28話 電器と銅線のジト目娘
「そして、焼いた鉛の粉を塗った鉛の板を1枚、反対に鉛の板を1枚、この特製ガラス容器の中の希硫酸に漬ける。……これを、以前作ったボルタ電池に繋いでじっくりと電気を流し込むと、だな……」
俺は、ガラス容器の底で不気味に沈む灰色の鉛板を見つめながら、ピンと張った導線を繋ぎ直した。
「宿れ! イラパ(雷神)の力よ!! ――よし、これで『鉛蓄電池(二次電池)』の試作第一号、充電開始だ!」
「ち、ちくでんち……? 陛下、電気を『貯める』ってぇんですか!? 瓶の中に雷を閉じ込めるなんて、いよいよ本物の神懸かりじゃねぇですか!」
ソリア親方が髪をかきむしって驚愕する。
「そうさ親方。前に作ったボルタ電池(一次電池)は、使い捨てな上にパワー(電圧と電流)が弱かった。だが、この鉛蓄電池は内部抵抗がめちゃくちゃ低くて、一気に電気を放出できるから瞬間的なパワーが文字通り桁違い(ハイパワー)なんだ。これが量産できれば、将来的に電気メッキ、通信機、果ては電動機まで動かせる、帝国の『神経網』になる!」
……と、大見得を切ったものの、俺はすぐにハァと深いため息をついた。
「ただなぁ……問題は、この蓄電池をフル充電するのに、今のボルタ電池じゃあまりにもパワー(起電力)が足りなさすぎる。つまり『発電機』が要る。そのためには、鉄芯の周りにギチギチに巻き付けるための、絶縁された大量の『銅線』か『銀線』が必要なんだよ……」
「へいか。わたし、銅のさいく、とくいです」
突然、俺の背後から、抑揚のない淡々とした、少し舌足らずな声が響いた。
見ると、そこにはクシリマイの身の回りの世話をしている侍女の少女が、立っていた。
名前はアンタチャ。ケチュア語で「銅っ子」とか「銅ちゃん」を意味する、ジト目が特徴的な無口な子だ。
アンタチャは、懐から取り出した信じられないほど細く、均一な太さの「銅のワイヤー」を差し出してきた。その細さは、現代の針金と遜色ないレベルの超絶技法である。
「おおお!? なんだこれ、めちゃくちゃ綺麗で細いじゃん! 助かる! ……って、待て。アンタチャ、これお前が作ったのか? 上手すぎるだろ、宮殿の侍女の趣味レベルじゃねえぞ!?」
「はい。いとを、つむぐみたいに、銅を、ひっぱる。かんたんです」
「いや、銅の線引き加工(ダイス引き)を『簡単』とか言うな!!」
+アンタチャ+
俺が仰天していると、すぐ後ろからクシリマイがはち切れんばかりの褐色巨乳を揺らしながら、自慢げに微笑んだ。
「ふふ、驚かれましたか兄様? このアンタチャ、実は実家がクスコでも高名な『金物・貴金属細工工房』だったのですわ。手先が異様に器用なものですから、わたくしの髪結い兼、お針子として召し抱えておりましたの」
「金物細工のサラブレッド(技術チート)かよ! よし、決めた!」
俺はクシリマイの両肩をガシッと掴み、真剣な目で詰め寄った。
「頼むクシリマイ、アンタチャを俺に(工房に)くれないか!?」
すると、クシリマイは一瞬ポカンとした後、訳知り顔の笑顔を浮かべる。
「まあ……? お兄様ったら、ついにわたくしの侍女にまで手を伸ばされるのですか? あの子、いつも無表情で何を考えているか分かりませんが、わたくしへの忠義は人一倍熱い良い子です。お兄様の後宮に入っても、側妃の序列を乱したりはしないでしょうけれど……でも、クシリマイとしては、ちょっとだけ複雑な心境というか……」
「違うわい!」
俺は即座に、1秒の淀みもなくツッコミを入れた。
「違う! 誤解だクシリマイ! 俺が欲しいのは彼女の『夜のフォーメーション』じゃなくて、その神がかった『銅線製造の技術力』だ! 発電機のコイルを巻くために、彼女の頭脳と手先を国家規模でハックしたいんだよ!」
「あら? でも、あの医療神官のキリヤだって、お兄様の医療知識を愛していると同時に、お兄様の『男の身体』も毎晩ベッドの上で限界まで愛していますわよ? 結局は同じことですわ!」
「同じじゃない!! キリヤさんは公私混同の臨床実験が激しすぎるだけだから!!」
「へいか。わたし、になん陛下の『コイル』になるの、やぶさかではないです。ベッドの、じっけんも、ミタ(義務)なら、、がんばります」
ジト目のまま、アンタチャが淡々と服の紐に手をかけようとする。
「アンタチャちゃんも服を脱ごうとしないで!? 義務じゃないから! あと、無表情で淡々と迫られるの、なんか新しい角度から精神的ダメージが来るから!!」
「フッ、素晴らしい。ついに電気の独占、および新たな技術者のが確保が完了したわけですね」
本物の眼鏡をキラーン!と邪悪に輝かせたワスカルが、すかさず「アンタチャ国営銅線加工工場の設立案」の帳簿を広げて現れた。
「兄上、アンタチャ殿を電機部門のチーフ技術官に任命します。直ちに発電機を量産し、インカ帝国にイラパ(雷)のネットワークを構築しましょう(眼鏡キラーン)」
「ガハハ! 兄上! 雷の力を貯める大容量の箱か! それがあれば、俺の鉄砲部隊の夜間進撃用に、クソデカい電気の篝火が作れるな! 筋肉の進撃が止まらんぞ!」
アタワルパも鉄製の大砲を担いだままマッハスクワットで大興奮だ。
「さあお兄様! 誤解も解けましたし、今夜はアンタチャも交えて、新開発の『鉛蓄電池』のように、朝まで一気に火花を散らす濃厚な(超絶大車輪・過放電モード)の始まりですわぁ!」
クシリマイが興奮のあまり、汗ばんだ褐色巨乳で俺の顔面をギチギチにホールド(荷電)しにくる。
「陛下、蓄電池の内部抵抗の低さは、夜の『ピストン運動における回転数の向上』に直結します。今夜はアンタチャ様の銅線で陛下をベッドへガチガチに配線(緊縛)し、私と正妃様で朝まで『愛の電流』を流し込み続けて差し上げますね」
キリヤも白衣を脱ぎ捨て、妖艶な褐色スレンダーボディで背後から密着してきた。
「ウフフ、ボクも電気ウナギみたいに、陛下をビリビリにしちゃいます♡」
フェリちゃんまでドレスを翻して参戦。
「待って!! ボルタ電池どころか、嫁たちの愛の起電力が強すぎて、俺の腰のライフゲージがガチで過放電しちゃうからーーー!! 誰か俺の回路に過放電保護回路を挟んでくれーーー!!」
無表情な天才侍女アンタチャの技術により、ついに「発電機と蓄電池(電気時代)」への第一歩を踏み出したニナン皇帝。
インカ帝国は世界最先端のエネルギー大国へのロードマップを爆進し始めたが、今夜もまた、電磁スパーク(オーバーキル)寸前の熱量で大突撃してくる嫁たちの「人間発電所」の中で、骨の髄まで過放電(搾り取られ)させられる運命なのだった。




