第27話 「ピサロ商会」の躍進
「おいフランシスコ兄者、よく聞いてくれ。パナマでの交易の件だがな」
パナマの港町の一角、包帯をようやく外した次男のエルナンド・ピサロが、頭の穿頭術の傷跡(インカ伝統のナイス穴あけ処置)をさすりながら、長男フランシスコ・ピサロに熱っぽく語りかけていた。
「あのタワンティンスーユの化物皇帝には、我らの元相棒で、今や向こうの兵站トップに成り上がったアルマグロの奴を通じて、ガッツリと太いパイプがある。あの大砲だらけの山国とまともに戦うなんて正気の沙汰じゃねぇが、あの新皇帝は話がわかる男だ。ここは奴らの欲しがるものを売って、一儲けしようじゃねえか!」
「フッ、全くだ。黄金を強奪できずとも、貿易でふんだくりゃ同じことだからな」
フランシスコ・ピサロは、キリヤにウイスキーでシャバシャバ洗われて見事に縫合された腹をさすりながら、ふと何かを思い出したように顎を撫でた。
「そういえば……カハマルカで捕まって治療されてた時、あのニナン皇帝がアルマグロに妙な伝言を残していたな。――『もしパナマや本国で、蹄や乳房に変なデカい出来物がある牛を見つけたら、普通の牛より割高で買い取ってやる。ギュウトウするからな』とか何とか」
「……ギュウトウ? なんだそりゃ。インカの未開な宗教儀式か何かの生贄か? 兄者」
首を傾げるエルナンド。もちろん、16世紀のスペイン人に分かるはずもない。彼らの言う「ギュウトウ」とは、前世の現代人であるニナンが天然痘の「ワクチン」を作るために血眼で欲しがっていた【牛痘】のことである!
すでに自家製の抗体で天然痘を克服しつつあるニナンだが、、帝国全土にさらなる完璧な集団免疫を構築するため、パナマのピサロ兄弟を「牛痘の調達業者」として逆利用し始めたのだ。
「まぁ、儀式だろうが何だろうが知ったことか! 出来物のある病気気味のハズレ牛が、普通の牛より高く売れるんだぞ? 願ったり叶ったりだ!」
「違いねぇ! 本国やカリブの島から、乳房の爛れた牛をかき集めてマッハでインカに輸出しよう、兄者!」
ピサロ兄弟は「インカの皇帝は病気の牛を高値で買う奇特な金持ちだ」と大喜びで、さっそくパナマ中の牧場へハズレ牛の買い付けに走っていった。何も知らずにインカ帝国のバイオテクノロジー(近代医学ハック)の片棒を担がされる、哀れな征服者(調達業者)たちであった。
◇
一方、その頃のインカ帝国・クスコ宮殿。
「ふははは! ピサロの奴ら、さっそくパナマで乳房の爛れた牛を買い漁って、オレリャーナたちの新型スクーナー船でこっちに送ってくるらしいぞ!」
俺は作戦室で、アルマグロから届いた貿易報告書を見ながら勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「素晴らしいです、兄上。これで我が国の天然痘に対する『免疫の壁』は、100%の確率でキラーンと完全無欠になりますね」
ワスカルが新調した本物の眼鏡を冷酷に輝かせ、クスコ全土の「牛痘接種特設会場(ミタ動員計画)」の図面を広げる。
「ガハハ! よく分からんが、兄上の『ギュウトウ筋肉(免疫)』があれば、スペインの持ち込む目に見えん呪いも完全制圧に捻り潰せるわけだな!」
雷鳴将軍アタワルパも大砲を磨きながら筋肉を震わせている。
「お兄様、素敵ですわ! 出来物のある牛をハックして国を救うだなんて、クシリマイもう辛抱たままりません!」
案の定、背後からクシリマイが汗ばんだ弩級の褐色巨乳で俺の後頭部を包み込み、強烈なホールドを仕掛けてきた。
「さあ、国全体の衛生管理が終わったら、今夜はわたくしのこの豊かな『乳房』の健康状態も、お兄様の長槍で夜通し念入りに検査してくださいな♡」
「陛下、クシリマイ正妃の言う通りです」
医療神官キリヤが、目を爛々と輝かせながら黒曜石のメスと銀の中空針(点滴用)を両手に持って迫ってきた。白衣のボタンはすでに全開である。
「牛痘による免疫獲得のメカニズム、私の医療神殿でも最優先で臨床実験を行う必要があります。今夜はフェリのロープで陛下を完全にベッドへ固定し、体温が40度に達するまで濃密な『疑似発熱ピストン運動』を繰り返していただきますね」
「ボク、お医者さんごっこ用のコスチュームに着替えて待ってますからね♡」
ドレス姿の男の娘フェリちゃんまでナース風の布を頭に巻いてウインクしている。
「待って!! 牛痘のワクチンは欲しいけど、俺の夜のライフゲージが完全にパンデミックを迎えてるんだけど!! 誰か俺に免疫をくれーーー!!」
ピサロ兄弟を都合のいいバイオ素材調達業者として使い倒しし、帝国の完全無欠な近代医療化を確定させたニナン皇帝。
世界最強の「健康・鉄鋼・大砲帝国」へのロードマップは1ミリの狂いもなく進行していたが、今夜もまた、牛痘のウミよりも濃厚な愛を注ぎ込んでくる嫁たちの超絶槍衾の中に、跡形もなく搾り取られる運命なのだった。




