8 孤高なぼっち魔王は、暇を持て余したメイドに付きまとわれる
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中ボスによって「人間界と魔界との境の森への侵入者を検知」という連絡を受けていたが、その後それ以上の異変が感じられずに様子見することになっていた。
数日様子を見ていたが、どうにも心がざわつく。居ても立っても居られずに魔王は森に視察に行く事にした。
本来は魔王が出向くほどではないが、ミヤビのような異世界転移人が現れた事もあり、なんらかの大いなる意志がこの世界に介入している気がしていた。
無いとは思うが、また「神の遊び」が始まってしまうかもしれない。「神が選んだ異世界転生者による魔王討伐」という、迷惑かつ悪質極まりない遊戯が。
「では、すぐに戻ってくる予定だが、もしなんらかのトラブルが起きたら――」
「承知しております。有事の際のサポートはお任せを」
「うむ」
中ボスと打ち合わせをして、出立の準備を行っていた最中に、ミヤビの呑気な声が玉座の間に響いた。
「あれれ? マオーさんどこかお出かけですか?」
「……気づかれる前に出るつもりだったが、以前といい、貴様のその野生の勘はなんだ?」
「むぅ。まるで私が動物みたいな言いざまですね。だってもうお皿洗い終わったんですもん」
ミヤビとの約束である「ここに置いてもらってる以上、何か仕事をしたい」の為、畑での収穫に加えて皿洗いなどの雑事を任せる事になっていた。畑仕事でも感じた事だが彼女は意外にも手早く、筋が良かった。これなら皿洗いを任せていいだろうと判断が下った。
尚、他の事はまだ任せていない。この世界には魔道具と呼ばれるものがあり、繊細で取り扱いが難しいものもある為にミヤビに触れさせて壊されたら面倒だからだ。
「皿洗いが終わったのなら、城内を徘徊でもしてろ」
「む。徘徊って言い方ちょっと嫌ですね。もう城内は見飽きちゃいましたよ。行ける所も制限されてるし、本当は城の外に出たいのだけど『危ないからダメだ』と特定の場所以外は許可が出ないじゃないですか」
「当たり前だ。ここは魔界の深淵だ。本来は貴様のような人間がやすやすと立ち入れる場所ではない」
「と言われても、何故かここに来ちゃったからしょうがないんですよね~。まぁ『神様』のやる事だからよくわからないのはいつもの事ですけど」
ミヤビの何気ない発言に魔王と中ボスは顔を見合わせる。
『神様』
そうだ。ミヤビも神の意志によってこの世界に来たのだ。しかもわざわざ魔王の傍に転移させられた。
本人は「神さまはよく私を別世界に落とす」と言っていて深く考えてはいないし、神による勅命も受けては無いらしいが『無自覚の異世界人による魔王討伐という悪戯』を神が計画してないと言い切れない。
「ねえ、どこに行こうとしてたんですか? 私も連れて行ってくださいよ」
魔王と中ボスの考えなど知る由もないミヤビは呑気に声をあげる。
「近隣の森だ。凶暴な魔物が跳梁跋扈している危険な地でもある」
だから貴様は連れて行かないという意図を込めたが、ミヤビはそれに一切気が付かない様子だ。「ふむふむ」と軽く頷きながら魔王の話を聞いている。
「ああ、そういえばこの城の周囲にある森は特に立ち入ってはいけないと注意を受けてましたね」
「森にはヒトを獲物としか認識していない魔物も多数生息しています。様々な手段でヒトをおびき寄せ、食らおうとします」と中ボスが補足する。
「む、それは厄介ですね」
これで諦めてくれたら、という魔王と中ボスの思惑が通じずにミヤビは「でもでも、マオーさんと一緒なら安全安心ですよね?」と言い出した。
「連れて行かん」
「え~!? マオーさんのケチー。鬼~悪魔~魔王っ!」
「なんとでも言え」
「むっ! 耐性がついてしまいましたね。どうしましょう」
魔王とミヤビの子供じみた口喧嘩を聴いて、中ボスはふうとため息を漏らした。
このままでは無為に時間が過ぎるだけだ。まだ朝早い今の時間は森の危険度も低い。魔物たちが本格的に目覚める前に調査を済ませたい。
そう考えた中ボスは二人の間に割り込むように立ち、ミヤビに対してとあるものを差し出した。
「どうせ止めても無駄でしょうから行くのならせめてこれをお持ちください」
中ボスが差し出したものは腕輪だった。シンプルな形状だが全体的にうっすらと光り輝いており、ただの装飾品ではないのが一目見てわかる。
「これは??」
「帰還を念じると身に着けている人間を『ホームグラウンド』へ転移させる魔道具です」
「ほーむぐらうんど……」
「いわゆる『根拠地』ですね。この世界でいうと、最後に休んだ安全が確立されている場所の事を言いますが」
「そんなことが出来るんですか? それは便利ですねっ!!」
「ええ、そういう風に設定してます。あなたの場合はこの城ですね」
元は高名な魔術師であった中ボスは魔道具の制作にも長けている。この城の魔道具のメンテナンスなども彼が一身に受けている。
尚、この世界では魔道具自体が希少な物だ。
そうと知らないミヤビは気軽にそれを受け取りほほ笑んだ。
「なるほど。ありがとうございます。中ボスさん!」
2人が和やかに会話をしている時にずっと「中ボスめ、説得を諦めおって……」という魔王の恨みがましい視線が中ボスに注がれていた。




