ兄弟に金銀とインカ令嬢達を横から美味しく食い散らかされるルートまっしぐらじゃん!」


俺はぎゅっと拳を握りしめた。


「よし決めた。こうなったら現代知識の暴力で、この国のテクノロジーを強引に数段階ハックしてやる。文字の導入、スチームパンクとまではいかなくても効率的な運搬、そして何より――対ピサロ用のハッタリ兵器の開発だ!」


そこへ、部屋の扉がバーンと勢いよく開いた。


「ニナン兄様ぁ! 科学のお勉強ですか? クシリマイ、お兄様の遺伝子を未来に残すための『夜の性教育』の予習ならバッチリですよぉ!」


「妹よ、頼むから今は国難の回避に集中させてくれ!!」


俺の、文明を弄び歴史と戦う過酷な日々が、今ここに始まった。

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