第29話 即堕ち娘、アンタチャ
「でんき……でんき、凄い、はつでんき……むせん……。これは、しょうがいの、であい……! 陛下、もっと、おしえて。アンタチャ、もっと、しりたい、いろいろしたい……!」
「あ、知ってる。俺、このパターン何回も見てるわ……」
電気という概念――磁石の周りで銅の線を回すと目に見えない『雷の力』が生み出され、それが線を伝って走り、瓶に貯まり、いずれは遠く離れた場所へ一瞬で言葉を伝える『無線』という技術にまで繋がる。
俺が図解を交えてそう説明した瞬間、それまで死んだ魚のようだったアンタチャのジト目に、バチバチバチッ!と凄まじい青白い火花(電磁誘導っぽい何か)が灯った。
無表情だったはずの頬が興奮で上気し、少し舌足らずな声の熱量が跳ね上がる。彼女は、俺の衣服の裾をちぎれんばかりの力でギュッと掴み、すがりついてきた。ソリア親方にノギスを見せた時と、キリヤに消毒と輸液を教えた時と完全に同じ、チート職人が『世界の真理』に脳髄を焼かれた顔だ!
「いや、概念はいくらでも教えるけど、アンタチャちゃん顔が近い! 鼻息が熱いよ!」
例によって数式や細かい設計図はうろ覚えなので、俺は必死に「磁界を横切る導線が~」とか「電波という目に見えない波が~」と、前世の高校物理の記憶を総動員して概念オンリーの熱弁を振るった。
アンタチャはその一言一言を、一滴も漏らさぬように手元のキープ(ノート)に刻み込んでいる。
「……なるほど。コイル、たくさん、まく。じしゃく、強くする。そうすれば、たくさん、イラパ(雷)が、生まれる。陛下、わたし、やります。寝ないで、銅の線、引きまくって、ギチギチの、はつでんき、つくります……!」
「寝て!? 徹夜の作業は精度が落ちるからシフト制にしようね!?」
「フッ、素晴らしい。ついに職人魂が完全なる電気工学へと昇華したわけですね」
新調した本物の眼鏡をキラーン!と不敵に輝かせ、ワスカルが影から音もなく現れた。
「兄上、電気による通信(無線)の確立は、我が国の広大なインカ道を過去の遺物にする、まさに統治の神です。直ちにアンタチャ殿を『国営電気通信局長』に任命し、クスコ周辺に巨大な実験用マストを建造させましょう(眼鏡キラーン)」
「ガハハ! 兄上! 目に見えん波で遠くの奴と話ができるのか! 筋肉の伝達速度をも超えるチート通信、今すぐ前線に配備だ!」
アタワルパも鉄製の大砲をガシガシと磨きながら、マッハスクワットの風圧で工房のラマ皮紙を吹き飛ばしている。
「まぁ! アンタチャったら、陛下に『生涯の出会い』だなんて……!」
そこへ、クシリマイがはち切れんばかりの褐色巨乳をゆっさゆっさと揺らしながら、嫉妬と興奮が半々になった顔で割り込んできた。
「でも、あの子がそれほど電気に目覚めてしまったのなら、今夜は仕方がありませんわ! 兄様、我が後宮の総力を挙げ、アンタチャのその熱すぎる雷の力をすべて受け止める『夜の大放電・メガボルト』を敢行いたしますわよ!」
「陛下、電気通信の概念……私の医学神殿における『神経伝達物質のパルス(電気信号)』の解明に極めて有意義です」
キリヤが白衣の袖をまくり、しなやかな褐色スレンダーボディを俺の正面から滑り込ませてきた。
「アンタチャ様が作った特製銅線で、陛下の『重要な部位』電流的な愛の刺激を流し、どれほどのバイタル上昇と持続力が見込めるか、朝まで徹底的に臨床実験(過充電モード)をさせていただきますね」
「ボクも陛下のアンテナになって、ビンビンに受信しちゃいます♡」
フェリちゃんまでドレスをたくし上げて謎の電線を手にウインクしている。
「待って!! 身体に直接銅線を配線しないで!! 嫁たちの愛の受信感度が良すぎて、俺の腰のライフゲージが一発でショートしちゃうからーーー!! 誰かこいつらの欲望回路を今すぐ絶縁してくれーーー!!」
無表情な天才侍女アンタチャの職人魂に完璧に電撃を走らせ、インカ帝国を通信・電気大国へと超跳躍させたニナン皇帝。
大陸のインフラ充実は恐ろしい速度で進んでいくが、今夜もまた、過充電寸前の熱量で全方位から大突撃してくる嫁たちの「人間発電所」の中で、骨の髄まで過放電させられる運命なのだった。




