3 孤高なぼっち魔王は、食いしん坊なメイドに朝食を作る
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朝、魔王が調理をしていると能天気な声が聞こえた。調理場の匂いを嗅ぎつけてやってきたらしい。
「おはようございますっ!! わあ~。すごく美味しそうなスクランブルエッグですね! というかこの世界もスクランブルエッグってあるんですね。基本的にどこの世界も同じなんですねぇ」
食事面については困る事がなさそうでよかったですと、ミヤビはホッと胸をなでおろす。
「それにしてもマオーさん、手際良いですね~」と、言いながらミヤビが満面の笑みで近づき、卵の甘い匂いを堪能している。
面倒だなと魔王は率直に思った。食事の準備が出来たら、ミヤビの分は中ボスによって部屋に運ばせようと思っていた。共に朝食をとる気はさらさらなかったし、こうして厨房に押しかけて来るとも思わなかった。
魔王はこの魔城でずっと暮らしていた事もあり一通りの家事はこなせるし、強いこだわりを持っている。異世界人に邪魔をされたくない。
ふとミヤビに視線をやると昨日と同じメイド服だ。これで寝ていたのだろうか、寝づらそうだなと思っていた所、心の中が読まれたかのように「ちゃんとパジャマを着ましたよ」とさらっと返された。
その言葉に魔王は違和感を持った。
「貴様、荷物など持ってきてなかっただろうが」
それにここには女性物の服など一切ない。どういうことなのだろうか、意味が分からないと訝しむが、ミヤビは魔王の握るフライパンの中身にしか興味がないようだ。
「まぁ、それはおいおいと説明しますよ。う~ん。それにしてもホント美味しそう」
「ふん。庭で放し飼いにしている火吹きドードーの産みたて卵だ、絶品と言われてる代物だぞ」
火吹きドードーの卵は人間にしてみたら危険なA級魔物で卵の採取が困難。人間はそれを口にできる事がほとんど無い高級食材だが、魔王にしてみたらただの鳥にしか過ぎない。
調理に拘る魔王にとって、火吹きドードーの産みたて卵のスクランブルエッグは毎朝の食卓に欠かせない。
「へぇ~。そういえば、昨日庭でちらっと見ましたね。ダチョウのような大きさの鳥さん」
頬に人差し指をあてて記憶を探る仕草をしている。ダチョウというものは分からないが、世界が違っても似たような鳥がいるものだなと魔王は思った。
そういえば先ほど「基本的にどの世界も料理が同じ」と言っていたか。
ミヤビの話を聞くともなしに聴いていると、スクランブルエッグが丁度出来上がった。あまり火を入れ過ぎるのは良くない。
「部屋に戻って一人で朝食を喰え」と言いたい所だが、これまでの言動や行動からして恐らくミヤビは言う事を聞かないだろう。
「運ぶのは得意なんだろう。とっとと食卓へと持っていけ」と、魔王はフライパンの中身を皿に移し替える。
「ハイ! お任せください!!」
意外にもミヤビは手際よく料理をトレイに乗せていく。何度も往復しないようにと効率よく運べるようにきちんと食器の置き方を考えているようだ。
「さぁ、魔王さんも食卓にいらしてくださいね」
「ふん」
それから数分後、食卓。
両手を胸の前で合わせ「いただきます」という面妖な呪文を唱えた後、ミヤビは早速スクランブルエッグを頬張る。
「うーん、想像以上に美味しいですね。ふわっふわな炒め具合のスクランブルエッグ。もぐもぐ。このクロワッサンもその辺のパン屋さんにも負けてない焼き上がりですね。むむっ、やりますねマオーさん」
「黙って食え」
「え~? おしゃべりしながらの食事の方が楽しいですよ。もぐもぐ」
器用な事に、耳障りな咀嚼音は立てずに品よく食べながら喋る。会話をする時にも相手に口の中が見えないように手で口元を隠すなど配慮をしている。
公爵令嬢のメイドとして働いていたと言っていたが、その辺りの躾はきちんとされているようだ。
「このサラダもしゃっきりとしていて新鮮そのものですね。城の周りの森で採れたものですか? もしかしてドレッシングも手作りですか? 凝ってますねぇ~」
「……畑で採れたものだ」
「へぇ~。畑まで作ってるんですね、こまめですねぇ。もぐもぐ。自給自足ってやつですか? 人里に買い物に行く事は無いのですか?」
「……調味料などは購入するが、滅多に行かん」
「そうなんですか? 人間お嫌いなんですか?」
「嫌いもなにもない。関心がないだけだ」
貴様も含めてなというニュアンスを込めるが、ミヤビは反応しない。聞こえてはいたはずだが、クロワッサンを食べやすい大きさにちぎると口に入れてじっくりと味わうように咀嚼している。目を細めて食べる様がそれだけで「美味だ」と伝わってくるようだ。
一旦時間を置いてミヤビは「まぁ、考え方は色々ありますしねぇ」としれっと返す。予想外の答えだった。
「……意外だな」
「ふぇ!? 何がですか?」
「いや、てっきり『人間ともっと触れ合うべきです、このぼっち』と罵ってくるかと思ったが」
「失礼な。これでもヒトの考えは尊重するくらいは出来ますよ」
出会った時の開口一番がソレだったし、魔王である我をヒト呼ばわりするくせに何が尊重だと思わなくも無かったが、反論するとまたややこしくなりそうだから放置する。
その間もミヤビは食事を楽しんでいる。
「昨日は『こいつ』呼ばわりされたからちょっと嫌味を言っただけですよ」
と言われても、絶対君主である魔王にとっては人間風情には敬意を払う必要もない。なので、魔王にはミヤビが気に障ったというのがいまいち理解できないでいた。
そう。ミヤビは自分たち魔族とは違う人間なのだ。ミヤビにしても、魔族とは初めて接したことだろう。
話を聞く限り悪魔みたいな主様に仕えていたらしいが。




