第21話 ジャングルで2千本の釘を打ち出した男
この男ドミンゴ・デ・ソリア。
史実のアマゾン探検では、ジメジメした地獄のジャングルのど真ん中で、手持ちの鎧や剣、果ては馬の蹄鉄までひっぺがし、即席の炉を作って2千本もの船釘を鍛造し直したという、狂気じみた技術スタッツを持つ「ガチの超人職人」なのだ。
俺はソリアの手をガシッと握りしめた。
「頼む、船より先に、そ『鉄の錬成』のノウハウを我が国に教えてくれ! 知っての通り、タワンティンスーユには未だ鉄器が無いんだ。青銅砲じゃ、いつか限界が来る!」
「へ? 鉄のノウハウでやすか? ようがす、只、あっしは一介の船大工。専門の鍛冶屋じゃねぇんで『多少』なら解りやすが……出来る限りやってみやしょう」
ソリアは頭を掻きながら気楽に笑ったが、俺の脳内ツッコミは止まらない。
「(多少ってレベルじゃないの知ってるんだけど!? ジャングルで現地調達して鉄釘量産した男の『多少』は、現代の国家資格保持者レベルなんだよなぁァァ!!)」
「兄上、これは大事件です。鉄器の国産化が成功すれば、我が軍の超長槍の穂先も全て鉄製(ガチ仕様)にアップデートできますね」
ワスカルが音もなく背後に現る。その顔面には、かつて片眼鏡風に掛けていたピアスではなく、ピサロ隊から合法的に鹵獲して職人にフィッティングさせた「本物の眼鏡」を邪悪にキラーン!と輝かせた。すでに脳内で鉄鉱石の採掘ルートを計算している顔だ。
「ハハハ! 鉄の槍に鉄の鎧か! 素晴らしいぞ親方! 俺の筋肉が、さらに重厚な鉄の輝きを求めて咆哮しているッ!」
アタワルパも大砲を抱えたまま、ソリアの筋肉(職人仕様)を評価してフンスフンスと鼻息を荒くしている。
「素晴らしいわ、親方さん! これで兄様の『夜の長槍』も鉄のようにカチカチに――」
「クシリマイ、お願いだから初対面の外国人職人の前で下ネタのコンキスタドールをかまさないで!?」
「フフ、鉄の精錬による高熱と、そこから生み出される医療用メスの切れ味の向上……これは新たな臨床実験のデータが必要ですね。陛下、今夜はベッドの上で、製鉄よりも熱い濃厚な――」
「キリヤさんも白衣の隙間から褐色肌を見せつけながら夜の熱力学を語るのやめて! 溶けちゃうから、俺の理性が!」
「ウフフ♡ 陛下がフニャフニャになっちゃったら、ボクが鉄のように硬く……」
「フェリちゃんはもうパナマに帰ろうか!?」
チート船大工ソリアの参入により、まさかの石器・青銅器時代から一気に「鉄器時代」への超跳躍(文明ハック)が始まった新生インカ帝国。
有能すぎるスカウト人材と、一向にブレーキの壊れた嫁たちのカオスな大突撃に揉まれながら、最高皇帝ニナンの世界線は、いよいよ誰にも止められない領域へと突き進んでいくのだった。




