2 孤高なぼっち魔王は、無能なメイドに居候を持ちかけられる
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さて――。
ミヤビと名乗るこのメイドの処遇を考えなければならない。実に厄介な人間が迷い込んできたものだ、と魔王改めマオーは悩む。
先ほどまではこの娘を城から追い出して放置するかと考えていたが、これまで会話をしていて感じた事だがどうやら一筋縄ではいかない人物らしい。
非常に面倒だが、この異世界人を人間の里に送る事自体は可能だ。だが魔王に対しても恐れを抱かずに傍若無人なふるまいをするこの女性が果たして人間の世界でまともに生きられるのか。
ただでさえ服装がこの世界には相応しくないものだ。閉鎖的な考えを持つ人間たちがこの自称異世界からの来訪者をどう扱うのかと考えると、憂鬱になる。
見た目は悪くない若い女性。しかも無知。悪しき考えを持つ人間たちに利用されるのが目に見えている。
人間には関与しないという考えだが、みすみす不幸になるとわかっていながら放置するわけにもいくまい。
さてどうするものかと考えていたら、ミヤビの方から口を開いた。
「あの~。良かったら私をここに置いてくれませんか?」
「うん?」
「私、過去に何度か異世界を転移っていうか移動をしたことあるんですけど、移動の為のゲートって来たところに発生することが多いんですよね。そこからなら安定して元の場所に帰る事が出来るんですよ」
それ以外の場所にもゲートが出来るのか、そしてその正規のゲートを使用した場合どこへ飛ばされるのかと気にならなくも無かったが、あえて魔王は口にしなかった。
下手に神の事情を詮索してまた「魔王討伐」というくだらない遊戯が始まっても困る。
どうせすぐにこの女は元の世界に戻るだろう、必要最低限の事だけ聞ければいいと考えた。
「ふん……。そのゲートとやらは次にいつ発生するのだ?」
「それがですねえ!!」
ミヤビは内緒話をするように口に片手をあて魔王に顔を寄せる。つられ魔王も彼女に対して耳を傾ける。すると、ふわりと花のような香りが鼻をくすぐる。
「わからないんですよね!!」と、あっけらかんとミヤビは笑った。
「……マオー様、このニンゲン余裕がありますよね」
「お前もマオーと呼ぶのか、我を」
「しょうがないじゃないですか、ついうっかりこのニンゲンの前で真の名で呼ぼうものなら魂を縛られてしまいますからね。ですのでマオーさまも私の事は中ボスとお呼びください」
「うむ……」
ミヤビの提案を受け入れるのは業腹だが、リッチの言う事も確かだ。日ごろは名前で呼びあっているが、いつもの習慣で名を呼ぶと面倒なことになる。ちなみに魔族同士なら「真の名の束縛」は適応されない。
「いたし方あるまいな」
「じゃあ、ゲートが開くまでここに置いてもらうってことで話は決まりましたか?」
そんな魔族サイドの苦悩も知らずに能天気にミヤビは問う。
「ゲートとやらが開いたら即帰れ」
「ハイ! それはもちろん!! 私が居ないと主様は悲しがってしまいますからね!」
自信過剰な女だ。絶対に主様とやらは悲しまないだろうし、なんならこのメイドが姿を消していても気づいているかどうかわからない。
「メイド――侍女と言っていたな。お前は何ができる?」
魔城は広いが、侍女と呼べる存在は居ない。日夜魔王が自分で家事を行っている。暇を持て余している魔王の唯一の趣味兼日課ともいえる。
「え? うーんと、食べる事ですっ!!」
「マオー様、どうやらこちらの世界とあちらの世界では『侍女』という役割は違うようですね」
「そうだな。メイドという呼び名はただの無能を指すものだったか」
「むぅ、失礼な。私は出来るメイドですもん。お掃除を担当してたんですよ。ただ、主様からは『あなたが本気を出すと余計に汚れるから命じるまでなにもしないこと。率直にいって迷惑だわ』と注意されてるだけですもん。ぷん」
掃除が担当という割に、雇用主から「逆に汚れる」と注意されるのはどういうことだと不思議に思いながら魔王も中ボスもスルーした。先を促さないと話が進まない。
「……料理は?」
「運ぶことならできます!! カツ丼30人前だって、サービングカートに乗せて迅速にお届けできますよ! あっつあつのままお届けできます!」とミヤビは胸を張る。
カツドンとやらの言葉の意味は分からないが30人前だとか、公爵家とやらはどれだけの人間が住む屋敷なのだ。
「あ、30人前といっても、主様おひとりのお食事ですけどね。それを3食、そしておやつ、夜食として運んでるんです。毎日くたくたになりますよ」
……尚更意味が分からない。主様とやらはどんな人物なんだ。流石は、こんな侍女を雇う雇用主と言ったところか。先ほどまで娘に抱いていた微かな同情心があっという間に霧散した。
「話していて疲れてきた」
頭痛もしてきた。何故こんな女が我の城に現れたのだと魔王は思った。
「同感です。どうやらこの侍女は仕事を与えずに放置しておく方が吉かもしれませんね」と、中ボスももはやミヤビに遠慮せずに彼女の前で随分と失礼な発言をする。
ミヤビは「むぅ。なんか人聞きの悪いことを言われてる気がしますよ」と軽く頬を膨らませる。
「おい、女。とりあえず貴様は何もするな」
「むぅ? つまり、ぐうたらしてろってことですか?」
「貴様の能力を見て与える仕事を判断する。それまでは勝手なふるまいをするな、いいな」
「はーい。理解はできないけど了解しましたー。ぶーぶー」
「不貞腐れるな、すぐにでも追い出すぞ」
「え~。マオーさん、キビシー」
「ふん、我は魔王だぞ」
「まぁいいや。じゃあしばらくの間、お世話になります」
ミヤビは純粋な笑顔で魔王に対して片手を差し出す。「握手」を望んで出した手は素っ気なく払われる。
「図に乗るな、人間風情が」
「ぶーぶー」
「うるさい黙れ」
「ぎーぎー」
「さっきからなんだその奇妙な鳴き声は」
「にゃーにゃー」
「やかましい。おい、中ボスとっととこいつを客室にでも連れていけ」
「はーい。流石に私も疲れちゃいました。じゃあ中ボスさん案内をお願いしますね。マオーさんもお休みなさ~い」
明るい笑顔で魔王に手を振るミヤビ。だが、それに対して魔王からの反応は一切なかった。
「……ふん。早くゲートとやらが開くことを祈るばかりだな」
こうして異世界人のミヤビと魔王と中ボスとの奇妙な同居生活が開始したのだった。




