4 孤高なぼっち魔王は、味にうるさいメイドに料理を褒められる
noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます
https://note.com/kirakiraspino/n/n1ac0de4b01e3
「貴様は――」
『主人と別れて単身この世界に来て寂しいのか? 人間と居る方がいいのか? 人間について問いたのは人間の里に興味があるのか? 行きたいのか?』と言いかけてやめた。それを聴いてもどうすることもできない。ゲートとやらがここで再び開くのならミヤビはここ以外に居る選択肢しかないのだ。
「うん?」
「なんでもない。……いや、好き嫌いがないように見えるが、食べられないものはないのか?」
ミヤビが魔王に対してそうしたように踏み込むべきではない。今回たまたまここにたどり着いただけの人間だ。しかもいずれ帰還する人間。
「うーんっと、チーズが食べられないですね」
「ふむ」
「なので、今後とも、チーズの料理は出さないでくださいねっ! あ、マオーさんたちは好きに食べてもらってもいいけど私の料理にはチーズを抜いてくださいね」
「今後は全てチーズ料理にしてやるか」
「むきー!! なんてことを! そんなことをしたらマオーさんを一生恨んでやりますからね! 食べ物の恨みは怖いんですから!!」
「……確かに貴様の恨みは呪いと化しそうだな」
「そうですよ。ぷんっ! 出来るメイドは呪いだって強いんですからねっ!」
果たして「出来る」という単語をきちんと理解してるのだろうかと思いつつ、傍に控えていた中ボスは食べ終わった皿をトレイに乗せていく。礼節など気にしないと思っていたが、意外なことにミヤビはペコリと頭を下げる。
「あっ! もしかして私が下膳すべきだったでしょうか?」と、慌てて椅子から立ち上がろうとするのを中ボスが制する。
「いえ、お構いなく。下手に手伝われると皿を割られそうですしね」
「むむっ。それは無いとは言い切れませんね! なんてたって常に主様に『動くな。喋るな。息するな』と言われるくらいでしたからね」
「威張るな」
というか、そんな扱いまでして何故主様と呼ばれる令嬢はこのメイドをクビにしなかったのだ。
あまり仕事が出来るようには見えない。
もしかすると、希少な「異世界転移者」だからか? と魔王は思い至った。
この世界でもかつてたまに発生していた「異世界転生者」「異世界転移者」は、世界に「知識」という恩恵をもたらしていた。
もっとも、旨そうにフルーツを食っているこの目の前のメイドがそんな有益な「知識」を持っているとは思い難いが。
「所でさっき言っていたが、貴様は荷物を一切持ってなかったはずだが?」
「もぐもぐ。ああ、さっきの話の続きですね。パジャマに限らず、私は『欲しい』と思ったものが即座に出せる『祝福のポケット』を異世界転移の時に神様から貰ったんですよ」
祝福? この世界で言う所のスキルのようなものだろうか? と魔王は中ボスに視線を送る。魔族であるこの中ボスはステータス鑑定能力を持ち、それぞれの生命体が持っているというスキルを視る事が出来る。ミヤビの言葉の真偽を確かめろと目配せをした。
しかし中ボスは軽く首を振る。訝しんでいるとミヤビには聞こえないようにと、念話が飛んできた。
『この来訪者はスキルどころかステータスがまるで読めないのです』
『なに……? どういうことだ?』
『恐らくは異世界転移者だからでしょう。古代文字でもない得体のしれない文字らしきものしか見えないのです。元の世界の文字なのかもしれませんが、こちらの世界では見たことのないものです』
『……ふん』
「――ということでですね。私のこのメイド服にはポケットが付いていてそこから色んなものが無制限にリスクなく出せるんですよね」
魔王と中ボスが念で会話中にもミヤビの話は続いていた。
念話中にぼんやりと聞いてはいたが無制限、しかもなんのリスクも無いというのは途方もないスキルだ。
この娘は予想以上に神の寵愛を受けているようだ。
「でも、それは私以外には使えないんですよね。というか、ポケットすら視認できないみたいですねぇ。もぐもぐ」
言われて魔王はミヤビの服に視線を送るが、確かにポケットのようなものは見えない。エプロンの下にあるのかもしれないが、それを確認する気はない。
「取り出せるものに制限はないのか?」
「はい! 自転車みたいな大きいものだろうが、宝石のような高価なものだろうが大丈夫みたいですよ。あ! でも、生きてるモノは駄目みたいですね」
「ジテンシャという単語は分からないが、宝石がノーリスクで取り出し可能ならとんでもない錬金術ではないのか?」
無制限に金を稼ぐことが出来る。もしかしたら金そのものまで出せるのかもしれないが、その気になれば億万長者にすらなれる。
「でもそれを売るとその地の宝石の価格が破壊されちゃいますよね。だから私はそういうことはしたくないですねぇ」
意外にもしっかりとした倫理観を持ち合わせている。能天気に見えて案外物事を考えているのかもしれない。
「貴様の能力を知った輩に狙われるのではないか?」
「平気ですよ。私強いんですもん!! そういう悪い人はぎったんぎったんにしちゃいますよ。それにこういうのを話すのは限られた人相手ですもん」
出会って1日も経っていない相手に語っているではないかとその場の雰囲気を感じたミヤビは「大丈夫ですよ。私これでも人を見る目がありますから! マオーさんたちは悪い人じゃないって感じました」
魔界を統べる魔族の王に対して悪い人じゃないとはどういうことだと思う魔王に気付かないようで、フルーツを綺麗に平らげたミヤビは食後の茶を堪能している。
「くだらん」
「あ、でもでも。今言ったように宝石の類やこの世界に存在しない道具の売買はしたくないので、滞在費は私がここでメイドとして働く事でお支払いしますね」
「お前に何ができる?」
「出来る範囲でならなんでもしますから、遠慮せずにお申しつけください!!」
「――考えておく」
「はいっ!! 所でマオーさん。どの料理も美味しかったですよ。ごちそうさまでした!」
「……ふん。貴様も料理くらいは学んでおくべきだ」
「ぐぬぬ。でもどうやら私は大雑把な性格らしいので、食材を切る事は出来ても細やかな味付けがダメみたいなんですよ。どうしましょうか」
ふうと大きなため息をつくミヤビ。
魔王の料理を「旨い」と称賛する味覚はあるようだが、味の調整の方は苦手らしい。かといってこんな異邦人に料理をイチから教えてやる義理もない。
魔王の出した結論はというと――。
「……動くな。喋るな。息するな」
ゲートが開き、帰還するまでは放置するのが一番だと判断した。
「ぎにゃっ!? うう、酷いです、マオーさ~ん……」
「……ふん」
魔王がこの城の主になって恐らくは初めて、賑やかな朝食を過ごしたのだった。




