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第10話 狂信者トレパネーション

「え? 穴開けて、脳の圧力を逃がす……?」

俺の元に入り浸るキリヤからインカ伝統の外傷医療について聞き、ひっくり返りそうになっていた。

「はい棍棒で頭蓋骨骨折した兵士には、頭皮を切開して骨に丸い穴を開ける『穿頭術トレパネーション』を施します。かなりの確率で一命を取り留めるのですよ」

「中世だよな!? なんで麻酔もない時代にガチの脳外科手術が成功してんの!? インカ文明の医学スタッツどうなってんだよ!」キリヤ「麻酔は秘伝のコカその他の薬草で施しますが?」

マチュピチュの石造りと言い、この国はたまにオーバーテクノロジーな技術ハックをかましてくるから恐ろしい。

「あ、でも、流石にアルコールでの徹底消毒とか、失った血を補う輸液とか、お腹を開けたときの腹腔洗浄とかの概念はないんだよね?」

俺が前世の医療ドラマの記憶をなんとなく口にすると、キリヤの目がカッと見開かれた。その知的スレンダーな体が、ガタガタと歓喜で震え出す。

「しょ、消毒!? 輸液!? 腹腔洗浄!? 陛下、それは一体どういう術式ですか!? 傷口を聖なる液体で清め、失った命の水を体内に直接戻し、内臓を洗う……!? 素晴らしい、医学の概念がひっくり返りました! ぜひ、ぜひその詳細をご教示ください!」

「い、いや俺も概念しか知らないんだってば! 素人が生半可に手を出したらガチで医療事故になるから!」

キリヤが鼻息も荒くグイグイと迫ってくる。その横では、なぜかクシリマイが「さすが兄様! 早くその『体液の交換(意味深)』の技術をクシリマイにも施してください!」と、豊かな褐色巨乳を俺の腕にギチギチに押し当てて参戦してきた。妹よ、乳圧ではなく血圧とか点滴の話をしてるんだよ!

だが、ピサロとの戦争になれば、銃や剣による外傷治療は必須。概念だけでも形にする価値はある。

「待てよ……輸液をするなら、点滴用のゴム管が必要だな。確かゴムは、野生のゴムの樹液に硫黄を混ぜて、油が煮立つくらいの温度(140度くらい)で加熱すれば、弾力のある『硫化ゴム』になって固まるはず。……あと、体内に刺す中空の針は、この国の超絶技巧の銀細工職人に頼めば、細い銀の管を作れるかもしれないぞ……?」

俺がブツブツと現代知識の引き出しを開けてロードマップを語り出すと、キリヤは感動のあまりその場に両膝をつき、祈りを捧げるように俺を見上げた。

「ゴムの木の汁に、硫黄と熱……! 銀の空洞の針……! 陛下、あなたはやはり、この世界に医学の夜明けをもたらすために降臨された現人神です……! 一生ついていきます!」

「完全に目がガチの信者のそれじゃん!!」

「フッ、兄上の神がかった医学チート、ワスカルめが早速予算と銀細工職人をマッハで手配しておきました。もちろんキープ(紐)への特許登録も完了です」

背後から音もなく湧き出たワスカルが、ピアスを最速でキラーン!

「兄上! 兵士たちの血管に銀の針をブスブス刺す訓練ですね! まずは私の大胸筋で強度テストを!」

「アタワルパ!静脈輸液なのに大胸筋に針刺してどうするんだよ! 」

天然痘の次は、まさかの古代インカ版・近代医療センターの設立へ。

俺のちょっとした思いつきが、有能すぎる弟ズと熱狂的なチート嫁候補たちの手によって、凄まじい速度で具現化されていくのだった。


インカ帝国の遺跡では頭蓋骨損傷後に外科手術を受けて回復、生存した痕跡を示す遺骨が結構出てたらしいです。地域によっては生還率は7割に迫ったという説もあるそうで・・・インカ凄い。麻酔とかどうしてたのかは未だ謎だそうです。

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