第27話 ガラスと硫酸のロンド
「……よし、これで海藻の灰からソーダ灰(炭酸ナトリウム)の抽出は完了。あとは珪砂を混ぜて1000度オーバーの炉で一気にドロドロに溶かす……っと!」
クスコの一角に新設された『ニナン中央化学工房』。
俺はゴーグル代わりに鹵獲したスペイン製のガラス瓶の底を加工した眼鏡をかけ、高炉の前で汗を流していた。
「産業改革と近代医療の発展に、『ガラス』の量産は絶対に外せないからな! フラスコ、ビーカー、顕微鏡のレンズ、それにキリヤの点滴用の薬瓶。全部これがないと始まらない。幸い、ガラスの主成分の珪砂なら、タワンティンスーユのそこら中の山や川に腐るほど埋まってるしな!」
バチバチと火花を散らす炉の横で、耐熱煉瓦を積んでいたソリア親方が、呆れ果てた顔で額の汗を拭った。
「へえ……陛下、あっしは船大工でやすからガラスのことは詳しくねぇですが、今やってることは、まるで地中海の『ヴェネツィアのガラス職人』の秘密工房のようでやすな! あそこの連中も、島に引きこもって灰と砂から極上のクリスタルを錬成して大儲け(ハック)してやすぜ」
「親方、あれを国家規模で、しかもオートメーション(数値管理)でやるんだよ。我が国のノギス規格なら、寸分の狂いもないガラス管が量産できるからな」
だが、俺の文明ハックはガラスだけでは終わらない。
数日後俺は耐熱ガラス製(試作第一号)の密閉装置にの前で、怪しげな黄色い粉末と、ワスカルがチリ方面から大量に買い付けさせた硝石を取り出した。
「よし、次はこれだ。硫黄を焼いた煙(二酸化硫黄)と、硝石をあれこれ反応させて……発生したガスに水蒸気を混ぜて、このガラス管で冷却・収集する。すると……」
ポタポタと、ガラスのビーカーに無色透明の、だがかすかにドロリとした液体が溜まっていく。
「できた! 『硫酸』だ!! 親方、これはただの酸じゃないぞ。化学工業における【産業の母】だ! 鉄のサビ落とし、各種薬品の合成、将来的な火薬の精錬、繊維の漂白……これがあるかないかで、国の工業力が300年加速する!」
「りゅうさん……? 産業の、母……!?」
ワスカルは、ガラス瓶の中で怪しく揺れる液体を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「フッ、素晴らしい。ついに我が国は『酸』による化学工業の覇権までキラーンと掌握するわけですね」
本物の眼鏡を怪しく光らせながら、ワスカルが影から音もなく現れた。その手には、早くも「硫酸を用いた鉱山精錬の効率化計画」と「ガラス製品の対スペイン独占輸出関税案」のキープ(帳簿)が握られている。
「兄上、この『りゅうさん』の製造ラインは国家最高機密に指定し、防衛のためにアたワルパの『鉄砲部隊』で厳重に警備させます」
「ガハハ! よく分からんが、その『産業の母(硫酸)』を敵の鎧にぶっかければ、筋肉を使うまでもなく一瞬でドロドロに溶かせるというわけだな! 素晴らしい筋肉殺し兵器だ!」
アタワルパが鉄製の大砲を担ぎながらマッハスクワットで共鳴する。
「アタワルパ、これは兵器じゃなくて工業薬品だから! 劇物だから絶対に素手で触るなよ!?」
「まぁ……! 『産業の母』だなんて、まさに正妃であるわたくしにぴったりの言葉ですわ、兄様!」
案の定、工房の扉を蹴破ってクシリマイが突入してきた。
「ガラスのフラスコののように、わたくしのはち切れそうな褐色巨乳を毎晩ピチピチに密着させて、兄様との愛の結晶(アティク・アマル皇子の弟妹たち)を、それこそ24時間ノンストップで量産(産業改革)いたしましょう!」
「陛下、ガラスによる顕微鏡の作成は、私の医学神殿における『微生物(牛痘や細菌)の可視化』においてノーベル賞級の進化を意味します」
キリヤも白衣の隙間から妖艶な褐色スレンダーボディを滑り込ませ、俺の首筋に冷たい指先を這わせた。
「ですが、硫酸(産業の母)に負けないほど濃厚で、陛下の骨をドロドロに溶かす『夜の化学反応(臨床実験)』も、今すぐ開始せねばなりません。さあ、シーツ海という名の実験場へ」
「ボク、実験用の白衣に着替えて、陛下の『ピペット(意味深)』をばっちり管理しちゃいます♡」
フェリちゃんまで試験管を手にウインクしている。
「待って!! 硫酸より先に、嫁たちの愛の酸性濃度が強すぎて、俺の腰のライフゲージが跡形もなく融解されちゃうからーーー!! 誰かこいつらの欲望をガラスで絶縁してくれーーー!!」
海藻の灰と砂からガラスを錬成し、さらに近代工業の心臓たる「硫酸」の国産化まで成功させたニナン皇帝。
インカ帝国はついに『大化学工業帝国』への切符を手に入れたが、皇帝ニナン・クヨチは今夜もまた、1000度を超える熱量で全方位から大突撃してくる嫁たちの「人間高炉」の中で、ドロドロに精錬され尽くす運命なのだった。




